仙人界に行って来ました②
昨夜は何事もなく帰宅したゲートキーパーだが、朝、仕事に来たら、大村ユウジがいてこの長広舌である。
ゲートキーパーは頭を抱えた。お節介を焼く相手がいなければ上手くいくと思ったのに、まさか敵にお節介を焼こうと考えるとは。
「それで、どうやってそのキョンシーを助けてあなたはまた死んだんですか?」
「なんか言い方に棘があるなぁ。」
キョンシーの悲しい過去を垣間見た大村ユウジは、しがみついた拳で地面に叩きつけられながら、どうにかならないかと考えた。
今わかっていることは、自分の神通力は読心術であること、読心術は相手に触れなくては使えないと言うことだ。
大村ユウジは考える。
ぶん殴られたり組み合ったりすることであちらの思考や記憶は伝わってきた。じゃあこちらの思考や記憶を伝えるのはどうしたらいいのか?お互いに伝え合う、即ち会話をするためにはどうしたらいいのか?
「うー…。」
身体中痛い。辿り着いた答えは心おだやかなものではない。でもやるしかないんだろうなあ、そう考えると寒気がする。
「くそっ!」
大村ユウジは半ばやけ気味に立ち上がり、大きく息を吸う。
「おーい!こっちだよー!」
キョンシーは大村ユウジの声に反応し、また拳を振り回して襲って来た。ブゥンっと空気を切り裂く音をさせ、拳がぶつかって来ると同時に大村ユウジは叫んだ。
「娘を返せってどう言うことですかー!ぐぁぁぁっ!」
地面に投げ出される。風を切る音がして、目の前にはキョンシーの次の手が見えていた。あー、これ、ダメなやつ…と思い、大村ユウジはぎゅっと目を閉じた。
が、衝撃は来ない。
ゆっくりと目を開けてみると拳は目の前で止まっていた。恐る恐る拳に触れてみた。
(娘のことを知っている?)
伝わった。伝わっていた。
「知ってるよ!あんたすげえ大事に育ててたんだろ?取り戻したいんだよな?なんか僕にできることある?」
大村ユウジは、伝わったことと、これで何かできることがあるかもしれないという可能性が見えたことが嬉しかった。
(もう手遅れだよ…俺は弱くて…こんな化け物になっちまった…。)
キョンシーの嘆きが触れた拳から伝わって来る。確かに大村ユウジ自身も初めは化け物だと認識した。幾ら娘を助けたいという気持ちゆえの行動であっても、神通力で気持ちを通じ合わせることができなければそれはずっと変わらない。変えられない。
「僕の神通力…。」
今、彼がバケモノではなく、娘を思う父親であることを伝える方法はそれしかなかった。でもどうやって?
「僕の力を君に分けることはできないもんかな?」
キョンシーが一瞬身を固くした。
(それは…無理だ…できない…)
キョンシーはそう伝えて来たが、大村ユウジにはキョンシーの脳裏によぎったそれが見えた。そして理解した。その方法があるということを。
キョンシーは生ける屍、言い換えればゾンビだ。ゾンビは人間を食う。キョンシーは食い、そして食うことにより相手の力を得るのだ。
「食わ…れる…。」
大村ユウジの背中を冷たい汗が流れた。
(いや、それはできない!)
キョンシーの必死の叫びが大村ユウジの脳に響いていたが腹は決まっていた。
話を聞いていたゲートキーパーはゾッとした。
「まさか…あなた自ら食われたんですか…?」
「流石に殺されてから食われたよ。生きたまま食われるのよりは痛くなさそうだからな。」
「なんで…そんな…一緒に行動するとかあったでしょうがっ!」
あまりにも人が良すぎる。むしろイカれてる。ゲートキーパーは呆れた。
「他人が間に入ったらまとまる話もまとまらねえからな。三番目にクビになった時だってそうだったんだぜ?セクハラでクビになったんだけどとんでもない話よ。不倫してた課長が会社や奥さんにバレそうになったから別れようとしてたんだけど拗れてさ。内緒で僕に説得してくれって言って来たんだよ。まあ相手の子も頑なでさ。三ヶ月くらい?毎週末会って話したんだけど、別れないの一点張り。そのうち僕に会うの嫌がり出したんだけど、課長に頼まれてたし、もう後にも引けない感じあったし…だから…まあ…その…本当はこういうの、よくないなとは思ってたけど…その子に好きって言っちゃったんだよね…。」
大村ユウジの歯切れが悪くなった。そんなこともできたのか…とゲートキーパーは思った。
「好きだったんですか?その子のこと。」
大村ユウジはくしゃくしゃと頭を掻いた。
「好き…とは言えなかったけど、うまくやれなくはないと思った。」
「そんなの、相手に見透かされますよね。」
「うーん…多分…全部知ってたんだろうな…あの子。課長が別れようとしてることも…僕が課長に頼まれて説得してたことも…。」
大村ユウジは、苦虫を噛み潰したような顔で続けた。
「僕があの子を好きじゃないことも…。」
重い沈黙が流れたその時、時計が昼を告げた。
結局、午前中は大村ユウジの話を聞いて終わってしまった。




