ディストピアに行ってきました①
「はあっ?!」
杖、転生者リスト、処理済みの個人情報書類、キャビネットにしまわれるはずだったそれらのものは床にあった。
驚きのあまり、ゲートキーパーが取り落としたのだ。
「何で…何でいるのっ?!」
「向こうで殺されたから?」
そんなことあり得ない。
死んだ者のゴールは次のスタートに立つことだ。天国は、その人の前世の善行に応じた労いを与え、地獄は、その人の前世の悪行に応じた刑罰を与える。それにより前世は清算され、次の生を受ける輪廻の輪に加わる権利を得る。転生はもっとわかりやすく、ゲートキーパーが提示した異世界でのミッションを終えることが前世の清算になる。前世の清算、輪廻転生を目的とした仕組みなのだから、どれも最初に前世が精算されぬままで死ぬようなことがないように設計されていた。
「あり得ないですよ、こんなこと…そりゃ君は罪人だからリスクが大きいタイプの異世界への転生になるけど…それでもちゃんと君の前世の罪と照らし合わせて、清算できるレベルのとこに転生させてる。それに転生場所への最初の着地点は、その世界のルールと自分の役割を認識してもらうことを目的として選ばれています。そこで死ぬなんて、そんなこと…」
こんな時どうしたらいいんだ?ゲートキーパーは、床に散らばる杖、転生者リスト、処理済みの個人情報書類が入る予定だったキャビネットの扉を次々開きマニュアルを探した。この職に就いて三百年は経っているゲートキーパーは、もう何十年もマニュアルを開くことなどなくどこにしまったかも覚えていない。くそ…どうしたら?
「なるほど…」
ゲートキーパーの焦燥感を他所に、話を聞いてから考え込んでいた大村ユウジが頷いた。
「僕、罪人だったのか…。」
ゲートキーパーはハッとした。
「そりゃそうでしょうよ?だってあなた、横領してんですよ?それ、忘れてるって天然通り越してサイコ入ってて流石に引きますよ?それともごまかしているんですか?そんなこと今更無駄ですよ。」
ゲートキーパーは大村ユウジに一瞥をくれたが、ただの天然な喋りすぎるおじさんではなく、現世で罪を犯してここに来たことを忘れかけていたのはゲートキーパーの方だった。もう少し、気を引き締めなくては。どうも大村ユウジにはペースを乱されてる気がする。
「横領?」
大村ユウジが一瞬何かに気がついたように見えたが、気のせいかもしれない。それはそれくらい仄かなものだった。
「まさか会社のお金を持ち逃げした程度大したことじゃないって思っちゃうようなメンタリティなんですか?それだとさすがに地獄に異動願を出さないと…。」
「うげっ!」
ゲートキーパーの言葉に大村ユウジは青くなって慌てた。
「まっさかそんなことあるわけないでしょ!そうそう、横領ね。横領は悪いわ〜。確かに罪人。マジ罪人。しかし罪人って…古風な言い方するね。脳が読み込むのに時間かかっちゃったよ〜。ゲートキーパーくん、家具調度品もだけど語彙力もアンティーク好みなんだね〜!いっやぁ、オシャレだなぁ。」
大村ユウジが肩に腕を回し、ゲートキーパーの背中をポンポンと叩いた。
「あーでも、つまり、僕はゲームで言えばチュートリアルで死んだって感じかぁ…ダサ…えーでもあの状況だと…正解は何だったんだ?」
何となく距離の近さが気になったゲートキーパーは、肩に回された大村ユウジの腕を引き剥がしながら聞いた。
「何でこうなったんです?」
大村ユウジが話し始めた。




