4巻 2章 4話
クラウンは再び夜の東京新都駅に着いた。そのまま警察からのレポートにあった宗教団体に向かった。
街のビルの入り口に「共同連帯の会」の看板を見つけた。まだ明かりがついていて、エントランスには「幸運を運ぶグッズ販売中!どなたでも集会に参加できます」と書いてあったので、クラウンはチョコをスリングで抱え中に入った。
会議室の様な部屋に椅子が並び、壇上にはカーテンがかかっていた。その横には扉があり、そこには「ここから先は入信者、関係者のみ」と書いてある。
壇上の前のテーブルには、壺とパワーストーン、水のボトル、本を並べ、販売している。クラウンは露天で見た壺やパワーストーンを確認した。販売員の女性はクラウンと目が合うと優しく微笑んだ。
30席ほどの椅子の半分程に信者達が座って話をしている。何人かはパワーストーンの購入に並んでいる。
すれ違う信者達はチョコに愛想良く話しかけたり、頭をなでたり穏やかな雰囲気だ。
関係者用の扉からスーツを着た年配の男性が出て来て、販売員の女性に話しかけた。
「イロちゃん、もっとたくさん売って、皆さんを幸せに導いてあげなさい。」
「はい、お父様。関西からフラーレンが入荷しました。90個の水晶からできております。ご家族を幸せに導きます。」保護ケースを持ち上げると透明の水晶で出来た32面体ボールが、出て来た。信者達は拍手したり、おおー!と声を上げた。
クラウンのお腹にトゥンと振動が伝わり、チョコを見るとプリズムがでていた。クラウンはさっとチョコのプリズムをオフにした。ディスプレイを最小にしてチェックすると、ヴァルのアビリティを解除できるエレメントストーンだった。「まじかー。いくらするんだろ?」クラウンは小声で呟き、『資金協力していいのか?けど盗むわけにはいかないし、、やっぱ買おう!』と決断した。
クラウンの前に並んでいる母と娘の親子は一粒の水晶の購入を悩んでいる。母親の方はフラーレンに見惚れている。スーツの年配の男性は笑顔で言った。「イロちゃん、こちらの親子さんを幸せにして差し上げなさい。」
信者の娘が「一粒の方を買うんでしょ?」とたずねると信者の母親はフラーレンを見ながら「これは何かの縁よ。会社もあるし、あなたの家族もいるし、お父さんは話し合ってくれないし、、フラーレンの方を頂こうかしら。」独り言の様に話している。
「縁を台無しになされてはいけません!ローン払いのご案内を致しましょう!」スーツの年配の男性は信者の母親の背中を押して扉の奥に案内した。
「伊呂波さん、お母さん本当に買っちゃたらどうしよう。」信者の娘はうつむいて言った。
「すみません、父は幸せの押し売りが強いですから。幸せの為に無理はさせません。一粒の方で大丈夫ですよ。十分幸せに導いてくれますからね。」伊呂波は小声で優しく言った。
信者の娘は顔をあげて、安堵してうなずいた。
「あの、僕これ買っていいですか?」クラウンはフラーレンを指さしながら話しかけた。
「本当ですか?父を呼んで来ます。」
「いい、いい!いいです。早く買って祈りたいなーって。いいですか?」クラウンは信者の娘を見た。
「どうぞ、どうぞ。むしろ買って下さい。母が欲しがると困ります。すごいですね。2700クレジットですよ?」
「う、うん。じゃあお会計お願いします。一括で。」クラウンはワッペンをかざした。
「まだ一言も説明してないのにお売りしていいんでしょうか?今夜は月明かりで祈りを捧げるのもいいですよ。」伊呂波は保護ケースに入れたフラーレンを紙袋に入れクラウンに渡した。
「使い方とか大丈夫、ありがとう。」クラウンが受け取り立ち去ろうとすると「待って!これからたくさんの愛に出会えます様に。」伊呂波は手を組んで祈った。クラウンは軽く一礼してビルを出た。
ビルの間の夜空を見上げてクラウンは息を長く吐いた。
