4巻 2章 5話
翌朝。
出逢燈の儀。
「本日はお日柄も良く、川も穏やかでございます。莉乃様が漕ぎ手です。お気をつけて御出立下さい。」
赤い大傘の下から着物姿の虎徹と莉乃は小舟に乗り込んだ。
川のせせらぎが心地よい中、莉乃は襷掛けをして、小舟を岸から離し、小舟はすうーっと流れ出した。
緑が輝く木々の下を通り、ゆるやかに小舟を操る莉乃。
黙ったまま川を流れて行く。
しばらくして、流れが穏やかに川幅が広がった場所で、莉乃は流れから外れた。莉乃は小舟を浮かべたまま止め、小舟に腰を下ろした。水筒から茶碗にお茶を2つ注ぎ、虎徹にひとつ差し出した。
莉乃は一口飲んで虎徹にたずねた。
「あの、絆の儀の事でよろしいですか?」
虎徹は両手でお茶を持ち「はい。」と答えた。
「酷く落ち込んだと拝察しました。私が思うにですよ?あちらにも譲れぬ事情があったのでしょう。決して嫌われた訳ではない、と思います。」
「こんな話を伝えて良かったのか悩みましたが、過去に起きた事、嘘はつけぬと思い、ありのままを書きました。こんな話をして失礼になりませんか?普通は聞きたくない話ではと、、」
「いいえ、お聞かせ下さい。」
虎徹は小夜の話を莉乃にした。
「ここに来る前、すべてを捨てて愛を選んだ男を見て心打たれたのに、拙者はそれもできぬ薄情者、情けなや、、。」虎徹は言葉に詰まった。
「落ち込むでしょうが、悩む必要はないですよ。もう自分を責めるのはおやめなさい。」
莉乃はすっと立ち上がり、かいで岩を押して小舟を川の流れに戻した。
莉乃は振り返って言った。「ケンタウリとはどの様な所なのでしょう。面白そうな所ですね。」
「乾いた広大な大地や森がありました。ケンタウリで浮かんだ曲をお聞かせしましょう。」虎徹は懐から笛を出した。
「是非。」莉乃は流し目で虎徹に微笑んだ。
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出発から1時間程で岸辺に着いた。
虎徹は晴れた顔で小舟を降りた。
「では後ほど。ご家族やお仲間とごゆるりとお過ごし下さい。虎狼庵も一度、顔を出して見ておいて下さい。」莉乃はそう言って一礼して別れた。
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宿。
宴会場にみな揃っていた。虎徹の父親は暖かく虎徹を迎えた。
食事が進み酒もまわり、虎徹が父親を誘った。
「父上、酔いが回らぬうちに散歩に行きませんか?拙者の友人と共に。」虎徹はギルドのみなにも声をかけた。
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阿弥陀村。
虎徹の父を囲んでみな歩く。
「父上、体は変わりありませんか?」
「そりゃ〜もうこの通り。心配いらんよ。店もママ友さん達があれこれやってくれとる。」
「虎徹さんのママ友さんって事は、虎徹さんのお母さんは?」クラウンは虎徹の父親に聞いた。
「虎徹の母親は亡くなっとる。」
「あ、すみません!」
「ええ、ええ、気にせんで。母親はくノ一での、くのいち知っとるか?」
「いえ、知りません。」
「忍び、おなごの忍者の事をそう呼ぶ。」
「ああ、じゃあ虎徹さんはお母さん似だね。」
「そーじゃ、そーじゃ。」
虎徹の父親は優しく包み込む様に話した。ギルドのみなと和気あいあいと話しながら歩く。
「ここです。」虎徹は虎狼庵の門の前で止まった。
門を開くと森が広がっている。
木々の間をよく見ると細い轍が幾つもある。
その先に向かって歩くと、子供達が遊んでいた。子供達はすれ違う時、元気な笑顔で挨拶して行く。
筆で茶碗に色を塗ったり、小刀の彫刻刀を研いでいたり、土を捏ねたり、竹細工を作って遊んでいたり、藁人形や的に手裏剣を投げていたり、大勢の子供達が思い思いに過ごしていた。
「これは、これは。莉乃様の孤児院はみな良い子ですな。良い教育をなさっておられるご様子だ。」虎徹の父は感心した。
虎徹も横でうなずいた。
敷地の周りを歩くと大きな屋敷が2つ並んでいる。一つは寺子屋、一つは子供達や世話人の住まい。小さな畑や洗濯場の脇から庭に出た。
檜並木を歩いていると、ハニが突然止まった。「しーっ、静かに。聞こえない?」
「怖いんだけど?何系?」クラウンは聞いた。
「ネコ、仔猫の声。ほら!」
ミャ、ミャ。
チョコとゴーストが草むらに入って行き、仔猫を見つけ匂いを嗅いでいる。スノーが仔猫を拾い上げた。
一周して屋敷に戻ると子供たちが駆け寄ってきた。「探してたのー。ありがとう!」「影麿どこいってたんだよー。」「みつけてくれたの?ありがとう!」「かげまろーおかえりー。」
仔猫は虎狼庵の子供達の猫だった。子供達は並んでしゃがみ、猫がご飯を食べる様子を嬉しそうな顔で見ている。
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虎徹は宿に戻った後、独り文机に向かった。
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みな宴会場や横にあるくつろぎ場で和やかに過ごしている。クラウンとブラストは座布団を3つ並べて寝そべってゴロゴロしている。
虎徹と女将さんがお茶の入った盆を持って入って来た。お茶をテーブルに置き、正座して言った。「お二人の出逢燈の儀、つつがなく終わりました。お二人はお気持ちを表明されました。モニターに映しますのでお待ち下さいませ。」
女将さんは大きなモニターの電源を入れて2つ並べた。お琴の曲が流れ、直筆で書かれたお礼状が映し出された。
