第2話 最悪な歓迎
入学式が終わり、僕は講堂を出た。
入り口で渡されたプログラムによると、入学式の終了時刻は九時半。バッグからスマートフォンを取り出して確認すると、時間よりも少しだけ早く終わっていた。
それにしても――。
「スマホも無料で使い放題、か」
検索エンジンだとか、ダウンロードできるアプリなんかは現世とは違うものの、最大限それらを模したような使い心地で、違和感なく使いこなすことができる。
試しにカメラを起動して、振り返って講堂を収めた。
「何撮ってんだテメェ」
「あ、ごめんなさい」
立派なリーゼントが一部、一緒に収まってしまった。電車内で見かけた不良だ。
「ちっ、浮かれやがって。俺らはこれから、異世界へ行くための準備をしなきゃならねーんだぜ? 得た能力をうまく使えるか、どんな状況に陥っても生き残れるか。それらを確かめなきゃなんねぇのさ。観光気分なら都市部にでも逃げちまいな」
「……真面目なんだ」
意外そうに呟くと、鋭いし眼差しが向けられる。
「それは違うね。他人を蹴落としてでも上を目指す気概ってやつよ」
「蹴落とされて損をする要素があったっけ?」
パンフレットを捲って確認するけれど、そもそも競い合う要素は体育祭だとか、そう言ったものはものしかないように思う。
落第なんてものはなさそうだし、あるとすれば……。
「ねぇ、もしかしてチートじみた能力を得ていないの?」
ふと気になった疑問。
自分の望みを叶えるこの学園都市では、自身が扱う能力についても自由に決められた。年に一回、変更する権利も与えられている。
けれど強すぎる能力――チートじみた物を得た場合には、あるデメリットが科せられる。
それは、学園の意に沿わないことをしたら、……地獄に落とされてしまうのだ。
地獄はなかなか苛烈なところらしく、己の罪を償うために永遠の罰を与えられたり、人以外のものに転生をして弱肉強食を味わったり、生きることすら辛いような世界に、記憶を持って転生させられたりする。
だからこの学園都市に来る人は、ほどほどの能力で満足する人が多いらしい。
けれど、僕は違う。それを受け入れた。真面目に生きれば良いんでしょ? と。
「……お前は、得たのか?」
「うん。折角だしね」
「生前できなかった、ちょっとした悪いこととかしてみたくならねーの?」
「ないよ。人に迷惑かけたくないもん」
「知らず知らずに犯しているかもしれねーぜ?」
「今度は気を付ける」
「いや、その言い方はしているよなッ!? 生前なんかしているよなッ!?」
若気の至りなんて、誰にでもあるでしょうに。
「可愛い顔して、恐ろしい」
不良みたいな見た目をして、小心者かよ。なんて薄っすら笑っていると、背後から拍手が聞こえてきた。
「ブラボー。ブラボー! イイねイイね。早速仲良くなったんだね、新入生。この学園都市で上手くやっていけそうじゃないか」
長い髪が、風にそよいでいる。中性的だけど、その目は男性的な力強さに満ちていて、柔らかな言葉を操っているけれど、どこかで薄ら怖い雰囲気も感じ取れた。
「私はもう、四年ほど此処に居るかな。なかなか楽しい所だよ」
彼は笑いながら、私達に近寄ってくる。
「先人として、君たちにプレゼントを差し上げよう」
その手が僕の首に触れた。するりと隣を通り抜け、不良の首にも触れている。
自分の首を触ってみると、チョーカーのようなものが取り付けられていた。
「テメェ、ナニモンだ?」
「ふふっ。先輩にそうした口調は良くないね。でもいいさ。楽しいひとときのために受け入れてあげよう。僕の名前はDMとか、デムとかって呼んでくれていい」
この学園都市では、自由な名前を名乗ることができる。生前の名前は、あまり関係がない。
「デムさん。このチョーカーは何です?」
「気になるかい?」
彼の手が僕の頬を触れて、笑顔でその唇が言葉を紡ぐ。
「爆弾さ」
僕は目を見開き、そして目の前の彼は頬から手を離して横に飛び退いた。不良の彼が、拳を振るったのだ。
「テメェ、外しやがれッ!」
「ハハハッ! 解除方法はこの学園都市の何処かに隠してあるのサッ! 各クラスへの登録の期限は、十二時までだったね? その状態で校舎に行ってみナ。みんなまとめてドッカーンッ! アハハッ、楽しいネーッ!」
こんな人も、此処には居るのか。その事実に愕然とする。
「因みに、どんな能力でもその爆弾には干渉できないヨ。どんなチートでもね。あぁ、私のものはそういう条件でしか発揮できないから、チートではないんだ。条件をつければ、どんなあくどいことでも地獄行きは避けられる。アハハッ、早速学びになったネッ!」
質の悪い。
舌打ちをして、なんとか解除を促そうと能力の使用を試みるも――。
「おっと、私や爆弾に向けて能力を使うのは慎んだほうがいいよ。爆発してしまうヨー。君は、素手で殴りかかって偉い偉い」
ちっ。どこまでも挑発してくる奴め。
僕と同じく、不良の彼もイライラを募らせているようだ。その姿に満足したのか、デムはくるりとターンして、その場を後にしようとする。
「さぁ、風紀委員が来る前にずらかるとしようかナ。サテサテご両人。是非時間内に解除してくれたまえ。あぁ、爆発しても死ぬことはないよ。どうせ此処ではみんな死んでいるのだし、ちょっと痛いくらいさ。アハハッ!」
僕達は、ゆっくりとこの場を立ち去るその姿を追うことはできなかった。彼の言葉が、風に溶けていく。
――ヒントもきちんと用意してあるヨ。
入学早々、こんなトラブルに巻き込まれるなんて。