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クラウンはヴァルに連絡をしてステーションのギルドで待ち合わせをした。
夜中にヴァルはヘリを飛ばしてやって来た。
「ヘーイ、真夜中にサプライズって何〜?さっき奈良に着いたばかりなんだよ。そもそもサプライズってさ〜あ〜、こんな感じでやるものだっけ?」
「ごめんー。はい、これ。機嫌直してさー、ポッドへどうぞ。」クラウンは紙袋を渡した。
「えっ?僕に〜。嬉しい〜。開けていい?」ヴァルの機嫌はすぐ直り、ケースを取り出し開けた。
「わお!ゴージャスなエレメントストーンだ〜!ありがとう!!僕のアビリティって高い材料ばっかりで、ほんとお金かかってしかたないっての。わお!本当にもらっていいの?」ヴァルはテンションが上がって小躍りしている。
「偶然見つけたんだ。踊ってなくていいから行って来て。ははは。」クラウンは優しく背中を押した。
「ヒャホ〜。」ヴァルは軽く踊りながらポッドへ入って行った。
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クラウンとヴァルはそれぞれギルドのポッドに入った。
ヴァルのポッド内。
ーアイドルドールの密売人と違法改造船の撃破、魔物3体討伐ー、全ての報酬を受け取った。全身が金色に2連続で光った。ヴァルはレベル100になった。
ギルドからお祝いメッセージが届いた。
ーヴァル様、レベル100達成おめでとうございます!格安セールのご案内です。今回の特典「半額チケット」をご利用頂けます。この提案を消しますか?ー
「わお!じゃあ〜ギルドネットモールでエイジングをクリック、チケット使います!」
ーすぐ始めますか?また今度にしますか?ー
「ちょい待ち!これも入れなきゃ、忙しい〜。」
ヴァルは紙袋からケースを取り出し、太ももに乗せ、ケースを開き、フラーレンを取り出しニヤっとした。ポッドの中にエレメントストーンをセットすると「リドゥ」がアンロックされた。
モニターにリドゥのモーションがループする。
ヴァルがパワーを発動すると対象は眠りにつき、目覚めた時にやり直し効果発動。無効の場合も眠りにつく。
ー洗脳を解きます。洗脳具合でやり直し効果にばらつきがあります。効果に関わらず睡眠発動ー
ヴァルは詳細やシュミレーションを真剣に見ながら、すぐに始めるをタップして、全身のエイジングを行なった。
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クラウンのポッド内。
ー裏金を集めていた政治団体の撃破、盗賊団からの盗品を売買した骨董「漁り屋」の店主の撃破ー、全ての報酬を受け取った。全身が金色に1回光った。クラウンはレベル85になった。
クラウンはポッドから出て、チョコと遊びながらヴァルを待った。
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ビルの屋上に2人は戻り、ヘリに乗った。
「そーいえば虎徹さんどうなったかな?」クラウンはヴァルに聞いた。
「絆の儀も終わって、明日、出逢燈の儀だって〜。あんなアジアン美少女フィギュアみたいな子と、いいな〜。」
「でいとう?」
「デートの事じゃない?僕もよく知らないけど。」
「えっと、お手合わせ、結婚の条件、でいとう?手続き多いね。」
「当たり前だろ〜。結婚するんだから。後で違うってなったら大変でしょ〜よ〜。」
「そっか。先にわかってると確かに安心だね。、、でもさ、後で気が変わったらどうするんだと思う?」
「う〜ん。話し合って自分達に合った解決策をとるんじゃないかな?多分、話し合いをできる状態でいる事が大切なんじゃない?」
「ふーん!納得。」
「お互いをリスペクトし合えていれば、変なワガママを通そうとか失礼な行動は取らないでしょ。」
