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第59話 絆と約束

土曜日。朝の九時。

大阪の裏通りにある小さな韓国料理店の前で、六人の女の子が集まっていた。

「ここやここ!」カガミが店の看板を指さす。「アコちゃんおすすめの店や!」

「わ、韓国料理……」ハナルがどもりながら店の中を覗き込む。

「入ろ入ろ!」カガミが先頭を切ってドアを開ける。

店内は思ったより広くて、壁には韓国語のポスターが貼ってある。テーブルは六人掛けの席が一つ空いていた。

「いらっしゃいませ。」店員が日本語と韓国語の混ざったような口調で迎える。

「朝から辛いもん食べるん?」キリカがアコに聞く。

「大丈夫やで。ここの火雞面、めっちゃ美味しいんや。」アコは目を輝かせてメニューを手に取る。

「火雞面って……」セイナが首をかしげる。「あの、激辛の?」

「うん。うち、これが大好きでな。」アコはもう店員に注文を始めている。「すみません、火雞面六つ。あと、トッポギも一つ。」

「ちょっと待って、六つも頼むんか?」ヒデミが眉をひそめる。

「せっかくやし、みんなで食べようや。」

「辛いの苦手なんですけど……」セイナが遠慮がちに言う。

「大丈夫!調節できるから。辛いの入れるかどうか選べるって。」

「そ、それなら……」ハナルがほっとしたように息をつく。

しばらくして、真っ赤な丼が六つ並んだ。具材はシンプルで、太めの麺と海苔、そしてゴマ。隣には小さな器に、真っ赤なソースが別で入っている。

「これ、辛いのを自分で入れんの?」カガミがソースの器を手に取る。

「うん。うちはこれ、全部入れちゃうけどな。」アコはそう言って、自分の丼にソースを全部投入した。一瞬で麺が真っ赤に染まる。

「全部!?」キリカが目を剥く。

「うん。辛いの、我慢できひん?」

「ま、まあ、ちょっとくらいなら……」カガミも真似して半分入れる。

ハナルはおずおずと、ほんのちょっとだけ。セイナも同じくらい。セイナは「少しだけ試してみます」とごく少量。ヒデミはカガミと同じくらい入れて、すぐに一口食べた。

「うまっ!」

「ほんま?」カガミも一口。次の瞬間――

「あちちちち!辛い!!」

顔が一瞬で赤くなり、涙がにじむ。水を飲もうとしたら、アコに止められた。

「水飲んだらもっと辛くなるで。牛乳あるから、それ飲み。」

「牛乳!」カガミが慌ててコップを取る。

キリカも一口食べて、眉をひそめた。「……結構いけるやん。」

「キリカさん、強すぎます……」セイナが涙目で言う。彼女はほんのちょっとしか入れてないのに、もう顔が真っ赤だった。

ハナルも小さな声で「あ、あつい……」と言いながら、牛乳を飲んでいる。

セイナは一口食べて、目をまん丸くした。「……辛いけど、なんか癖になる味ですね。」

「だろ?」アコが嬉しそうにうなずく。「うちの故郷の味やからな。」

「故郷……」カガミが首をかしげる。「アコちゃんの故郷って、韓国やもんな。」

「うん。こないだの曲も、これ食べてて浮かんだんやで。」

「え、あの曲って、あの韓国語の曲か?」

「そう。」

「へえ。」キリカが感心したように言う。「辛いもん食いながら曲作るタイプか。」

「うん。頭がスッキリするねん。」

「変わっとる。」ヒデミが笑う。

みんなでそれぞれ麺をすする。辛さのレベルはバラバラだけど、みんな楽しそうやった。

カガミが「くそっ!」と言いながら、最後の一口を飲み込んだ。顔は真っ赤で、涙が止まらない。

「うめえけど、辛すぎるわ……」

「ははは、カガミさん、顔真っ赤ですよ。」セイナが笑う。

「お前もな!」

「わ、私、もういっぱいです……」ハナルはギブアップ。

「まだまだ、これからやで!」アコが笑う。

その時、キリカが箸を置いた。

「なあ、みんな。」

「ん?」カガミが顔を上げる。

「唯のことや。」

空気が一瞬で変わった。

「唯ちゃん……どうしたん?」カガミが聞く。

キリカは少し間を置いて、言った。

「あの子、ずっとユキのために頑張っとるやろ。謝って、頭下げて、自分のこと後回しにして。でも、ユキはあの子のこと――友達と思ってへん。」

「それは……」セイナが言いかけて、やめた。

「あの子は、自分のやってることが無駄やって、気づいたほうがええと思うねん。」キリカの声は低かった。「いつか、ユキに傷つけられる前に。自分から離れたほうがええ。」

