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第6話 パラレルワールド

 果樹園でメモを見つけ、残るメモはあと三つ。それらを集めて指示された通りにフリック入力をすれば、僕達の首に仕掛けられた爆弾も解除される――はず。


 本当に解除されるかどうか、それを信じることができるのか。爆弾を仕掛けられた僕とダンテツは不安になるけれど、椿によれば、デムは嘘をつくことはないそうだ。


「彼が解除できるといえば、その通り。爆発するといえばその通り。だから、彼の言葉を聞き逃すと痛い目を見ることになる。不安なら、質問をするのが大事となるだろう」


 愉快犯であり、煽動者。なかなか厄介な人物らしい。


 その対処をする風紀委員も大変だ。そう感心しながら果樹園を後にして、僕達は交差点エリアにあるクレープ屋に立ち寄った。


「クレープ美味しい」

「よく食うなぁ」


 呆れたように言うダンテツだけど、椿がご馳走してくれるというのだから、それに乗らない手はないだろう。断るダンテツの方が信じられない。


 クレープは生クリームがたっぷり入っていて、バナナもクリーミーで柔らかい。チョコレートソースの甘さを纏うと、もはや敵はいないだろう。


「こんな美味しいものを食べないなんて」

「俺は、理由の分からない施しは受けないんだよ。クレープ屋に到着して、メモを見つけて、ついでにクレープを食べていこう? 奢る? 怪しすぎるだろ。何を企んでいる」

「二つ同じものを買うと、二枚目は無料なんだ」

「理由の分からん割引も怪しいだろッ!?」


 ピザじゃあるまいし。なんて思いながらも、僕はその恩恵に与っている。


 路面に面した店舗を離れ、通り沿いのビルに入る。目的のカラオケはそこにあるらしい。

 受付に話を通すと、空いている部屋を教えてくれた。


「部屋の中に何かがあれば、ここに届けてくれるはずです」


 店員のその言葉のとおりに、メモは空いている部屋の中にあった。

 部屋から出ると、隣から軽快な音楽が漏れ聞こえてくる。どこか聞き覚えがあるような――と、口ずさみながら記憶を辿っていると、子供の頃に流行ったアニメのテーマソングだと気が付く。


「この曲、子供の頃に流行ったなぁ。平成のアニメヒットソングの定番だよね?」

「ん? ……いや、これは昭和の曲なんじゃねーの?」


 え? とダンテツに視線を向ける。

 これは確かに、平成に流行った曲だ。子供の頃、学校が終わるのが待ち遠しくて、家に帰ったら直ぐにテレビのチャンネルを合わせるくらい楽しみにしていたから、忘れるはずがない。


 そもそも昭和なんて――、僕が生まれるよりずっと前の元号だ。


「二人の認識の違いは、正しいよ。私達は、所謂日本のパラレルワールドからやってきている。そして、この学園都市はおおよそ、正史と呼ばれる世界にそって進んでいる」


 例えば、椿の世界は江戸が長らく続いていて、鎖国中に大きな戦争が終わり、日本の伝統的な文化のままに近代化を迎えたらしい。


「だから刀を武器にしているの?」

「そうだな。扱い慣れている」


 銃社会ならぬ、刀社会と言ったところか。僕からしたら、とても物騒な世界だ。


「イズの世界はどんな所だ?」

「僕の世界は、戦争が終わってからずっと平成だったよ。より長く平和が続くように、元号を変えずにいこうって決まった」

「俺の所は逆だな。この思いを忘れないように、ずっと昭和だった」


 ということは、どこかのポイントで価値観が変わるタイミングが起きるのだろう。そうして世界は幾つもの分岐を重ねている。


「話に齟齬を感じるのが嫌だと思えば、図書館で学んでおくといい。ここの生徒はそうして話を合わせるか、同郷を探してコミュニティを築いている」

「同郷はどうやって探すの?」

「スマートフォン」

「へぇ、この電話、便利なんだな」


 どうやらダンテツの世界では、まだスマートフォンは登場していなかったらしい。そういう違いを話すのも面白そうではあるのだけれど、それほどゆっくりしている暇もない。


 でも、ずっと江戸時代だったという椿の世界にもスマートフォンはあったらしいし、異なる世界でも共通する何かが産まれることは良くあるのだろうか。


 気になることは様々あるけれど、コミュニティの検索も後回しにして、僕達はカラオケの入ったビルを出る。

 時刻は十時半を過ぎたところ。余裕を持って見積もったとしても、遊園地の滞在時間は一時間が限度だろう。


 この学園都市では、車よりも路面電車の方が速い。遊園地には十一時半発十一時五十分学園部着の電車があるので、時間ギリギリまで粘ることになったら、その方法で学園部へ戻ることになる。


 椿の操るバイクの先導により、僕達は車を転がして遊園地へ辿り着いた。


「うわー、でっかい観覧車」

「ジェットコースターもすげーな。コースの感じからして、一つじゃないだろ」

「ダンテツは絶叫系、好き? 僕は苦手なんだよねぇ」

「あんまり、だな。というか、遊園地自体ほとんど未経験だろうな。人が多くて乗り物乗るだけでも一苦労。行くなら動物園だった」

「いいねぇ、動物園。世間ではパンダが人気だったけど、僕は断然レッサーパンダが好き。サイズ感が良い」

「はぁ? デカいほうが良いだろ」

「いや、デカいと怖いでしょ。だって熊だよ? 模様とか動きで可愛さを表現してても、あいつら熊だよ?」

「え、熊になんか恨みでもあんの?」


 特にはない。むしろ熊肉が食べてみたい人生だった。

 なんで僕の故郷はあんなにも田舎だったのに、熊の住んでいない限られた地域だったのだろうか。平穏でありがたかったとはいえ、動物の生息地というものは、何とも不思議なものだと感じていた。


「話はそこまでにして、早速探していこう」


 椿の言葉に会話を止めて、彼女の支払いで園内に入る。


「今までのことを考えると、入り口の近くに落ちていることが多かったが――」


 周囲を見回してはみるけれど、そう何度も上手くは行かないらしい。


「係員に話を聞きながら、手分けをして探そう。もしも不良と戦闘になったとしても、……やり過ぎないように」


 鋭い視線を受けながら、僕は頭の後ろを掻きながら笑って誤魔化した。

 一度くらい殴られておいたほうが、痛みを覚えて丁度いいのかもしれない。ここは試してみる? そう考えてはみたものの――。


「喰らえ、ドリルタックルッ!」


 初っ端から竜巻のようなものを纏った攻撃に晒されては、そんな気にはサラサラなれず。


「――吹っ飛べッ!」


 壁のようなものを作って防いだら、空気砲のようなものを生み出して遠くの方へと射出する。


「まったく、折角の遊園地なんだから、もっと楽しいことをすればいいのに」


 ふと、僕は左手を見た。遊園地でデートをしたことを思い出す。


 ――ダンテツの言う通り、凄い人で、待ち時間も長くて。結局僕達はレストランで食事をして、ゲームコーナーで遊ぶくらいだった。


 見つめていた左手が、自然と顔にかかる眼鏡に触れる。


 ――あの日の君は、僕がプレゼントした眼鏡をかけていてくれた。その想い出が、今はここにある。 

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