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アラニュエの森  作者: あわふじ
第1章 森から始まる
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16/18

*もじ

思った以上に帰りが遅くなってしまった。


明るくなった空を見上げて、その眩しさにロトは目を細める。


「まさか学園で夜を明かすとはねえ」


朝までには帰ると言って家を出てきたが、もう昼だ。


タツ先生や他の先生も交えて話し合っていたら、気づいたときにはこんな時間になっていた。


もし受け持ちの授業があったら帰れなくなるところだった。


早く帰ろう、と足早に学舎を出た。


門番に軽く頭を下げると、目を丸くされた。


昨日の夜と同じ人だ。


一度家に帰って、また出勤してきたのだろう。


「ロト先生、今お帰りなんですか?」

「そう、話が長引いちゃって。いつもお疲れ様」

「お疲れ様です」


ふわあ、とあくびを一つしてから、ロトは箒に乗る。


また箒から落ちる、なんてことはしないようにしたい。


家に向かって空を飛びながら、街をぼんやりと眺めた。


いつも通りで、特に変わった様子もない。


今度は森に目を向ける。


結界の外から見れば何の異変もないただの森だが、少しでも結界の中に入ると宇宙船が目についてしまう。


木々の緑の中で、大きな白い物体はかなり目立つ。


まわりの木は倒れているのだからなおさらだ。


森の結界のおかげで、宇宙船が落ちてきたということは、学園や街の人たちにはまだ知られていないらしい。


「目くらましでもかけないとダメかな……あのままだとやっぱりまずいよなあ」


上空に浮かんだまま、ロトはしばらく考える。


この森は師匠から譲り受けたものだ。


住んでいる家も元々は師匠のものであり、森の奥にある。


街に近い区域は好きに出入りしていい、と言っているため、街の人たちもよく森へ出入りしているのは知っている。


ただ、森の上空は飛ばないように、と街の人には伝えていた。


森に入ってある程度の距離から、上空には結界が張られている。


他にも、森の奥になると家へ続く道以外は結界が張ってある。


この結界はロトが張ったものではなく、ロトの師匠が張っていた結界。


ロトの師匠は人との関わりを嫌い、森に人が近づかないように何重にも結界を張っていた。


その結果、森の結界は結界の中でもかなり強力なものになっている。


この結界も、師匠からそのまま引き継いだ。


師匠はどうやら、ロトにも結界を管理する権限を渡してくれていたらしい。


結界の内外や、結界自体に異変があったときはロトでも分かるようになっている。


うーんと考えながら、ロトは家に向かって下りていく。


またあとで考えよう。


庭に着地してリビングへ目を向けると、スクと鹿野が机に伏せていた。


「あれ」


ロトは目を丸くする。


ここで寝ているということは、ロトの帰りを待っていたのか。


申し訳ないことをしたな、と思いながら、そっと家の中に入った。


二人に毛布をかけてから、積み重ねてあった藤田の本を手に取る。


少し前に、藤田たちがこの本を囲んで話し合っていることがあった。


話の内容から察すると、宇宙船の修理ができるかどうか、というものだったらしい。


「無理だ」と言う鹿野と「やってみなきゃ分からない」と言う松原に挟まれ、藤田が困ったような顔をしていたのは覚えている。


おそらく、この本が宇宙船の修理に何か関係している本なのだろう。


文字が読めないから、ロトとスクは三人が持っている本の内容は分からないし、三人も二人が持っている本の内容は分からない。


文字が読めさえすれば、少しは状況が変わるかもしれないのだ。


「うわ、なんかそんな魔法あったと思うんだけどな……あの魔法なんだっけな……」


顔をしかめたロト。


言語通訳は、今までにも使ったことがある魔法だった。


ただ、文字を読めるようにする魔法は今まで使ったことがない。


師匠は何か使っていたような気がするが、はたしてあれは何の魔法だったか。


「アンテルプレート……いや、これは違うか……インテルプレテ……インテルプレテ?」


疑問系で唱えたものだったが、なにやら文字が反応した。


あ、とロトは目を丸くする。


「読めるようになった」


ロトが持っていた本の題は『宇宙船の設計図』だった。


忘れてしまう前に、急いで魔法を簡略化する。


「どうしようかな、言語翻訳でいいか」


インテルプレテという呪文を、言語翻訳と書き換える。


他の本は、と辺りを見回すと、他の本には適用されなかったらしく、まだ読めないまま。


「言語翻訳」


今度ははっきりと唱えると、他の本の文字も読めるようになった。


もっと早くこの魔法を思い出せばよかった。


ロトはため息をつく。


話している言葉が通訳できるのならば、書かれている文字も翻訳できておかしくないのに。


「みんなにもかけよ……フジとか喜びそう」


藤田とはなんだかんだで話が合うため、いろんなことを話していた。


藤田が研究していた分野と、ロトが興味を持っている分野が重なっていることも、会話の中で分かっていた。


お互いに本は持っているものの、文字が読めず内容の理解に時間がかかることを嘆いていたため、これはかなりありがたい。


「でもまずは、スクと話をしないとなあ」


机で寝ているスクと鹿野を見て、苦笑した。


起きる気配はまだない。

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