第5話 狩り放題
首に装着された爆弾を解除するために、その方法が書かれたメモを探す僕達。やってきたのは自然豊かなネイチャーエリアに広がる、色とりどりの果実を収穫できる果樹園だ。
「この学園都市では、学園内の掲示板に張り出される依頼を果たせば、通貨となるポイント――まぁ、円だな。それがスマートフォンに付与される」
「あ、つまりこの果樹園も有料なの?」
「そう。交通機関は無料だけど、施設は有料。先ほど行った茶屋での食事も有料」
つまりはバイトってことなのだろう。ついぞ使うことのなかったバ先という言葉を、使うチャンスなのかもしれない。
「椿のバ先は何処?」
「手羽先?」
この学園都市の平均精神年齢、結構高いのかもしれない。
「そんなことより、暇人がまだまだいそうだぜ」
ほのかに殺気立つダンテツが言う。
どうやら、巻いたと思った不良たちがやってきているらしい。おまけに、おかわりも添えて。
「とりあえず果樹園に入ろう。ここは私が払うから、メモを探しながら相手をすればいい」
「ありがとう。でも、果樹が傷付いたりしない?」
その疑問は、首を振って返された。
「この学園都市に、傷付くものなんてないさ」
「……格好良い」
煽てに弱い椿に連れられて、僕達は果樹園に入る。
施設内の果物は狩り放題で、食べ放題。桃にキウイに林檎に蜜柑。季節を問わず様々な果実が実っていて、目にも楽しませてくれる。
「キウイって熟さないと食べられないから、もぎたては持ち帰られるの?」
「熟したものと交換してくれる」
親切設計すぎる。神様か?
「それで、このまま固まって探すのか? それとも手分けをするか」
「私としては二人を監督したいところだが、此処に来るまでに三十分を要した。話を聞くと、十二時がリミットなのだろう?」
「うん。今はもう、十時を過ぎているから、あと二時間弱」
そう言えば、この言葉は人によって思い浮かぶ時間が変わると聞く。自分としては二時間よりも短いと伝えたつもりなのだけど、二人には正しく伝わっているのだろうか。
「遊園地まではどのくらいかかるよ」
「三十分は見積もりたい」
「ここで十分を過ごしたとしても、四十分。残りは一時間ほどになるな」
ホッとした。
「カラオケとクレープ屋は交差点エリアのものだったから、ここからの帰りがけか、学園部へ戻るときにでも寄っていける」
「じゃあ、邪魔が入るとタイムロスだな。ここで不良どもを片付ける。だったら手分けしたほうが良いだろ。あんたも、俺らがいると邪魔になるんじゃないか?」
「……一理あるな」
林檎が美味しい。
「おい、一人で楽しんでんじゃねーよ」
「あ、ごめん。なんか話に入っていけなくて」
「マイペースかよ」
「よく言われた」
多分、これからも言われるのだろう。
十分後、集合場所は入り口で。
そう話をつけて、それぞれが別の方向へ散らばっていく。受付で貰ったパンフレットを眺めながら、僕は一先ず、ブドウを食べようと探し始めた。
「可愛い子ちゃん? 顔面に拳をプレゼントだッ!」
不意の襲撃。
目前に握り拳が迫っているが――、その拳は、本当に寸前でピタリと止まった。
「殴るんじゃないの?」
鼻で笑って言ってやると、怒ったように左、右と連続して拳を振るわれる。しかし、それらはすべて寸前で止まる。
それもそうだろう。僕は、付近にある物なら何でも操ったり変化させたりできるんだ。その場にあるもの、そう、原子ですら。だから絶対に侵入できない空間を作り出すことだって、朝飯前ならぬブドウ前。
「あらら、殴れないの? 殴れないんだ。ザァコ」
怒り狂う不良を無視するように、僕は歩き続ける。それに押されて、彼は後退していく。
「クソッ、クソッ! 俺の打撃は最強なんだ。どんなものでも壊せるんだッ!」
「どんなものでも壊せたら、それはチートにならない? こんなことしていたら地獄行きじゃん」
つまり、それほどの威力はない。けれど、彼の能力が打撃に起因していることは間違いないのだろう。
ははぁ、地獄行きにビビって、能力を少し躊躇したな?
「思い切れないのは、ザコの証拠だよ? ザーコ」
「がッ!?」
殴られたように仰け反る不良。
僕の能力を使えば、全く動かなくても殴ることくらい造作もない。
歩き続けながら、お返しとばかりに連打をする。
「ザーコ、ザーコ!」
ちょっと調子に乗り過ぎかな? キャラを作り過ぎていないかな? ちょっと不安になるけれど、初めて本格的に振るう力に、高揚している面もあるのだろう。
ヤバい。これは癖になる。早くから自重する癖を身に着けなければ。
「隙ありッ!」
「ねーよ」
背後からの攻撃も、いとも簡単に防いでみせる。
遠距離からの銃弾も、私の直ぐ側で停止した。
「はい、ごっつんこ」
正面の不良と、背後の不良。何かに押し出されるようにして、私の側面で激突する。
ブドウは何処だろうか。
そんな事を考えながら、僕は右手を銃のようなカタチにして、停止した弾丸の方向に構える。
「ばぁん!」
押し出された空気が、何かにぶつかったような音がした。
「快調だな。しかし、ゆめゆめ忘れるな。それを自己のために、誰かを省みることなく振るえば――」
「……りょーかいです」
いつの間にか背後に立っていた椿の声に背筋を凍らせながら、やはり調子に乗っていたかと反省をする。
「見っけたぞ!」
遠くから、ダンテツの声がした。




