4巻 2章 6話
虎徹はギルドスーツに着替え、莉乃は流鏑馬装束に弓を携えた。
虎徹はバイクの後ろに莉乃を乗せ、阿弥陀村へ走る。莉乃は虎徹にしっかり掴まり、連絡を取ったり、状況を虎徹に報告している。
「ええ、虎徹様のお父様は無事なのね。お仲間は?うん、うん。じゃあ火消しが済んだら確認して、お願いね。うん、うん。でも虎狼庵は念の為、確認させて。」莉乃はコールを切ると、虎徹の耳元で話した。
「虎徹様、お父様は軽傷でご無事の様ですが、お仲間はわかりません。何人かは襲撃者達を追いかけている様です。虎狼庵への近道を行きましょう。もうすぐ、、そこです。ここで曲がって下さい。」
檜林をバイクで駆け、虎狼庵の裏側まで後少しの所で、莉乃は異変に気づき虎徹の耳元で言った。「虎徹様、ここからは時速35キロを保って下さいませ。失礼します!」莉乃は虎徹の胴体に右足を絡ませ、弓を引きながら体を左横に倒して矢を射った。
藪の中からヤブイヌ族の1人が頭に矢を受け飛び上がり後ろに倒れた。小さくクリッとした目にむちむちした体は小柄で短毛。毛皮の鎧を着ている。
檜の枝の上から2人のヤブイヌ族が石鎚を投げて来た。莉乃は矢を2本取り構えた。虎徹がハンドルを切って石鎚を避けると、莉乃は2人同時にヤブイヌ族を射抜いた。ドス!ドス!ヤブイヌ族は2人とも地面に落ちた。
道が細くなり、坂道を上がるバイクの前にヤブイヌが爪を剥き出して飛びかかってきた。ザン!虎徹は刀で斬り捨て、エンジンをふかす。横から飛びかかってくるヤブイヌを虎徹は蹴り飛ばし、ヤブイヌは檜に背中を打ちつけると、莉乃が胸の真ん中を射抜いた。バスン!
坂の途中、横道から入り虎狼庵の裏門に着いた。急いで莉乃は裏門から中に入った。
地下道の裏口には鉄格子が下り、中から焦げた匂いがしている。莉乃が柱のカバーを開け、スイッチを押すと松明が点いた。薄暗い中に巨大な鹿の角の兜を被ったヤブイヌ族の族長が真っ二つになって横たわっていた。「なぜヤブイヌ族が、、虎徹様、表に回ってみましょう。」莉乃は呟き、不安そうな顔で言った。
虎徹はギルドのみなと連絡が取れず嫌な汗がにじむ。
表門に虎徹と莉乃は走った。
表門にヤブイヌ族の気配はなく、門の周辺を探っている人影が見えた。近づくと虎徹が呼んだ。「ヴァル殿!」
ヴァルが振り向いた。
「虎徹!村の人にも大丈夫って言われたけど、気になって来ちゃった〜。これどうやって開けるの?」
「こちらから入りましょう。」莉乃は門の横の小さい木戸から中に入って行った。
「なんだ〜。こっちから入れたんだ。」
「ヴァル殿!皆は?」
「無事だよ!いきなりドローンが来て、ノコギリをもった奴らに襲われて火を付けられたんだよ。ひどいよ、もう!みんな突っ走って行っちゃった。」
ヴァルはぷりぷり怒ったが、虎徹はみなの無事を知り安堵した。
莉乃は表門の柱のカバーを開け、開錠操作をしている。
「久しぶりに触るから。これかしら?」
カチッ、カチッ。
鉄格子は動かない。
虎徹はライトで莉乃の手元を照らす。
カチッ、カチッ。
「電源は入っているのに、どうして。」莉乃は焦ってボタンを押す。
「あれ?それなら僕にできそう!代わって。スピリット。」ヴァルが手をかざした。
ガシャーン!
鉄格子が上がると、何かを引きずり目の前にぶら下がった。
ズズズ、ズサー!
