第4話 ドライブ
首に装着させられた爆弾を解除するために、解除するためのヒントと思しきものが隠されているであろう場所を探している僕とダンテツ、椿の三人。
最初に訪れた倉庫棟の入り口から入ってすぐ、角に落ちていたものを見て、確かにヒントが隠されていたと確信することができた。
「『↑① byデム』だって」
そう記されたメモを拾い、二人に見せる。
「矢印か。最終的に辿り着く場所を示しているのか?」
「いや、これはそう言う意味じゃない。彼奴の能力によって生まれた爆弾は、フリック入力で解除できるんだ」
そう言えば、喉のあたりがスマートフォンの画面のような素材になっていた。
「隣の数字は入力する順番を表しているのだろう」
「へぇ、そうなんだ。椿さんが居てくれて、助かったぁ」
「あ、いや、椿でいい」
照れる彼女を笑顔で見守りながら、僕達は次の目的地へ向かう。
学園部でヒントが隠されている場所は、残りDクラス棟と飲食棟。
椿が操るバイクの先導でそれらに向かい、倉庫棟と同じように扉の角に落ちていたヒントを拾い、描かれている矢印を確認する。
「『↓③』と『→⑤』だね」
「一番目が上で、三番目が下。五番目が右……、いや、俺はなんか嫌な予感がしてきたわ」
「どんな予感?」
そう問い掛けると、ダンテツはどことなく昔を思い出すような顔をした。
「ゲームの入力コマンド。ほら、無敵とかの」
「あー、あったねそういうの」
懐かしいなぁ。そう呟いた僕を、椿は不思議そうに見つめていた。
「椿はゲームとかしなかった?」
「あまり。スマートフォンで孫と一緒に遊ぶくらいだった」
優しいおばあちゃんだ。いや、おじいちゃんだった可能性もあるのだけど。
どちらにせよ、この学園都市にやってくると精神が若返ったようになるのは、みんな共通することらしい。
思い出話もそこそこにしてきり上げ、僕達は車を転がして都市部へ向かった。
学園部から続く大通りは、まるでハイウェイのように軽やかに進んでいく。先導する風紀委員が言うには、この学園都市にもスピード違反はあるようなので、運転する際には気を付けておきたい。
都市部でヒントが隠されている場所は、カラオケとクレープ屋、川沿いの茶屋に果樹園。そして遊園地。
川沿いの茶屋と果樹園は、交差点を学園部を背負って右手の手前へ曲がる。その先のネイチャーエリアと呼ばれる場所にあるらしい。
対して遊園地は、右手の奥を進む。住宅街とは反対側だ。
「左手の手前へ曲がると、飲食店だとか歓楽街だとかがあるんだって」
「キャバレーとかか?」
「なんか懐かしい言葉だね。ま、僕はあんまり縁がなかったけど」
「田舎暮らしって言ってたな」
「うん。もしもキャバレーなんてものがあったとしたら、それは狸に化かされていたんじゃないかな?」
そんな冗談が言えるくらい、自然が豊かな場所だった。会社を定年で退職してからは、広い土地を生かしてペンションなんて営んだものだ。
呑気に話に花を咲かせていると、先導していた椿が、手を振ってなにか合図をしているようだった。
「なんだあれ? ……っ!?」
ダンテツが疑問を口にした直後、車の傍で爆発が起きた。
窓を開けて周囲を確認すると、後方から何台かの車が迫ってくるのが見える。助手席の窓から、なにやら筒のようなものが覗いていた。
「うっわ、バズーカかなんかをぶっ放したな」
「はぁ? なんだよ、此処は物騒な場所なのかよ、って」
こういう時のために、風紀委員はいる。先導する椿がどう動くかを確認しようと窓を開けると、彼女は減速して、助手席側に寄ってきた。
ヘルメットのバイザーを上げて、声を張り上げている。
「私が監督する! 余裕があるなら能力を試してみろ!」
何かあったらフォローする。そう言いたいのだろう。彼女の言葉に頷くと、僕はダンテツに視線を向けた。
「だってさ」
「俺はステゴロが趣味だ。運転しながら戦うのは無理だな」
「じゃあ、僕の獲物だ」
少し微笑んで、僕はシートベルトを外そうとした。
「それは許されない」
風紀委員は厳しかった。
仕方なく後ろを振り向いて、ダンテツにスピードを緩めてもらう。そうして徐々に背後のクルマが迫ってくると……。
「凍らせてみるかっ!」
路面を凍結させて、スリップをさせる。
思い通りに操作不能になる後続車にほくそ笑んで、それでも追ってくる車に意識を集中させる。
「どうやって撃退するのが面白いかな?」
「風紀委員の目の前じゃ、派手なアクションは期待できないからな」
「遠距離攻撃しかできないかぁ。ねぇ、せめて車を停めてくれない?」
「時間の無駄」
「イケズ」
むくれながら、僕はもう一度路面を凍結させた。
こういう咄嗟の状況でアイデアが浮かんでこないのは、まだ能力に慣れていない証拠だろう。だからこその学園。この環境に感謝しながら、僕達は襲撃者を振り切った。
「で、あの車は何だったの?」
川沿いの茶屋でメモを見つけたついでに、お茶をしながら椿に問い掛けた。
「不良ですよ。此処は、そういう行為が出来る最後のチャンスですからね。転生してからは真面目にやるから、最後くらいは羽目を外させてくれ。そんな人たちの集まりです」
「じゃあ、ダンテツのお仲間だ」
「はぁ? 俺はもっと、紳士な不良だよ」
その言葉は同居するの? 僕と椿は揃って笑った。
「でもさぁ、その手の輩がこんな日差しが眩しい時間から活動してるの? 流石に、授業を受けなきゃ卒業もできないんだし」
「するときもあるが、大抵は夜中だな。今日は――おそらくデムに唆されたのだろう」
煽動者、という言葉が相応しい人物らしい。
「けれど、まぁ、此処に来るような奴らだ。根は良い奴らなんだろう。……この学園都市に入学する条件。君達はまだ知らないだろう?」
ダンテツと顔を見合わせて、頷いた。
「この学園都市にはな、誰かの願いを叶えた者たちだけが、そうして自分の願いが叶えられなかった者たちだけがやってこれるんだ。選択肢を選ぶだけでは駄目」
その言葉に、僕には心当たりがあった。
そうか、確かに。――確かに僕は、彼女の願いを叶えて、僕の願いは叶えられなかった。
死ぬときは、あなたを看取りたい。お互いにそう願って、そして。――彼女の願いが叶えられた。
最後にかけられた、彼女の言葉が脳裏に蘇って。僕はなんだか、瞳が潤んできたように思う。
「なにか、思い出させてしまったか?」
「あ、いや、悪いものじゃないよ。本当に、最後に報われた気がしたから」
――必ず追い掛ける。少しだけ待っていて。
不謹慎だとは思うけれど、そう言われて喜ばずにはいられなかった。愛してくれていたんだと、現世の最後に実感できたような気がしたから。




