魔王の父になりました③
「殺していいんっすよねえ?!」
「ガキは殺していいがよ、親父は一般人だ。俺ら公務員だぜ?殺していいわけねえだろ。」
「前回は殺したじゃあないですか。」
「滅多なこと言うんじゃあないよ。あれは事故だろ?事故。」
「今回もそれじゃダメなんですかねえ?」
「最悪それもありかな。ただ前回みたいに仕留め損ねるリスクもある。あくまでも最終手段だな。」
男達は大村ユウジを探してコンビニの中へ入って行った。
コンビニ前の歩道の街路樹の上で聞いていた大村ユウジは憤りを感じていた。こいつらがアユムの両親を…その上僕まで殺す?一体何のためにそんなことを?
大村ユウジは街路樹から降りてカーシェアリングのできる駐車場まで走った。
「アユム、まだ眠いでしょ?寝てていいからね。」
大村ユウジは、助手席のアユムに声をかけた。
「んーん!おでかけたのしい!」
「そっか。お父さんも楽しいよ。どこ行きたい?アユムの行きたいとこ行こう。」
「うーみーっ!うみいきたい!おしゃかなみる!」
「おお!じゃあ、海行って、朝になったら水族館行こう!そんでアイスも食べちゃおう。」
「わーい!」
大村ユウジはナビを北海道に合わせ、その逆に向かった。男達は自らを公務員だと言っていた。事故に見せかけた殺人が不問に付されたことも…何か国家規模の大きな組織であることがそこから推測できる。そんな奴らならナビをハッキングすることもできるだろう。大村ユウジは、例え浅知恵であっても少しでも撹乱できればと考えてそうした。
朝方の海は美しかった。
アユムは助手席で寝息を立てている。大村ユウジはぼんやりと海を眺めて考えていた。今回は死ぬわけにはいかない。なぜなら狙われているのはアユムで、大村ユウジは殺してはいけない対象となっている、つまり、大村ユウジが生きて一緒にいればアユムは殺されないからだ。何か巨大な組織から命を狙われる子どもを、自分が生きることで守りながら育てるということがゲートキーパーの言いにくかったことなのだろう。チュートリアルで4回も死んでるやつには、それは確かに言いにくい。
「全く不甲斐ないな…僕は。」
大村ユウジは気分を変えようと思い、車の窓を開けて外の空気を入れた。
その瞬間、頭に冷たい感触。
そっと視線を動かすと銃口。
「大村ユウジさん、ちょっとお話できますか?」
聞き覚えのある声。夜、部屋にいた男のうち、一人だけ敬語で話しかけられていた男だ。多分リーダー格なんだろう。素人である己の浅知恵などプロには通用しないと大村ユウジは思い知った。
「この世界は、あなた方国民の皆さんが知らないところで秩序が作られ守られています。」
カチリと音がした。撃鉄を降ろす音だろう。つまり、自分が何か行動を起こしたら容赦なく撃たれるということだと大村ユウジは思った。
「世界有数の頭脳を結集し、スーパーコンピュータや衛星などの最先端の科学技術を用いて、常に見守り、分析し、秩序を守り、世界を崩壊に導く不安要素がないようにしています。」
周囲を見回すと、追ってきていた男達が各々銃を持って車を取り囲んでいた。こんな状況、どうにかできる力なんて自分にはない。だが、何としてもアユムだけでも逃さなくてはと大村ユウジは思っていた。
「三年前、世界を崩壊に導く存在が発生したことがわかりました。それが、今のあなたの息子さん、大村アユムくんです。彼は世界を滅ぼす、言わば魔王のような存在です。」
「はあ?」
男はもう一度ゆっくりと言った。
「大村アユムくんが、世界を滅ぼす魔王なんです。」
「何それ…?」
「我々は特命を受けて、世界を崩壊に導く不安要素を取り除く仕事をしています。」
男が大村ユウジの頭に突きつけていた銃口を助手席に移した。
「不安要素を、取り除く仕事を、ね。」
大村ユウジは銃口からアユムを庇うように前に立ちはだかった。
「おわかりいただけましたか?そういうわけで、あなたの一時の感情でどうにかなるお話じゃないんですよ。」
「おわかりなんかいただけねーよ…」
「おや…。」
「そんなわけわかんねー組織のわけわかんねー理由で親殺して、僕も殺そうとして…そんな酷いことばっかされてたらどんな子どもだって世界の一つや二つ滅ぼしたくなるわっ!当たり前だろ?!そんなこと…お前らがそんなことするから世界が終わるんじゃねーか!」
大村ユウジが声を荒げ、車のドアを勢いよく開けると、男は弾き飛ばされた。
「くそっ!撃て!」
ドアをぶつけられた男が叫ぶと、周囲の男達がアユムに向けて銃を撃った。大村ユウジは咄嗟にアユムに覆い被さる。
銃声が轟く。
「お父しゃん?」
騒動でアユムは目を覚ましていた。
大村ユウジは死ぬことを覚悟し強く目を閉じた。しかし、銃弾の衝撃はない。
「がっ…あっ…あ…。」
息が詰まるような声がし、その後何か水っぽいものが潰れた音がした。大村ユウジがそっと目を開けてみると、リーダー格の男のいた場所には大きな赤い水たまりができていた。
「う…うわあ!」
周囲の男達が我先にと逃げ惑う。
「お父しゃん、しぬのだめー。」
アユムの目が赤く光り、逃げた男達は次々と血の柱となっていった。アユムが…人を…大村ユウジは頭がクラクラした。自分が殺されたばかりに…いや、死んでない。撃たれたはずの大村ユウジは、怪我一つしていない。足元には潰れた銃弾が散らばっていた。これもアユムが…世界を滅ぼす…なるほど、確かにこの超能力だけ見れば、そういうこともあるのかもしれない。しかし、そんなことより大村ユウジが心を痛めたのは、アユムに人を殺させてしまったことだった。
「アユム…ごめんね…お父さん大丈夫だから、その、ごめんね、こんなことしないで…お父さん自分で何とかできるから…こんな…ごめん…もう人殺しなんかしないで…お願いだから…ね。」
大村ユウジはアユムを強く抱きしめた。




