4巻 2章 2話
顔合わせの儀、2日目の朝。
蓮池の橋に再び両者は立ち、一礼した。
クラウンは昨日は息を呑んで見守ったが、2人の姿が見えにくくなると、朝からあくびを何度もして、ぼーっと眺めた。
虎徹は弓を受けても一度も抜刀せず、追いかけ回したが、莉乃の弓に髪の紐を射抜かれ1本取られた。虎徹は静かに木の枝の上に隠れ、莉乃が下を通ると枝にぶら下がり、髪に結ばれた紐を引き抜いた。また別の木の上から虎徹が飛び降りると、莉乃が驚きバランスを崩した。虎徹は莉乃が落ちない様に支え、腰の紐を引き抜いたが、莉乃にも引き抜かれ、ようやく正午近くになって莉乃が3本目を先取し、虎徹は2本で終わった。
顔見せの儀は莉乃が勝利したものの、阿弥陀家は虎徹の振る舞いや心意気を高く評価した。
2日にかけて行われた顔見せの儀が無事に終わり、みな安心して、空き時間にそれぞれのクエストに出かける事にした。
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宿のロビーでクラウンとスノーは一緒に行けそうなクエストの一覧を見ている。すると兼定が申し訳なさそうな顔でやってきた。
「クラウン殿、すまぬがギルドから直に要請が来る。帰還した虎徹に来た依頼だったが、このまま祝言になるやも。その準備で忙しいと申した所、クラウン殿に白羽の矢が立った。」
「僕?」クラウンは虎徹の事情を察して、少し考えてから小さくうなずいた。
「すまぬな。スノー殿は拙者に協力願いたい。着いて参れ。」「ウッス。じゃクラウン、ご指名がんばれよ。」スノーはクラウンとハイタッチし、チョコをなで、ゴーストと一緒に宿を出た。
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馬舎で兼定は自身の馬に鞍をつけさせ、スノーには馬ではなくバイクを選ばせた。スノーはゴーストと乗れるバイクを選び、納屋から出した。馬や車両の世話人達が兼定に話しかけた。「兼定様が長になって築城が始まり、職人一同感謝申し上げます。」「此度は全国から集結して頂き、こちらこそ感謝申し上げる。これからも互いに励もうぞ。資材を盗みにくる輩を成敗してくる。開門!」兼定が馬で先導し、スノーはバイクで追いかけた。
「行ってらっしゃいませ。」世話人達はお辞儀して見送った。1人の世話人が顔をあげて門を閉めながら言った。「兼定様と喋れた〜!嬉しい〜。互いに励もうだってさっ!ほほっ!」
「家族に自慢できるな。今回こそ莉乃様は政略結婚成功できるのかね〜。」
「今回は違うと聞いたぞ。焦った阿弥陀家がご隠居された渡邊様に泣きついたと噂になっとるよ。」
「政略結婚させたかった花婿候補の3人には断れてますからな。今回はどうなる事やら〜。」
「しかし先程、顔合わせの儀がすんでも断りの申し出はなかったらしいぞ!」
「おおー!宮大工、職人達にとってHOMAREのお侍様と結婚できれば阿弥陀家も安泰だ。」
「はあ〜莉乃様、上手くいきます様に。」
世話人達は手を合わせてお天道様に祈った。
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兼定とスノーは南東に下り、見晴らしのいい高台に出た。
「スノー殿、あれを見よ。」兼定が指差した先には海が見渡せる高台に積み上げられた石垣がある。専門の職人達が大鋸や台鉋で木作りしている。
「うおっ、スゲー!」
「これが完成すれば観光の活性化、伝統文化の継承と職人達を守り、国防、災害強化にもなる。資材置き場があそこにあるが、盗人が入る様になった。盗まれた資材は関西水中都市で高値で取引されている。そこの浜辺の先の藪を叩き、蛇がでるか、はたまた盗人か。参るぞ。」
「ウッス!」「バウ!」
兼定とスノーは浜辺を駆ける。
浜辺で焚き火をしている2人が兼定に気付き、槍や斧を持って立ち上がった。
兼定は馬のスピードを上げ、槍を持った盗人に突撃した。槍を交わし、槍を掴み取り、その槍を盗人に突き刺した。刀を抜き、斧を構えて走ってくる盗人の首を斬り、馬で駆け抜けた。
スノーは転がってきた首を踏まないように避け、アクセルをふかした。マップを見るとすぐ近くの神社にマーキングポイントが多数見えた。兼定は直感でその方角に向かって行く。
浜辺に引き上げている小舟の後ろから、斧や鎌を投げつけてくる盗人2人。兼定は馬で正面から突撃し、鎌を弾き、小舟の上を飛びながら右、左とハの字に刀を振って2人斬った。
砂浜から植物がはびこった土手にあがった。ゴザを引いて寝転んでいた5人の盗人達は立ち上がったものの、武器を持った者から次々と兼定に斬られた。
「スゲー、豪傑。どんどん行ってる。シシッ。」
小さな崖沿いを駆け上がると、朱い鳥居が見えた。兼定は鳥居の前で馬を降り、馬に隠れて待機の合図を出した。馬はトコトコ林に入って行った。
スノーもエンジンを止めてバイクから降り、ゴーストも飛び降りた。
兼定は懐からティンシャを出し、3回鳴らした。澄み渡った音がした。
ティーン。
ティーン。
ティーン。
「盗人共ー!我らが成敗致す!」兼定は大声で言い、刀を2本構え、鳥居をくぐって行った。
神社の階段の上から盗人達が武器を持って大勢向かって来た。
ドタドタドタ!
