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第7話 格上

 デムという不良によって首に装着をされた爆弾を解除するために、僕達は遊園地で、その方法が書かれたメモを探している。

 受付で貰ったパンフレットを確認すると、園内はなかなか広く、ただ闇雲に彷徨うだけでは、徒に時間を過ごすだけになってしまうだろう。


 あと十分程で十一時になる。

 十二時までには学園部へ戻る必要があるため、そこまで向かう時間も考慮して捜索に当たらなければならない。


(最大で、あと四十分)


 残り時間が三十分となれば、速度の出る電車での帰還となる。入学式では一人で載った電車に、みんなで載るとどうなるか。

 楽しいだろうか。試してみたい気持ちもある。少しのんびり探してみようか。


 そう思った僕の背後に、何かが降り立った音がした。


「誰ッ!?」


 飛び退くように距離を取りつつ振り向いて、そこに現れた人物を確認する。

 着崩したブレザーの制服。緩くパーマを当てたような、ふわふわとしたロングの金髪。スティックのついた飴玉を舐めている気怠そうなその姿は、どこかステレオタイプのギャルを彷彿とさせた。


「いえーい。なかなか良い反応だね。君は――ライズって言ったっけ? 教員の間で話題になってるよー。今度のチートはいつまで持つか、って」


 朗らかに笑いながら、そう発言をする。


 和気藹々と話しているように思えるが、その右手には大太刀と呼べるくらいには大きな刀を携えているため、どこか油断できない。


「どういう意味?」

「大抵の人は、息苦しくなって途中で能力を変えちゃうんだよ。チートは大変だよ? 校則もきっちり守っていかなきゃならないし。髪、染めたくない?」

「僕は好きで黒髪を選んだから」

「えらーい。遊びたくならないんだ」


 毛先を摘んで、顔の前に掲げで満足そうに見つめている。


「色々変えたりするの?」

「気分次第でねぇ。今は金髪がお気に入り。でも個人的に好きな色が青なんだよねぇ」


 また変えるかも? なんて笑う笑顔が、悪戯っぽくてなんだか愛嬌がある。


 不良なのだろうか。それとも、受けたい授業がないだけの普通の生徒か。遊園地にいる生徒は、比較的後者が多いのではないか、と推測できる見た目の人が多い。


(人を見た目で判断するのは、危険かな)


 デムの例もある。あれの見た目も、とてもじゃないが愉快犯には見えなかった。


「それで、何のようです?」

「ちょっと、遊んでみようかな。――ってね!」


 一瞬で距離を詰められ、振り下ろされる大太刀。

 見えない壁を作って受け止めようとしたが……。


(笑った――っ!?)


 ちょっとした違和感。

 それに従うようにバックステップをする。すると、はためいたセーラー服の裾がぱっくりと裂けた。


 直感が功をなした。そう感心する暇もなく、相対する彼女は大太刀を振るう。


(どういう条件だ?)


 考えながらも、再び壁を作り、僕は飛び退く。

 大太刀はしっかりと壁に激突し、そこに止まっている。だから、刃自体は僕に当たってはいない。それなのに制服の裾が裂けたということは……。


「大太刀から一定の距離までは、刃の影響を受ける?」

「おー。ご明察。結構簡単に見破ってくれるね。振るうと問答無用で斬られると思って、ただ闇雲に逃げていく人が多いんだけど」

「それが能力なの?」

「いやいや、これはDクラスの特注品。そこの生徒とは仲良くするのをお勧めするよ」

「ご忠告、どーも」


 それを明らかにしたところで、一体どう対策すれば状況は好転するのか。

 様々な選択肢が取れる能力なだけあって、どれを実行すればいいのか決め手にかけるような……。そうやって悩んでしまうということは、この能力が自分には合っていないのかもしれない。


