第3話 観光気分の自己紹介
入学式終わりに爆弾を首に装着されるというハプニングに見舞われた、僕と不良。
どうすれば良いんだろうと頭を悩ませた後、一度講堂に戻り、そこにいるであろう教師の助言を受けることにした。
「あらー、またデム君がおいたをしたのね。全く、懲りない人」
保険医だという彼女は、おっとりとした口調で対応してくれた。名前は弥生と言うそうだ。
「これ、なんとかなりません?」
「そうねぇ。スマートフォンで撮影して、画像検索をしてみたらどうかしら。なにか情報が表示されるかもしれないわ」
さすがは文明の利器。
感心して、僕達はスマートフォンを自身に向け、自分の首を撮影した。そして検索をすると、関連するものがあるかもしれないという印が付けられた、一枚の地図が表示される。
学園部に三つ。都市部五つ。
「……これ、二時間くらいで此処に戻ってこられます?」
「そうねぇ。電車は決められた時刻で運営されているから、ちょっと難しいかもしれないわ。あなた達はまだ車もバイクも持っていないでしょうし、レンタルしたらどうかしら」
「それ、どこでレンタルできるんだよ」
不良がそう問い掛けると、弥生はパンフレットを見せてと言う。
僕が取り出すと、学園部の地図を開いて指を示した。
「今は此処、一番北にある講堂ね。そこから大通りが延びていて、目玉広場の間を通り抜けて、校舎の群れを過ぎてさらに進むと都市部に入るの」
良い? 確認されたので、僕と不良は頷いた。
「講堂の隣の職員棟で借りられるわ」
「今の説明の意味はっ!?」
都市部に辿り着く前に、案内は終わっていた。
それではいってらっしゃーい。そんな軽い調子で送り出されると、僕達は職員棟へ向かった。
「運転できる?」
「当たり前。お前はできないの?」
「出来るよ。車社会で育ったからね。でも、ずっと田舎だったからなぁ。都市部って都会でしょ? ちょっと不安」
「じゃあ、お前はナビ担当な」
「さっきからお前って――あぁ、まだ名乗っていなかったっけ。僕はライズ。イズって呼んで」
「おう。俺はダンテツだ」
よろしくね、と言葉を交わして握手をする。するとダンテツは僕の手をジッと見つめていた。
「女にしては、なんか力強さを感じるな」
「いや、僕は男」
「はあっ!?」
手を離し、彼は僕の肩を両手で掴む。そして腰を掴む。
「完全に女じゃねーかっ!?」
「気安く触んなよボケ」
股間を触らなかったのは、優しさだろうか。
既に思い思いの校舎へ向かおうとする生徒たちに不審な目で見られつつも、僕達は職員棟に入り、受付でレンタカーの手配を頼む。
建物の裏手に駐車場があって、申請を出せばその日限りで好きに使って良いらしい。
「セダンが好き。セダン格好いい」
「はぁ? スポーツカーだろ。ツーシーターの」
「バーサーカー?」
「車でそれはアウトだ馬鹿」
真面目な奴め。
選んだ車に乗り込んで発進させる。エンジン音は軽快で、安物の車しか乗ってこなかった自分にとっては、とても新鮮だった。
助手席に座って、僕は地図とスマートフォンに表示される情報を照らし合わせながら、目的地を示す。
「えっと、印がついている場所は倉庫棟と、Dクラス棟と、飲食棟だね」
「Dクラスってどんなところよ」
「んー、武器作りだとかアイテム作りだとか、そういう生産系を専門にしたい人たちのクラスみたい。ジャンルで表すと工業系とか、建築系」
「爆弾野郎の好きそうなクラスだな」
全員がああ言う奴ではないと思うけどね。でもちょっと不安。そうした苦笑を浮かべながら、車は手近の倉庫棟へと到着する。講堂を挟んで反対側だった。
「鍵がかかってる」
「ちっ。職員棟で借りてくればよかったのか」
また戻るか? そう問い掛けるダンテツに、僕は笑顔で首を振った。
そうして扉に付けられた鍵に触れて――。
「はい、開いた」
「はぁ? お前、何をしやがった?」
「ふふーん。僕の能力だよ。僕はね、自身の付近にある物なら何でも操ったり変化させたりできるんだ。それを利用すれば、鍵開けなんて――」
「許可なくそれを行うのは、見逃せないな」
背後からかけられた声に、二人の肩が跳ねる。
勢いよく振り返れば、そこにはブレザーをきっちりと着こなした凛々しい女性が一人。……刀の切っ先を僕達に向けていた。
「風紀委員だ。どういう了見だ?」
風紀委員――それはこの学園都市において、自警団の役割を与えられた委員会だったはずだ。デムも逃げ出すような存在。悪意を持った者たちに、恐れられる存在。
それが今、僕達に刃を向けていた。
「あ、いや、その。デムに爆弾を仕掛けられて……」
両手を前にして振り、しどろもどろになりながら説明をする。そんな僕に事情を察してくれたのか、彼女はため息をついて、その刃を下ろしてくれた。
「はぁ、また彼奴か。君達は新入生だろう? 入学早々済まない」
「謝るくらいならよ、ちゃんと手綱を握ってくれねーか?」
「面目ない」
此処ぞとばかりに偉そうにするダンテツの脇腹を、僕は肘で突いて止めさせた。
「此処にヒントが隠されているかもしれなくて、それで開けてしまいました。ごめんなさい」
「あぁ、事情は分かった。それを咎めるつもりはない。私は椿という。良かったら案内をさせてくれないか」
「良いんですか?」
土地勘がないからありがたい――と思ったものの、自分たちが借りた車が、ツーシーターだということを思い出した。
「ありがたい申し出だが、悪いな。借りた車がツーシーターなんだよ。お前は載せらんねぇ」
「問題ない。何処に行きたいかを教えてくれれば、バイクで先導をする」
「バイクを運転できるの!? カッコイイなぁ」
「あ、ありがとう」
笑顔を見せて感心すれば、彼女の顔が赤らんだ。褒められることに慣れていないらしい。
「そ、それで、他に何処へいきたいんだ?」
まだ目的のものは見つけていないんだけど……。と、前置きをしたうえでスマートフォンに表示された地図を見せる。
「倉庫棟に、Dクラス棟、飲食棟。それに都市部の――カラオケにクレープ屋、川沿いの茶屋に果樹園、遊園地? なんだ、観光でもしたいのか?」
爆弾の解除方法のヒントの在り処がポップ過ぎる!