「ぶちのめしたるわー!」
「剥ぎ取れー!」
「あっ!あのバイクは俺のもんだー!」
兼定は正面から襲ってくる盗人のナタを太刀のつばで抑え、もう一方の脇差で盗人の脇の下を刺した。
ドス!
盗人は膝を付き倒れた。
階段を駆け降りて来た盗人が両腕を上げ槍を構えた瞬間。バスバス!槍を持った両腕が空に舞った。
階段の中段から数人の盗賊が鎌や手斧、金棒を振り上げ飛びかかった。スノーはゴーストと走り込み構えた。兼定が素早く神社の石畳を横に2度転がりスノー達から距離を取った瞬間。「フリーズ!」スノーはゴーストのパワーを発動させた。目の前の盗人達は動きがスローモーションになり、兼定は怯む事なく、足で地面を蹴り、止まったままの盗人達を連続で斬って行く。
スノーは階段を駆け上がり自身のパワーも発動させた。「シェル!」岩肌になったスノーに武器は歯が立たない。盗人が斬りかかっても岩肌に弾かれ、スノーの岩の拳が炸裂した。左右に大きく腕を振ってラッシュした。
ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!
階段下では兼定が袈裟斬り、一文字斬りと華麗に舞う。
ザッシュ!
ズバー!
「ウー!ガウガー!」ゴーストは威嚇しながら、武器を拾おうとする盗人達の足に噛みついたり、飛びかかった。盗人達は暴れながらやけくそになって襲ってくる。
「覚悟ー!」兼定が声をあげた。
「ウオー!」「ウガー!」スノーとゴーストは雄叫びをあげた。
兼定が階段を数段駆け上がり、バク宙をして刀でなでつける様に盗人を斬った。血しぶきがあがる。着地した兼定の背後から盗人が襲いかかった。「ガブッ!グルルー!」ゴーストが襲いかかる盗人の首に飛びついて牙を立てた。石畳を転がる盗人を兼定は脇差で刺し、落ちていた金棒をスノーに投げた。
「スノー殿!これをっ。」
パワーの時間切れとなり岩肌がボロボロと落ちるなか、スノーは金棒を両手で受け取った。スノーは金棒を大きく2回スイングさせると、あごにくらった盗人4人は吹き飛ばされた。飛ばされてきた盗人の足にゴーストが噛みつき階段から引きずり下ろすと、兼定がとどめを刺した。
ザクッ!
辺りが静まり返り、風が木の葉をゆらす音がした。
ササーー。
ゴーストが吠えながら、林に馬を呼びに駆けて行った。「バウ、バウ!」
「んー、賢き友だ。」兼定は血振りをして、懐から和紙を取り出し、刀に残った血を拭き取った。刀は兼定の顔の前で神々しく光った。
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その頃、クラウンはギルドから複数クエストのオファーを受け、1人慌てていた。
「はわっ、ブラスト、ヴァル、ちょっと待ってて!出発前に僕のクエスト手伝ってー。」
「いいよ。飛行場で待ってる。」ブラストはコールを切った。
「慌てないで。こっちもまだ着いてないから準備しながら待ってるよ〜。」ヴァルもコールを切った。
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飛行場。
「お待たせー。」手を降りながらクラウンはナイトメアに乗って走って来た。
ヴァルも手を振る。
「グッドタイミング〜。ちょうどヘリもスタンバイできてるよ。」
「イエー、来たな。で、どうすんの?一回様子見に行く?」ブラストはベンチから立ち上がった。
「うん。すぐそこの港なんだけど、、今クルーザーの停泊場にいる。すぐ行こう。」クラウンはマップを見て確認した。
3人はワッペンを合わせた。
「よー。わしも着いて行こうかの。」チョコはジャンプして天狗様に飛び乗り、天狗様はチョコを抱えて立ち上がった。
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クルーザーの停泊場。
2台の車椅子に若い男女がそれぞれ乗って待っている。クルーザーの中から1人の中年男性が足場板をかけ、車椅子用のスロープを並べている。
「いた〜。なんだよ、あれ。アイドールじゃない?」ヴァルは引いた。
「うん。詳細みたらアイドルドールの違法改造して高値で売りさばいてるって。」クラウンは言った。
「よー。なのに歩けんのかえ?」天狗師匠は聞いた。
「手先は器用なんだけど、下半身は柔らかいから不安定な所で転倒するんです。車椅子で運び出すみたいだね。」ブラストは眉をひそめた。
「クルーザーに乗ってる男が討伐対象の密売人みたい。声かけてくるね。」クラウンはすたすた歩いて近づく。
スロープをかけ港に降りた密売人は、近づいて来るクラウン達を見て慌てた。
「ヤバイ!ギルドだ!早く乗れ!」密売人は声を荒げた。
クラウンは手をかざしながら近づくと、密売人はアイドールの車椅子で身を隠しながらハンドガンで撃ってきた。
パン!パン!パン!