「うわ〜!?」ヴァルはぶら下がったヤブイヌ族の死体にびっくりして虎徹に飛びついた。虎徹と莉乃はぶら下がったヤブイヌ族の死体を凝視している。
「フー!まだバクバクしてる。」
「ヤブイヌ族です。敵対した事も恨みを買う様な事をした覚えもありません。」
「手薄になるこの日を狙って、誰かが差し向けたのやもしれん。」虎徹の話しに莉乃は小さくうなずき、中に入って行く。
部屋の中は荒らされ、机はひっくり返り、ふすまには穴がいくつも開いている。子供達の姿はなく、莉乃は1番奥の部屋から地下に降りた。
油と焦げた匂いが充満している。石でできた地下道に入るとヤブイヌ族達が無惨な姿で死んでいた。剣山の壁に刺さっている者、足が切り落とされた者、丸焦げになっている者。その中に子供達の姿はなかった。
莉乃が壁に隠した罠の解除レバーを引くと針や刃物が下がった。ガコン。
死体をよけながら進み、廊下の先の広間に着いた。莉乃が鍵を開けると、テーブルの上に美しい釉薬のかかった壺が1つ置いてあった。
莉乃はほっとした顔で言った。「皆、欠けることなく逃げた印です。急いで出ましょう。警鐘の音が聞こえます。」
⭐️
警鐘の音が阿弥陀村に響く。
煙がいくつか上がり始めた。阿弥陀村の警鐘とは別に鼓の音が響いた。
ポン!ポン!ポポポポン!
青い紫陽花が一面に咲いている。通りの前の武器屋から、まごろくとハニはクナイを両手で抱えて出て来た。
「合図したから行くでー。」まごろくは帯にクナイを刺しては、ハニからクナイを次々と受け取る。
キュー!キュー!高い声が群れで近づいて来る。紫陽花が大きく揺れた。
「来た!タクシス!」ハニは両手をかざした。黄緑色のオーラに包まれたヤブイヌ族達が紫陽花の中から浮き上がり姿を現した。
ハニは右手で円を描きヤブイヌ族達の群れを浮かせて広げた。左手でも滑らかに指を動かし動きを封じた。まごろくは目の前に広がった大勢のヤブイヌ族をざっと見るや、端からクナイを次々と投げ、ヤブイヌ族を一掃した。
ハニは土手にヤブイヌ族を下ろし、まごろくは兜の緒を引いた。空にケルベロスのホログラムを放った。
ポン!ポン!ポン!
ポン!ポン!ポン!
まごろくの勝利の鼓が高らかに響いた。
⭐️
ブオオーー!ブオオー!
紅花常盤万作の生垣は一面ピンク色の壁だ。その奥には宝物庫がある。生垣を薙ぎ倒し、天狗師匠の目の前にオオヤブイヌ族が現れた。長身で長毛。手足に鎧を着けている。鋭い目で天狗師匠をじっと見下ろし吠えた。
アボボー!
両腕を振り回すとキラッ!キラッ!トゲの生えた指輪、角指が光る。天狗師匠はひょい、ひょいとしゃがんだり、くぐったり、軽やかに避ける。
アボ!アボ!アボボー!
何度も空振りし怒るオオヤブイヌ族。片手を振り下ろしフェイントを入れ天狗師匠の手首を掴んだ。
手首を掴まれた天狗師匠は、掌をくっつけ、肘をくるっと回すと脱力して投げた。
バターン!
オオヤブイヌ族は大きく宙に舞った。何か起きたかわからず一瞬目が点になった。怒りながら立ち上がり、逆立つ毛をむしりながら叫んだ。
アボボー!
「覚悟ー!」
ザンッ!
兼定が生垣を飛び越え、回転袈裟斬りで斬った。
石畳の上で、すっと回りながら片足を伸ばし、着地の勢いを流した。
辺りは静かになった。
法螺貝の音が阿弥陀村に再び響いた。
ブオーーー!!
⭐️
続く。
絵:クサビ