「弱りきった心を受け入れて下さりありがとうございます。口数が少ない私を受け入れて下さりありがとうございます。家族、仲間を受け入れて下さりありがとうございます。莉乃様には愛を感じずにはいられません。成婚果たしたく候。」
三浦虎徹
「阿弥陀村の皆やコロ達を受け入れて下さりありがとうございます。お互いの仕事を認め、そして私を自由にして下さりありがとうございます。虎徹様との成婚を心から願います。」
阿弥陀莉乃
クラウンとブラストは「わー!」「きゃー、虎徹さんっ!」足をバタバタとばたつかせた。
2人は起き上がり、スノー、ハニ、ヴァル達と、戻ってきた虎徹を祝った。
女将さんも笑顔で見守り「おめでとう御座います。春日大社にて結婚の儀を行います。詳細はまた追ってご連絡するそうです。」と言い終えるとモニターをひとつ消して、ひとつは夕方のニュースを流して退室した。
みなも虎徹を囲い祝っている。
まごろくが元気に言った。「これより祝い酒や〜。宴会場にみな集合や!」みなも拍手した。
みな、ぞろぞろと隣の宴会場に戻って行く。
クラウンも行こうした時「クラウン!テレビ見て!」ヴァルがモニターを指差した。
伊呂波が映っていた。
画面端には「伊呂波氏(28歳)選挙へ出馬表明会見」とテロップが流れている。
クラウンはテレビの音量を上げた。
「政治家になってこの国の不正を正します!」伊呂波ははっきりとした口調でしゃべっている。
記者が質問した。
「今までも政治家になる時だけ立派な事を言って、当選してしまえば悪の巣窟入り。簡単に正すなんておっしゃいますが、難しいんじゃないですか?」
「難しい?それは今を続けようとするからです。国民の皆様の生活は厳しく、1クレジット単位で管理されていて、皆様個人の責任で生きておいでです。政治家がその上に胡座をかいて贅沢三昧など言語道断!と、思いませんか?」伊呂波は厳しい顔から時折、優しく微笑んだ。
そして伊呂波は立ち上がり、マイクを持ち直した。
「この後、出馬に至る経緯をお話しします。会見は1時間を予定しております。記者様からのご質問には、私の見て来た事の全てをお話ししますので、先にご質問を下さい。30分後にスタッフが集計に参ります。急な会見の為、お水と紅茶しかありませんが、ご自由にご利用下さい。」
伊呂波が一礼して立ち去ると、画面はニュース番組のスタジオに戻った。
クラウンはモニターを消し、ヴァルと目を合わせ驚いた。
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クラウン達は宴会に参加した。
その後会見で伊呂波は、記者達への回答を混ぜながら出馬への経緯を話した。父の宗教団体に政治家の誰が来て何と言ったか、誰が指示したり、お金の流れなど正直に暴露した。記者達は聞きたい事を全てぶつけ、伊呂波も見聞きした事を正直に話した。そして会見の終わりにも伊呂波は政治家になってこの国の不正を正したいと強く訴え会見を終えた。
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2日後。
結婚の儀。
朝から慌ただしく宿の中は着付け師、髪結師、化粧師など大勢の人が走り回る。
クラウン達も順に着物を着せてもらい、髪を整えてもらい、クラウンは少し緊張したが、みなのお祝いムードにずっと浮かれた気分だ。そして、和服に髪を高く結ってもらい、借りた扇子をパタパタして鏡の前でポーズをとった。
支度の終わったブラストとはしゃいでログを撮った。着物姿のハニが来るとクラウンはログを撮りまくった。
みなでマイクロバスに乗り、春日大社に出発した。
「あれ?ログ撮ろうと思ったのに、虎徹さんは?」クラウンは聞いた。
「もうシッー、先に行ってんぞッシー!」着物を崩さない様にモゾモゾしながらスノーは答えた。
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結婚の儀。
結婚式は古式に則った厳粛な神前式で行われた。三献の儀(三三九度の盃)や門出の日に一生の御守りとして、御祝勾玉と御祝鏡が取り交された。
最後の挨拶が終わり、みな退出した。
虎徹は阿弥陀家に婿入りした。
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虎徹と莉乃は御神事の装束の返却の為に残り、みなは両家に分かれてマイクロバスに乗り、阿弥陀村に帰った。
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虎徹と莉乃が仕切りを挟んで着替えをしていると、莉乃の付き添い人が血相を変えて部屋に飛び込んで来た。
「はあ、はあ、莉乃様!大変です、マイクロバスが襲撃されました。襲った者達はそのまま阿弥陀村に向かって行ったそうです!どどど、どうしましょう!」
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虎徹と莉乃は驚いて目を合わせた。「落ち着いて、誰から連絡があったの?」莉乃が聞いた。
「阿弥陀家からです。それが、阿弥陀家のマイクロバスは無事でしたが、もう一台は全焼と電話の先で大騒ぎしております。」
「まさか!拙者、このまま向かいます。」虎徹はギルドスーツを取り出した。
「表に虎徹様のバイクを。共に参ります。弓の支度を!」
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続く。
絵:クサビ




