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第16話 力をつけるために

 森の中の池は、程なくして見つかった。


 色とりどりの花が縁を彩る素敵な景色が広がっていね、毒の鱗粉を撒き散らす蝶さえいなければ、ピクニックでもしたい気分であった。


「いや、本当に、お前が先頭でよかった」


 そうしみじみと呟くダンテツは、炎を身に纏って蝶を攻撃している。その状態なら鱗粉すらも焼き払える様で、毒の心配は無用。


 そもそも、何故その蝶の鱗粉が毒だと分かったのかといえば、……戦闘の僕が真っ先に影響範囲へ入り、手足の痺れを感じ始めたから、だ。


 もしかしたら何かある。その場の空間を空気清浄機のように操って清浄化したら、自身の身体を可逆して毒を無効化。後の二人は何事もなく池に到着、というわけだ。


「なんというか、自分の思惑とは裏腹に、体のいい一番槍になっているような?」

「一番槍、格好のいい表現をしていますね」

「スイはなんて表現するの?」

「リアクション芸人」

「押さないでよっ!?」


 目の前の池に落ちたことを想像する。濡れ鼠、着替えの無駄遣い。乾かす手間。


 対して面白いリアクションを取れる保証はないのに、体を張る必要性はないと思う。例え濡れた状態をもとに戻せたとしても、滑った空気は、どうしたってもとには戻せない。


 それでも果敢に挑戦し、面白い空気を作り出してしまうリアクション芸人の方々は凄すぎる。


 それはまさに、日本が誇る刀のような存在。数多の熱と数多の冷気によって鍛え抜かれた鋼のような刀身に、僕はもはや、感嘆の息しか漏れないだろう。


 ……いや、先ず笑うけどね。


「ふふっ、冗談ですよ。それよりダンテツさん、炎の操作はどうです?」

「ああ、やっぱり身に纏うしかできそうにない。拳への集合は、仕様外だったみたいだな。変更するには、職員棟へ行って申請を出さなきゃ、か」

「今度こそ、自分に合った能力にしなよ」


 そう忠告して、僕たちは池を離れた。


 コンパスで方向を確認しながら、次の目的地へ向かう。森を抜けるとわずかな草原。侵食する砂浜が見え始め、遠くの方に海岸線が見える。


 丘のようになっているらしく、駆け下りたら、さぞ爽快な気分が味わえるだろう。


「こういう場所、段ボールに跨って滑り落ちたいよね」


 僕がそう言うと、ダンテツは少し顔を曇らせる。


「あー、ダンテツ、怖いんでしょ」

「悪いかよ」

「悪くないですよダンテツさん。イズちゃんもビビりですから」


 僕の顔も曇った。


「お二人の、格好いいところを見てみたいですねー。駆け下りたら、気持ちよさそうですねー」

「めちゃくちゃ棒読みじゃないかっ!?」


 そう突っ込んでみれば、隣に立っていたダンテツが気合を入れるかのように頬を叩いた。


「俺は行くっ! 行ってやるぞぉっ!」


 そうして駆け出した。


「ちょ、待てってよ! そっちは方向が違うって!」

「あははっ、 イズちゃん、早く追いかけましょう! 折角の海なんですから、満喫しましょうよ!」


 これはあくまでも授業なのに! なんて叫びながら、僕は二人を追い掛ける。


 そもそも歩幅が違うからなかなか追い付くことは出来ないけれど、先頭を走るよりも、なんだかこうして追いかけている方が気分の上がる自分がいる。


 ――気分は猟犬だ。


 口の端を吊り上げながら、僕は懸命に足を回す。


 まぁ、転んだけどね。みんな転んで、勢い余ってエビ反りになって、そのまま一回転したけどね。


「うへぇ、砂まみれ」

「あははっ、イズちゃん、ウインドブレーカーが白くなってますよ」

「ダンテツだってそうだよ。あー、もう。みんな起立! 砂を払うからね」

「リーゼントも直しておいてくれ」

「……ん?」

「……え、似合ってない? リーゼント、似合っていなかった?」


 曖昧な表情に不安がるダンテツだけど、けして似合っていないわけではなかった。けれど、別の髪型のほうが抜群に似合うと思う。そこだけが、ちょっと勿体なかった。


 そうやって砂浜を満喫し、海岸線に沿って進んでいく。目印があると、コンパスなしでもある程度進めるから気が楽でいい。


 出現するモンスターは、背中の貝に籠もって絶大な防御力を発揮するヤドカリと、海から触手を伸ばしてくるクラゲ。


 どちらも僕の能力によって、近付く前から倒していく。二人にも戦闘経験は積んでほしいけれど、それはチェックポイントを見つけてから、余裕を持ってからにしておこう。


 朝の八時に始まった試験も、二つ目のチェックポイントに到着する頃には昼の十二時を回っていた。


 遊びすぎたし、チェックポイントに近付いたタイミングで戦闘を経験したことも大きいだろう。


「スイは、直接的な戦闘をするなら武器を持ったほうが良いかもね」

「ですねー。格闘するような能力ではないですし、爪を立てて毒を回すには、ここにいるモンスターは手強すぎです」


 貝に籠もられては爪を立てることはできないし、そもそもヤドカリの硬い体を貫けない。傷を付けて、そこに爪を立てるしかないだろう。


 クラゲに関しては……、そもそも触手に毒があるため、近付くためには触手を切断するか、ダンテツのように焼いてしまうしかない。


「それにしても、だけどさ」


 ダンテツが思い出したように口を開く 


「モンスターを倒した後の光、なんか綺麗だよな」

「あぁ、光の筋になって上空へ昇っていくやつね。あれは多分、レイラインに溶けていっているんじゃないかな」

「イズちゃんが教えてくれたやつですね。この学園都市を維持するのに必要な力」


 つまりモンスターを産み出しているのも、その力ってわけだ。


「防衛戦がどうの、とも言っていたな」

「うん。体育祭でそういう種目があるんだって」

「体育祭って、五月でしたよね。五月の終わり。新入生との交流会も兼ねているとか」


 先輩方と、本格的に交流を始める場となる、のだろう。授業であってもそれほど進んで絡むこともないだろうし、街であっても精々バイトをしている人との会話くらい。


「それまでに力をつけて、笑われないようにしねーとな」

「その為には、腹ごしらえをしておきませんと。お弁当、ちゃんと用意してきましたよ」

「やった! スイの作るおにぎり、美味しいんだよ。そこら辺の流木に座って食べようか」


 このまま三つ目のチェックポイントへ向かう前に、もう少し戦闘経験を積んでおきたい。岩山に出現するモンスターを確認してから、それぞれ戦いやすい相手を選んで研鑽を積むことになるだろう。


 その為に、英気を養う。


「お、鮭だ」

「あ、ダンテツいいなー。僕は何かなー」

「あ、鮭しか入れてないです。フレーク、いっぱい入って安かったので」


 力をつけると同時に、お金、ポイントも稼がないとなぁ。そんな思いとともに、美味しいおにぎりを噛み締めた。

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