「キリカさんの言う通りかもしれへん。」ヒデミがコーラを一口飲んだ。「唯は、ユキに執着しすぎや。それで自分を壊してまう前に、自分を守ることを覚えなあかん。」

「で、でも……」ハナルが小さな声で言う。「唯さんは、ユキさんのこと、大事に思ってるから、やっぱり気持ちの問題は、簡単には割り切れないと思う。」

「そうやな。」カガミもうなずく。「オレらが口出しできることでもないし。」

「でも、見て見ぬふりはできへん。」キリカが言う。「唯がこれ以上傷つく前に、何か言うたほうがええ。それが、友達ってもんやろ。」

「それでは、セイナさんが受け止められる場所を探してあげましょうか……彼女が何のフィードバックもない他人のために自分を犠牲にしているのを見て、とても心が痛みます。」セイナが言った。

「うん、いいアイデアだね。本当に唯がユキに傷つけられるのが心配だ……」


その時、セイナが立ち上がった。ガタッという音が店内に響く。みんなの視線が一斉に彼女に集まった。

「……セイナさん?」セイナが驚いた顔で見上げる。

セイナは深い呼吸を一つして、口を開いた。

「みんな、聞いてほしいことがあります。」

「な、なに?」カガミがどもる。

「まず――」セイナは深々と頭を下げた。「今まで、ありがとう。」

「え?」

「私のわがままを聞いてくれて、バンドに誘ってくれて。みんなのおかげで、私は変わることができました。」

「セイナちゃん……」カガミが立ち上がる。

「これからも、私はFAのギタリストでいたい。ずっと、みんなと一緒に音楽をやりたい。」

セイナは顔を上げた。その目は、真剣だった。

「でも――親が、私がバンドをやってることを知ってしまった。」

リビングが静まり返った。テーブルの上の麺の湯気が、ゆらゆらと揺れている。

「文化祭の写真が、学校のホームページに載ってて……それを見た友達から、親に連絡があったらしい。」

「え……」ハナルが息を呑む。

「昨日、家に帰ったら、両親がリビングで待ってた。」セイナの声が少し震えた。「『あんな遊び、やめなさい』『そんなことしてる場合じゃない』『東大に行くのがお前の道だ』って。」

「それで――」カガミが言いかける。

「私は、反論した。」セイナは続ける。「『これは遊びじゃない』『私の大事な居場所だ』って。」

「そ、それで?」キリカが聞く。

「しばらく言い合いになった。」セイナはうつむいた。「でも、最後に――約束を交わした。」

「約束?」

「期末試験で、今までにない順位を取ること。それと――バンドの活動が、きちんと結果を出すこと。それができたら、私はバンドを続けていいって。」

「それって……」

「つまり、成績を上げて、バンドも成功させろってことや。」ヒデミが言う。

「うん。」セイナは顔を上げた。「無茶な話かもしれへん。でも、私はやる。」

「セイナさん……」ハナルが声を詰まらせる。

「みんなに迷惑をかけるかもしれない。でも――」セイナは深く頭を下げた。「これからも、よろしくお願いします。」

「顔上げて、セイナちゃん。」カガミがセイナの肩に手を置く。

「カガミさん……」

「オレたちがいるやん。一緒に頑張ろ。」

「そうですよ。一人で背負わないでください。」セイナもうなずく。

「わ、私も、歌詞書くの、手伝います。」ハナルが小さな声で言う。

「キーボードも、うちがなんとかする。」アコが言う。

「ベースもな。」ヒデミがだるそうに付け加える。

「ドラムも。」キリカが短く言う。

セイナの目から、涙がこぼれた。

「……ありがとう。みんな、ありがとう。」

「ええよ、ええよ。」カガミが笑う。「それが仲間ってもんや。」

その時、店員がトッポギを持ってきた。

「お待たせしました、トッポギです。辛さ、どうですか?」

「あ、大丈夫です、大丈夫!」カガミが慌てて手を振る。「もう十分辛いです!」

「いや、それ、トッポギやから、もっと辛いで。」アコが笑う。

「ええええ!」

みんなで笑い合った。涙を拭いながら、セイナも少しだけ笑った。

店を出ると、空は晴れていた。風が心地いい。

「よし、これからMOCAに行って練習や!」カガミが叫ぶ。

(From Dandy:

I'm not giving up. Even if it's a long road, we'll walk it together. Stay tuned for the next chapter.)

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