仙人界へ行ってきました①
「次はここ行ってみましょうか。東洋の魔法文明が発展している世界…仙人がいる世界です。キョンシーを使って世界を征服しようとしている仙人がいるので阻止してください。」
「キョンシー!懐かしい!夏休みに午後のロードショーでやってたの見たわ〜。お札貼ればいいんだよな!」
「あなたのオーラは、ここでは六つある神通力のどれかに変換されます。」
「うわあ。フワッとしてる!」
「どこかの集団に入るとなると、あなたのそのお節介な性格が邪魔をして前回と同じ轍を踏みそうなので一人でやってください。」
ゲートキーパーは考えた。
異世界に転生することで、良くも悪くも今までの人生の常識は覆され、倫理観はぐちゃぐちゃにかき回される。ある者は高揚し、ある者は気落ちする。とは言え、それらの反応は自分中心だ。そんな状況で、他者のことまで構っていられないのは当然のことだからだ。
しかし、この大村ユウジという男は、お喋りで距離感がバグっているくせに、他者のことを放っておけないお節介だった。チュートリアルに他者が関わると、大村ユウジはそちらに振り回され失敗する。
それを封じるには、関わる人がいなければいい。
「うっわ!責任重大じゃん!嫌だなあ…ゲートキーパーくん、一緒に行ってよ。」
追加でノンデリカシーでもある。
「バカですか?あなたは…ふざけてないで転生しますよ。」
大村ユウジは山中にいた。周囲には青々とした竹が茂っている。
「めっちゃパンダいそう。」
独りごちた瞬間にバサバサと音がして鳥達が飛び立つ。
「うわっ!怖っ!」
驚いて上げた大声がエコーしている。自然が織りなす音以外が存在しない世界で、不自然な音を出した時の拒絶する空気が満ちていた。ゲートキーパーは神通力といっていたが、それって何ができるんだろう?大村ユウジはジッと手を見た。漫画やゲームだと大体魔法は手から出るからだ。
「やぁっ!」
気合いを発しながら正面にある竹に手を向ける。何も起きない。ただ自分のバカっぽい気合いの声がエコーし、バサバサと鳥が飛んでいく。誰にも見られていないのはわかるが気恥ずかしい。大村ユウジは、気恥ずかしさを打ち消そうとネクタイをキュッと締めた。その時だった。
(…カ…セ…)
声が聞こえた気がした。
「誰かいるんですかあ?!」
え…今の一連の行動見られてた?やべー!恥ずかしい!と思いつつも、状況がわからないことから来る不安を打ち消せるならと考え大声で呼びかけた。
バキバキという、何か大きなものが竹を破る音が響く。鳥達が次々と逃げ惑っていく。じわじわと近づいてくる竹を割る音は次第に地響きも伴う。
「なになになになにぃっ!?」
本能が逃げろと言っているが、すでに地響きは逃げることもおぼつかないほどの揺れとなっていた。
(…ヲ…エ…セ…)
微かな声がまた聞こえた。大村ユウジは、誰かいるならこの竹を割ってる、多分化け物から助けないとと思い、逃げようとするのをやめ、音と地響きの方へ向き直った。
竹を割る音と地響きは、遂にさっき自分がダサい声を出して割ろうとした竹に達し、化け物が姿を現した。
身の丈三メートルはあろう巨躯が耳をつんざく咆哮を上げる。人型で肌の色は青白い…まさに屍のそれだった。
「まさか…これがキョンシー…?」
午後のロードショーで見たやつと違いすぎる。
「どうやって倒すんだ…?」
神通力の使い方もわからない。これのどこがチュートリアルなんだと大村ユウジは思った。
(ム…カ…エ…)
また声が聞こえる。そうだ、この人物を助けなくては…しかし姿が見えない。
「ねーえー!さっきから喋ってる人!どこにいんのー?!」
大きく呼びかけた声にキョンシーが反応し、殴りかかってきたが、ただの社会不適合者である大村ユウジにそれを防ぐ術はない。あっさりと殴り飛ばされた。
(娘を返せ!)
キョンシーの拳が触れた時、それまで微かにしか聞こえていなかった声がはっきりと聞き取れた。そして大村ユウジは気がついた。これは、耳で聞いてる声じゃなく、頭の中に響いている声だということに。
なるほど、これが神通力か、大村ユウジは思った。こんな化け物に一回ぶん殴られないと知見が得られないチュートリアルって随分と荒っぽいなぁと打撲したあちこちの痛みに悶えながら考えた。
「なぁ!娘を返せってどういうことだ?」
大村ユウジは大声で尋ねた。しかしキョンシーは怒号を上げて襲いかかってくる。
「話通じねえ!僕が日本語だからか!?」
という事は、またキョンシーに触れ、心の声を伝えなくてはいけない。また殴られなきゃいけないのかよ…大村ユウジは気持ちが沈んだ。
でもやるしかない、大村ユウジは振り下ろされた拳にしがみついた。その瞬間、大村ユウジの中に知らない記憶が流れ込んできた。
仙人達の神通力が世を動かすこの世界。都市部では、国の主権を握ろうと企てる仙人達が切磋琢磨し、各々の仙術を駆使し、政治、経済、文明を高めている。しかし都市部から遠く離れた村々は、その恩恵に預かることもない。日の出とともに畑に出て、日が沈んだら妻が待つ家に帰る。慎ましい暮らしだが、都市部にはない穏やかな日常がある。やがて二人に訪れた幸福な報せ。子どもができたのである。しかしいつでも幸福と不幸は背中合わせだ。二人に訪れた幸せであった娘の誕生は妻の命を奪うという不幸を連れてきた。悲しみに暮れるが、残された幼子のために前を向く父。娘はそんな父の気持ちの答えるようにすくすくと育ち、やがて自分の置かれた立場を理解し、父と助け合う関係となる。
世の中は、都市部での権力争いが激化していた。政敵を打ち負かすために各政党は神通力の強い人間を求め、手に入れるために人の道を外れた行動を取ることすら辞さぬほどだった。
ある日、畑から戻ると娘の姿が消えていた。娘は強い神通力を秘めていた。
己の全てであった娘の喪失は、父を自死へと駆り立てるのに十分すぎるほど十分でお釣りが来るほどだった。
しかし死しても悲劇は終わらない。娘を誘拐した政党とは別の政党がその事実を知り、父の亡骸をキョンシーにし、政敵の非合法な行いを白日に晒し、あわよくば娘も手に入れようと企てた。
知らなければ、僕はこの人を倒してチュートリアルを終えてミッションに臨めたのだろうなあと大村ユウジは思った。
転生時に変換される力は、この世界のように力が多岐にわたる場合は、何者によっても選ぶ事はできず、ただ偶然と運命に任せるしかない。六つの神通力のうち、よりによって、共感性と同情心のお化け、お節介の塊である大村ユウジのオーラは他心通、所謂、読心術、テレパシーに変換された。
そうなると、もちろん大村ユウジの考えは一つだった。