「そーだねー。ヴァル、大人ー。なんか急に大人っぽくなった気がする。」
「わかる〜?さっきレベル100達成したから、お祝いの特典でエイジングもしたんだよね〜。」
「おめでとう!いい感じだねー。まじで大人っぽくなってる。なんだろ?どこだろ?」クラウンは顔を近づけてヴァルの顔を見回した。
「大人への磨きがかかったでしょ〜。へへへ。で、クラウン、この後どうする?このままヘリで帰るなら、東京夜景の遊覧しよ〜よ。」
「ちょっと待って、1人気になる人がいるんだ。ヴァルに新しいパワーを試してみて欲しい。」
「ああ〜、せっかくだけどパワーが効くかの条件が結構厳しそうなアビリティだったよ。」
「うん。ヴァルのパワーの特徴はわかってる。別に効かなくても問題ないし、けど試してみたいんだ。」
「OK〜let's go〜」
ヘリは飛び立った。
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東京の夜景はとても煌びやかで美しい。
マーキングポイントを追って、ホテルのヘリポートに2人と1匹は降り立った。
ホテルの避難階段を降りた。
「隣のでっかいビルがその人の家なの?」ヴァルは軽やかに先に階段を降りて行く。
「うん。あともうひとつ降りたら同じ階くらいかなー?」
「オーマイガ!ここで行き止まりだし、隣のビルまで結構距離あるよ〜。」
「本当だ。ヴァルのパワーでこのハシゴどうにかなんない?」
「クラウンみてよ。手動だよ?届かないし、無理〜。」
「うーん。どーしようかな。あれ?あのレバー下げたら、ハシゴが降りて隣のベランダまで近づけそう!」
クラウンはハシゴのレバーに狙いを定めた。「ロージー」バン!ガコン!カラカラカラ、ガシャン。ハシゴが降りて来た。
「イエー!」ヴァルとハイタッチした。
クラウンはハシゴに足をかけ降りて行く。ヴァルも続く。「ベランダに降りたらヴァルに開錠してもらってー、そのまま、、」
「クラウン、マーキングポイントが動いてる。待って、待って。」ヴァルは小声で言ったが、クラウンには届かず、ベランダに出てきた伊呂波と鉢合わせした。
「あっ!また会いましたね。」クラウンはハシゴに掴まったまま苦笑いした。ヴァルはハシゴの裏側から身を乗り出して言った。「やあ!ウェンディ〜。」
「まあ!うふふ。こんな所で何を?」
「あっ、えっと、ビルの点検です。伊呂波さんは?」
「私は月の下で祈ろうと思いまして。そしたら仲良さそうな声が聞こえてきて、なんだか楽しそうですね。」
「友達なんです。ね?」クラウンは振り返って口を開けてパクパクさせ、ヴァルに[彼女がターゲットだよ!]のサインを送った。
「いつも月明かりの下で祈ってるの〜?」
「ええ。皆さまの幸せを祈っています。」
クラウンはヴァルを手で突ついてハシゴから降りた。ヴァルも続けて降りた瞬間、クラウンに耳打ちした。「今やると彼女が倒れちゃうだろ?」クラウンははっとして、コクンとうなずいた。
「自分の為には祈らないの〜?そっちに行って良い?クラウン休憩しよ。」ヴァルは隣のベランダに飛び移った。
伊呂波は椅子を引き寄せヴァルに手を伸ばした。「ん、、私の願いは叶わないから。」
ヴァルは伊呂波の手を取ってベランダに入った。「そんな事ないよ。いつか違うパターンが見つかるかもよ〜?」
クラウンもベランダに渡ると2人は手を取り合って見つめ合っていた。
「えっと、、。」クラウンは気まずそうに言った。
「イスに座って。」ヴァルはゆっくり伊呂波を座らせ、伊呂波は嬉しそうに座りヴァルの顔を見上げた。
「リドゥ」
伊呂波の瞳は紫色のグラデーションになり、とろんと眠りに落ちた。
クラウンとヴァルは伊呂波をベッドに寝かせ、ヘリで奈良に飛び立った。
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続く。
絵:クサビ




