ランチとエラーチェックと次の転生先。
「ここは…?」
「お目覚めになりましたか…。」
「ひっ…お…おま…あなたは一体?ここは何なんでしょうか…?」
「…並行世界を…ご存知ですか…。」
「はっ…はひっ!並行世界って、あ、あの、パラレルワールドのことでしょうか…?」
「…そう…です…。ここはその…並行世界同士を繋ぐ門…私は…その門を管理し守る者…ゲートキーパー…。」
「それは俺は異世界に転生するってことでよろしかったでしょうか?」
「あなたは…こちらの世界を…救う勇者として…召喚されました…。」
「ねーえー。ゲートキーパーくぅん!それじゃ転生したい人怖がっちゃうよぉ〜?もっとほらぁ!笑顔!笑顔!」
大村ユウジのうるさい声が響き、ゲートキーパーを苛立たせる。
昨夜、大村ユウジを無視したが効果はなく、一人で好みの女性のタイプを喋りまくり、結局、ゲートキーパーは2時間程度しか寝ることができず、仕事へのモチベーションが上がらないし、気も立っている。どの口がいうか!こいつのせいで寝不足の中、必死で働いているというのに…ゲートキーパーは、頭の中で何かが弾け飛ぶ音を聞いた。
「はぁぁっ?!誰のおかげでこんなテンションになってると思ってるんですか?」
「すっすみません!」
突然のゲートキーパーの激昂に意味もわからず転生者が詫びの言葉を口にする。
「あなたは関係ないです!」
「すみません!すみません!」
「ごめんねえ。転生者さん。ゲートキーパーくん、残業続きで機嫌悪いのよ。」
「え…スーツ…なんでサラリーマン?」
「その残業続きの俺の睡眠時間奪ったのはあんただろ!」
なぜか転生者は頬を赤らめた。
ゲートキーパーはため息をつき、膝から崩れるように椅子に座った。ちょっと気を落ち着けるためだけに座ったのに、瞼が自然と上がることをやめようとする。
「あ、あの…私めはどうしたらよろしいでしょうか…。」
転生者は狼狽えてゲートキーパーと大村ユウジを交互に見た。
「あなたの生前の行動や思想、そして願いなどが反映され、あなたの持つオーラは成長しています。今、あなたが持つオーラがピッタリの世界がこちら…やばっ全然読めねえ…あー、行くとチュートリアルがあるのでわかると思いますよ。そこではなるべく死なないようにしてくださいねー。あなたのオーラは異世界で必要な力に変換されます。それで、きっと世界を救う役に立つことでしょう。」
遠くで人の話し声が聞こえる…ゲートキーパーはハッとした。まずい!寝てた!慌てて立ち上がる。
「…すみません。あのどこまでお話ししましたっけ?」
くそ!ただでさえ時間が足りない1日なのにこんなことで時間を使ってしまった。ゲートキーパーの眠気は焦りで吹き飛んだ。
「こちらの方から概ね伺いました。」
ソファーに座った転生者が言った。大村ユウジは笑顔で親指を立てている。時計を見ると寝てしまったのは十分程度だった。
「そうでした…か。では、あなたの転生先は宇宙開発の進んだ世界ですね。では、転生します。」
「先ほどはありがとうございました。」
午前中の転生を終えた時、ゲートキーパーは大村ユウジに礼を言った。
「いや、元々僕がチュートリアルで死んだのが悪いんだし、これくらいは手伝わせてくれよ。なんか偉そうな雰囲気も出せるし僕は楽しいぜ?」
チュートリアルで死んだのは俺にも責任がある、ゲートキーパーの胸が少し痛んだ。そもそも地獄からあぶれた人を転生という断罪する意味を持たない言葉を使い、結局は断罪する…それは
「それより昼飯どうすんだ?」
ゲートキーパーは、大村ユウジの間の抜けた声で我に返った。
「昼ごはん…。」
「どうした?」
「いや、そうですね。」
もう自分は割り切ったはず、そう思っていても時々考えに沈むことがある。
切り替えていかねば…午後の転生予定者は四人…一人は確か大村ユウジと同じ地獄の下請け。定時内でギリギリ収まるレベルだ。大村ユウジの転生先を探している余裕がない。
「いつもは外のカフェで食べてるけど…今日はそんな時間も…食べてる時間もないかも…誰かさんのせいで。」
大村ユウジの転生先探しは昼休み返上でやることになりそうだとゲートキーパーは思った。
「なあ?ここって…言やぁゲートキーパーくんの働いてる会社なんだろ?会社だったら給湯室があって、冷蔵庫とか湯沸かし用のこじんまりしたコンロがあったりして、まあ簡単なもんならそこで作ることもできたりしてたけど、ここってそういう設備ないの?」
ゲートキーパーは、会社、給湯室、コンロ…全て資料で目にしたことはあるけど、実際はどんな用途で使うどんなものかは知らない。
「あなたの言ってるものがどんなものかよくわかりませんけど、キッチンなら左の扉です。俺は仕事があるから勝手に使ってください。」
「え?いいの?」
「いいから!俺の!邪魔は!し・な・い・で・ください!」
喋りも動きもうるさい距離感バグりおじさんをキッチンに追い払ったゲートキーパーは転生先リストを手に取る。大村ユウジの前回の転生先とのマッチング率は八十五パーセントだった。マッチング率が九十パーセントを超えるものはあまりない。八十五パーセントなら順当にいけば上手くいくはずだった。だから転生先でのミッションに問題があったとは思いにくい。じゃあ何がいけなかったのか…。
その時、ゲートキーパーは何かが焼き上がる香ばしい匂いを感じ取った。
「ゲートキーパーくん!昼飯できたぜ。なんかよくわかんない食材ばっかだったけど油で炒めて上手くない食いもんはないからな!多分美味いぜ!」
油で炒められた穀物とハーブが二人分の皿に盛られていた。
「俺は食べる時間は…。」
「まあいいから食おうぜ。寝不足の時ってやたら腹減るしさ。あれ、なんでなんだろうな?」
こういうところか!ゲートキーパーは閃いて、転生先リストのページを繰った。見つけた…大村ユウジに見合った転生先が。




