4巻 2章 3話
その後、クラウンは水上モノレールから都会の夕景を見たり、夜の繁華街をあてもなく歩いた。
飲み屋から出てきたビジネススーツ姿の人達はご機嫌で楽しそうだ。繁華街のネオンや提灯が所狭しと並ぶ、ビルの一角にある動く招き猫の看板に惹かれてマンガカフェに入り、翌朝目を覚ました。
ギルドの犯罪専門家からのコールにクラウンは眠たい目を擦って出た。
「あー、はい。」
何度か瞬きしたがディスプレイは暗いまま、奥から影が浮き上がった。やがて薄暗い中から長いウェーブの黒髪に黒いマスクの男性がかすかに見えた。画面から少し離れた椅子に座ったままで言った。
「クラウン氏、獲物を泳がせて楽しんでますか?」
「いやっ、そんなんじゃないよ。」
「今日中に終わりますか?」
「え?なんで急いでやらなきゃなんないの?」
「フッ、クエスト討伐の要項を読みたまえ。」
「読んだよ。」
「何か問題でも?」
「今までさー、大体捨て台詞吐いて、殺意丸出しで襲ってくるのがほとんどだったから。」
「いい人そうだから見逃すと?」
「そーゆー事は言ってない!もうちょっと理由を知りたいんだ。話せそうな人だから。」
「フフッ、話が通じる相手じゃないけどね。」
「どーゆー意味?」
「いいさ、話しかけてごらんよ。」
「僕のログずっとチェックしてる?やるから待ってよ。あと、、見ないで、緊張する。」
「フッフッフッフッ。」
コールオフ。
「えっ、なんで?」クラウンは困った顔でチョコを見た。チョコはくるんと元気よく回ってクラウンを笑顔に戻した。
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マンガカフェを出たクラウンはマップを検索して、昨日見逃したターゲットを確認した。隣の駅の駅前広場にマーキングポイントが付いた。
クラウンは何て話しかけようか迷いながら、ひと駅歩いた。駅に近づくと、ターゲットが朝からビラ配りをして、自身の汚職はないと街頭で潔白を訴えている。ターゲットは血走った目を見開き、通勤や通学している人達に、笑顔でビラを渡したり、握手しては「ありがとう」と言っている。
クラウンはターゲットに近づき話しかけた。
「あのー、僕と一緒にギルドに来てくれませんか?」
「ギルド?!私は何も指示していない!」ターゲットは背を向け歩き始めた。
クラウンは後ろを追いかけながら話しかけた。
「議員時代から放置してる3000世帯の被害者にも同じ事言うの?政治団体や政治家達になんて言われたの?」
「それを言うくらいなら死んだ方がマシだ。」
「被害者の方のログ残ってるから。」
「そんな記憶はない!護衛!護衛!こいつをつまみ出して家族ごと社会から抹消しとけ!」
「今の取り消して!」
「生意気なっ、お前なんかここで潰してやる!」
ターゲットは般若の様な顔つきでクラウンに迫り、柱の陰で首元を絞めてきた。
クラウンは首を絞められ息苦しくなり、ターゲットの顔面に手を押し付けた。「ぐふっ、ロー、ジィ、、」バン!
ターゲットは顔面に火の玉をくらい、後ろに吹き飛び倒れた。チラシは辺りに散らばった。
護衛が慌ててクラウンに駆け寄ってきた。チョコは頭を下げ尾を上げて唸る。
ウウーー!
「フレイヤ!ガードだけ、げほっ!チョコ、おいで!」
炎の女神フレイヤが現れると護衛達は立ち止まった。「コホッ、攻撃してきたら捕まえるから。」クラウンは警察を呼んだ。フレイヤはクラウンとチョコの周りを円を描くように警戒し、時間切れになると消えた。護衛達にうなだれる者、頭を抱えながら電話をしている者はいたが、ターゲットに駆け寄る者はいなかった。
2、3分で警察が駆けつけ、クラウンは手続きを済ませた。警察官達は首に出来たアザを心配してくれたり、咳き込むと背中をさすってくれたり、飲み物をわけてくれた。クラウンはだんだん落ち着きを取り戻し、指先の感覚も戻ってきた。
「ふう。よしっ、次行こう。チョコ、イカロスを使って。」クラウンは次のターゲットを探すと、10駅先にマーキングポイントが付いた。
東京環状線の外回りに乗り、首をさすりながら外の景色を眺めた。
目的地で下車し、マップを見ながら駅前の商店街を抜け、骨董市場に着いた。
クラウンとチョコが見まわりながら歩くとターゲットは露天で接客していた。
「こっちは年代物の壺、水晶、少しならおまけするよ〜。こっちは関西で人気の高級品が揃ってるよ。はい、お決まりですね。ちょっとおまけね〜。お会計はここにかざして。まいど〜。」
クラウンはターゲットの店主をまっすぐに見ながら近づいた。
「何かお探しで?」
「貴方を。ギルドまで一緒に来てくれませんか?」
バッ!