チュイン!
「うわっ!やめてよ!」クラウンは脛を見た。
クラウンの脛を弾がかすったが、ギルドスーツのおかげで平気だった。
密売人はその隙に電動車椅子を押し始め、気付いたヴァルが電動車椅子に向かってパワーを使った。「スピリット!」車椅子にロックがかかった。密売人は動かなくなった車椅子を蹴るがびくともしない。密売人はヴァルにも発砲するが、ヴァルも弾がかするだけだった。
パン!パン!パン!パン!
カチャ、カチャ、、弾切れになったその時、天狗師匠がクラウン達の頭を飛び越え、腰に挿した扇子を密売人に投げつけた。
バキン!
扇子がハンドガンに突き刺さった。その勢いでハンドガンは密売人の手から転がり、海に落ちた。
ガガガ、ポチャン。
密売人はアイドールを放って、1人クルーザーに駆け込みエンジンをかけて走り出した。ブロロロ、、ボチャン!ボチャン!足場板が海に落ちる。
クラウン達はアイドールにかけよった。
アイドール達が船を指差して言った。「あのクルーザーで私達を改造している。」
「追いかけてやっちゃう?」ブラストがクラウンに聞くと「ここだと他の船に被害でちゃうからブラスト達、ヘリで追いかけてもらっていい?」
「OK!」
「僕、海保に連絡しとくー。」
「クラウン、アイドールの保護も頼んだよ〜。」ヴァルはクラウンの肩をポンと叩いた。「うん!出発前に間に合って良かったー。協力してくれてありがとう。気をつけて行って来てねー。」
「よー。すんだら魔物退治と虎徹のお父上を迎えに行こうかの。」
クラウンは通報し待つ間、アイドールに挟まれてログを見守った。
ヘリは15分後、クルーザーを沖で見つけた。ヴァルが下降し近づく。「スピリット!」クルーザーの速度は落ちず走り続けている。「あれ〜?違法改造の方が障壁高いなんてアリ〜?!」「次オレ行くよ。天狗師匠、すみません扉開けます。」「よー!」天狗師匠の白髪がなびく。「ストーム!」海上に竜巻が生まれ、次第に大きくなり船を飲み込み大破した。
バリバリバリー!ドッカーン!!
「イエ〜!」
「クラウン見てた?ミッションコンプリート!ははっ。」
ブラストとヴァルは成功して喜んだ。
「見てたよー!こっちでもハイタッチしたよ。2人が助けてくれてありがとうだって。ありがと。気をつけてね。」アイドール達は涙を流して喜んだ。
ブラスト達は返事をしてコールを切った。
救急車が到着して手続きを終えると、クラウンはアイドール達と挨拶をして別れた。エクスプレスの予約を取り、東京へ向かった。
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東京新都駅。
「レンガ作りだー。」クラウンはレンガの螺旋階段を降りた。クラウンは駅をでると目立たない様に白いフードのコートを羽織り、チョコのイカロスを使った。次のターゲットは近い。プリズムを出してご機嫌で歩くチョコの後ろを追いかけた。
しばらく歩くと広場に出た。ターゲットは目の前だ。近づくと群衆に囲まれた、ターゲットがみなに「ありがとう」と言いながら笑顔で握手している。次々と握手しながらクラウンの前に来た時、ターゲットがいきなりクラウンの手を掴んで笑顔で言った。「ありがとう!」クラウンは急に握手されビックリして、手をさっと引いてしまった。ターゲットはその後もひとしきり群衆と握手をして、笑顔でありがとうを言い続け、伸びてくる手を握り、一緒にログを撮ったりしている。あまりの人気ぶりに、群衆の中でクラウンは立ち止まったまま、ぼーっとした。ターゲットはそのまま駐めていた車に乗り込み、窓を開けると、また群衆と握手してゆっくり走り去った。クラウンはターゲットをただ見ていた。
そのまましばらく歩くと秋葉原についた。東京アニビルと書かれた看板。アニメやゲーム、漫画などの専門のお店が一つのビルになっている。
クラウンはチョコをスリングでかかえ、カラフルで賑やかなフィギアやゲームコーナーを、どこかぼーっとした目で見て回った。
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続く。
絵:クサビ