 なるほど、途中で変えてしまう、か。そう言った面での気づきもあるから、変える人も多いのだろう。


 彼女のターンは終わらない。


 力任せに振られる大太刀は、防がずに躱して見せれば大きな衝撃音と共に地面に打ち付けられる。けれど、それは斬れるどころか、破損することもない。


「制服は斬られたのに、地面は無事。不思議?」

「うん」

「制服は消耗品だから、だよ。この世界では消耗品は破損するけど、構造物や、私達みたいな生命体は破損しない。そういうルール」

「つまり、怪我をしたりしない」

「そう。でも痛いよー。デムの爆弾は」


 また、愛嬌のある笑顔を見せる。


 痛い。あぁ、やっぱり痛いんだ。それをしっかりと学んでしまうと、この能力を攻撃に転換させた時、どこまでの行為をすることを、僕自身が許容できるのか。

 それがどうしても不安になってくる。


 空間を、殴るような動きをさせる。刃のようにする。圧をかけて圧し潰す。そのようなことは当然できる。一つ目に関しては、実際にやった。銃弾のように放つことも。


 それが、今は実行に移せない。


 玩具を得たばかりの子供のように、無闇矢鱈に楽しみを見出す段階は過ぎ去って、それが及ぼす影響の意味を考える様になった、のだろうか。


「ふーん。君は結構、平和な世界で生きてきたみたいだね。能力の使い方、戦い方ってのを計っている。自分が抵抗を感じること、やりたくないんでしょ? うふっ、良い子ちゃんめ」


 振り上げられる大太刀を防ぐと、その間隔を読み間違えたのか、スカートの裾が大きく裂けた。


 たしかに、自分の能力がどのような影響を及ぼすのか。僕はそれが怖くなっていた。だから――。


「おっ。そういう事もできるんだ」

「うん。便利でしょ」


 彼女の持つ大太刀と、全く同じものを作り出した。その重さは片手では支えられないので、必死で両手で持ち上げる。


「これを片手で振り回すとか、ゴリラかなんか?」

「うーん、どちらかと言うとコングかな?」


 はにかむように言っているが、その言葉の意味はよく判らない。そもそも、コングとはどういった意味なのか。ゴリラを指しているのだろうか。

 ゲームや映画に登場することの多いその言葉。特に疑問に思ってこなかったことが、なんだか気になって仕方がない。


 はぁ、――手が空いていれば、スマートフォンで調べられたのに。


 残念ながら、彼女は打ち合いを望んでいる。


「せぇいッ!」


 振り下ろされる大太刀を、僕は迎え撃つように振り上げようとする。

 重さに耐えきれないこちらの不利。けれど、それは空間を固定することで何とかなる。


 ただ、当然この大太刀が持つ力、刃の影響を逃れることはできずに、僕の身体に引き裂かれるような痛みが襲う。けれど、それは彼女も同じはずだ。それなのに――。


「なんで……、そんなに思いっ切り振れるの?」

「それが、争いのある異世界へ転生するってことだよ。平和な世界で生きてきたのなら、それに慣れないと。もしも記憶を持ったまま直接異世界に行ってしまったら、戸惑うこと必至ってね!」


 もう一撃。もう一撃。そう何度か繰り返される剣戟に、僕はひたすら耐えている。


 ただ単に、面白そうだと思って得た能力。それを振るう爽快感を得るためのものだと思っていた戦い。

 それをここまで真剣に考えてしまうのは、彼女の持つふんわりとした雰囲気のなかにある、どこか研ぎ澄まされたものを感じているから、なのだろうか。


(この人から、何かを得たいと思っている?)


 自分でも不思議に思う感覚。それほどのカリスマ性を、彼女は持っているのだろうか。

 只者ではない。そう感じた直後に、武器に振り回される僕の隙を狙った一撃が迫る。


「そこまでッ!」


 刀と鞘。二本の獲物で、それぞれの大太刀を抑えてみせた椿が叫ぶ。


「わぁお。風紀委員のエースがご乱入、ね。これは引かないと駄目だなぁ。……ちぇ。この子は素直で面白そうって思ったのに」

「そうやって、唾を付けるのは悪い癖ですよ。生徒会長」

「生徒……会長?」


 いえーい、とピースサインを見せる彼女を見て、まさか生徒会長だと思う人も少ないだろう。

 けれど、あれだけの動きをしてみせるのならば、なんだか納得してしまうと僕は思う。


「ま、急に手を出したのは悪かったと思うよー。その謝罪代わりに、これを授けよう」

「いたっ」


 僕の額に、紙飛行機が命中する。

 なんだろうと開いてみれば――。


「デムのメモッ!?」

「あははっ、あいつって調子に乗っているから、意外と尾行に気が付かないんだよね」

「着けるくらいなら制裁を与えるくらいはしてください!」

「それは風紀委員の役目だもんねーッ!」


 そんな捨て台詞を発して、忽然と姿を消した生徒会長。


「はぁ。見ての通り、自由な人です。けれど、とても長く研鑽を積んだ、完璧主義の人なんです。だから、いつまで経っても卒業しない。そんな人だからこそ――」

「学べるところもある?」

「――ですね」


 ともあれ、確かに得るものがあった戦いだった。

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