露天の店主は一目散に逃げ出した。クラウンとチョコも走って追いかけた。店主は街行く人を突き飛ばし、時々振り返りながら逃げて行く。少し開けた道路に出た所でクラウンはチョコを抱え、ナイトメアを呼んだ。街路樹の中を漆黒の馬が走って来た。クラウンはナイトメアに乗り速度を上げた。ナイトメアは店主にあっという間に追いつき目の前に出た。
「来るなー!」店主は叫びながらポケットのコインや小さなパワーストーンなどクラウンに思い切り投げつけた。
バチバチバチ!
ヒヒーン!
ナイトメアが前足を上げ体で防ぎ、赤い目で店主を睨むと、店主は恐怖で顔を歪め泡を吹いて倒れた。ナイトメアのパワーで本当の恐怖を見せられた。
クラウンはすぐに警察と救急車を呼んだ。数分で警察と救急隊員は到着し、クラウンは手続きを済ませた。
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クラウンは引き受けたクエストを終わらせ、ほっとした。奈良旧都駅へのエクスプレスを予約して東京新都駅で待つ間、犯罪専門家にコールした。
明るい部屋で女性の犯罪専門家が出た。
「あれ?今朝の人は?」クラウンはたずねた。
「私は代行で、急遽呼び出されたの。呼び出してみますね。」
「あれ?活動休止になってる。休暇じゃないから、いつ復帰するかわからないわ。あー、けど、、クラウン氏宛にメッセージを残してあるから送りますね。クエストは全部片付いてるじゃない。お疲れ様でした。報酬は貯めずに受け取って下さいね。」
「はーい。ありがとうございました。」クラウンはコールを切って、メッセージをタップした。
ー刹那の快楽を味わえたかな。これは協奏曲。犯罪専門家モーツァルトー
「ん?なんかこの人モヤるー。」クラウンはメッセージを閉じて駅弁を買いに行った。
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クラウンは阿弥陀村の宿に戻ってきた。
「おかえりなさいませ。もう夕食はお上がりになれますので、大広間へどうぞ。」
大広間へ向かうと、赤い高足盆が並んでいる。どこに座ろうか見回していると声をかけられた。「クラウン殿!」「あ、虎徹さん。」
クラウンとチョコは虎徹の向かいに座った。「拙者の代わりにご足労おかけした。」「ううん、クエスト終わったよ。虎徹さんは順調?なんか疲れてない?」「それが絆の儀の条件を書いて提出せねばならんのだが、、締め切りが今日で、まだできておらぬ。」虎徹は頭をかいた。
虎徹は自身の結婚の条件に、頭を悩ませていた。クラウンとチョコの盆の前に夕食が運ばれた。虎徹は食べながら、横に置いてある紙に書いては塗りつぶしている。
クラウンも食べながら、クエストの報告を見た。
ブラストとヴァルが違法密売人を討伐。
スノーが盗賊団の討伐。
それを売りさばいていた店主を僕が討伐。
政治団体を悪用、裏金集めに関与してた、元政治家の討伐。
警察からのレポートには政治家や宗教団体との関係が濃厚になるものの、現在の法律では逮捕できない。とあった。
はあ、あの般若みたいな顔怖かったな。そんな事を思いながらクラウンはエビの天ぷらを食べた。「美味ー!」飲み込み、襖絵を見ていると、今度は犯罪専門家モーツァルトの『協奏曲』という言葉が心にひっかかっていた。
「クラウン殿、スノー殿は?」
「えっ?あ、スノーね。兼定さんと神社のお清めに行ったよ。築城の手伝いもしたいって。」
「はあ、そうか。クラウン殿は結婚に興味はあるか?」
「まだないよー。けど僕だっていつかはするかもしれないよ?」クラウンは急にもじもじした。
「そうだな。拙者は考えが上手くまとまらず、、冒頭が決まれば他の事もおのずと見えてくるだろうに、悩ましい。」
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クラウンはひらめいた顔をして、残りの食事をかきこんだ。よく噛んだ。もぐもぐもぐ。
「虎徹さーん、僕もう一回東京に行ってくる!本気で思ってる事を書いた方が良いよ。拙者はこういう人間ですって。がんばって!」
クラウンは東京行きのエクスプレスを予約をして宿を飛び出した。
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続く。
絵:クサビ




