ディストピアに行ってきました②
転生先はディストピアの世界。
立法・行政・司法、そして経済はコンピュータに統べられ、人々はベーシックインカムで平等な生活を保証されるが、無数の監視カメラにより監視され、自由な行動は制限されている、そんな世界だった。
自由はなくとも不自由もない日々、多くの人々は良くもないけど悪くもない状況で、自由という人間にとって最大の快楽を損なっているという現実を忘れていた。しかしこういう世界にはお決まりの反乱分子がいる。大村ユウジはその反乱分子の一員となり、コンピュータの統べる世界を破壊し、自由な行動ができる世界にするために力を貸さなくてはいけない。
それが良いことなのか悪いことなのか。その判断は誰にもわからない。ただその世界線がそのように決められているからそうするだけだ。
そんな世界で大村ユウジが最初に目にしたのは鈍く光った銃口だった。これまでの人生で銃口を向けられたことは当然ない。故に初めての体験なのだから狼狽えるのは当たり前のことだ。
「うわぁっ!」
「うっうわっ…あっあっ!」
なぜか大村ユウジと同じくらい狼狽えながら銃を突きつけていたのは、青年というにはまだ若く、少年というには大人びた、思春期真っ只中の若者だった。
なんで銃口向けてる方も狼狽えているんだろう…湧き上がった疑問は大村ユウジの頭をスッと冷ややかにした。
「ううううううううううごうごご…動くなぁ!」
若者は相変わらず狼狽していて、声も手も足も震えている。
そんなに狼狽えるなら見知らぬ他人に銃口を向けなきゃいいのに…と大村ユウジは思った。
「あの…まあなんかちょっと落ち着こう?」
タタタタッ
若者の持つマシンガンから軽快なリズムで弾が放たれた。
「嘘ぉぉぉっ!?」
「ひゃえっ?!ひー!」
銃口を向けられたことのない大村ユウジだから、もちろん銃弾を撃ち込まれたこともなく、恐怖の叫びを上げることもやはり無理のないことだ。しかしまたも若者も金属を擦り合わせるような悲鳴をあげる。
「だから何で?」
「なん…あ…な、何がぁ!?」
「何で怖がるのに撃つのよ!?」
「はあ?!こわ…あ、撃ってねえし!」
若者は顔に色がなくなっている。ヒリヒリするような緊張感が空気を伝わってくるようだった。
「でも初めて見たよ。銃も、実弾撃つとこも。ありがとうな!」
「あ…う、うん。」
緊張感の漂う空気に亀裂が入った。今ならいける!大村ユウジは思った。
「あのさ、僕、大村って言うんだけど。」
「え…あ、俺はキヅキ。」
「キヅキくんか!よろしくね!」
大村ユウジが笑顔で右手を差し出すと、キヅキと名乗った若者はその手に握手を返してきた。
「よし!じゃあもう僕らお互いの名前もわかったし握手もしたし友達だよな。友達になれたよな?せっかく友達になったんだ、助け合って行こうよ。そのためには、今の状況がわからないといけない。そこは申し訳ないけど君に頼るしかないんだ。あ、もちろん頼りっぱなしになるつもりはないよ。僕は見ての通り君よりも年上で…多分、君とは違う価値観で社会経験を積んできてる。今の状況がわかればそれを君と僕のために生かすことができると思うんだよ。だからまずここがどこなのか教えてもらってもいいかな?」
キヅキの顔が曇り、握手した手をスッと引っ込めた。
「友達って言葉を軽々しく使う奴は信用出来ない。」
大村ユウジは、いきなり銃口向けて、しかも撃ち込んでくるやつの方が信用できないけどなあ…と思ったけれど、相手はまだ子どもだし、それにここは異世界だ。価値観の違いもあるだろうと納得した。でも、世界の価値観が違うのならば本当のことを話してもいいんじゃないだろうか。
「そうか。そう簡単には信用出来ないよな…ごめんな、軽はずみに友達だなんて言って。ただ軽はずみではあっても、だから嘘だってわけじゃあない。キヅキくんと友達になりたい、それは本当だよ。僕、別の世界で死んでここに転生してきてるんで、この世界に友達いないんだ。」
先ほどの緊張感とは違う冷えた空気が流れた。
「いや、あの、今のご時世、友達いないのそんなに恥ずかしいことじゃないんで、変な言い訳しなくて大丈夫デスヨ。」
ですよに感じるカタカナ感…まずい、ぼっちなのをヤバい言い訳でごまかそうとするやつみたいになってしまった…益々距離が開いたのを感じる。正直に話した方が信用されるなんて言うのは都市伝説だな。
「でもキヅキくんは友達や仲間がいるんでしょ?」
「やっぱりお前政府の犬かっ?!」
キヅキがまた銃口を向ける。大村ユウジは咄嗟に両手を上に上げる。確かここはディストピアな世界と聞いている。
「ってことは…キヅキくんは政府に反発する立ち位置?」
「だったらどうした?仲間に知らせようってのか?その前にお前をぶっ殺してやんよ!」
キヅキが引き金に指をかける。さっきまであんなにビビっていたのに…いや、ビビリが頂点に達するとキレ散らかすタイプの人もいる。これはまずいことになった。今度はさっきのうっかりの発報とは違う。ちゃんと狙われてちゃんと撃たれるやつだ。多分ちゃんと殺される。
その時、突然大音量のサイレンが鳴り響いた。
「うるさっ!何これ?!」
「やっやっぱりお前っ!仲間に知らせやがったな?!」
「えー?なんてー?きーこーえーなーいー!」
「だからあっ!仲間にぃ!」
「えー?なーにー?!」
大村ユウジがキヅキの言葉を聞くために距離を詰めた時。
タタタタッタタタタッ
先ほど初めて聞いた聞いたことのある音が四方から響き渡り、大村ユウジに激痛が走った。
「え?!今死ぬの?!」
盾となった大村ユウジの体の下でキヅキが真っ青な顔で震えていた。キヅキくんの仲間はここにはいない。つまりここは敵の本拠地かなんかだ。
「キヅキくんはこの辺の地理詳しくわかってんだよね…うえええ…いでええ…僕のことはいいから…あの…気持ち悪…うええ…なんか多分…不思議な力が働いて何とかなるやつだと思うから…仲間や友達のもとに逃げな…」
「ひ…ひぃ…!」
キヅキの体は恐怖で固まってなかなか動かない。
「ほらもう行きなって…ばっ!」
大村ユウジはキヅキを蹴飛ばした。その刹那マシンガンが乱射され、大村ユウジの意識は途絶えた。




