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第12話 散策

 果物、野菜の収穫を通して、空間を操る感覚というものを掴んできたように思う。


 力加減だったり、スピードだったり。今では一定の範囲内であれば、同時にイチゴの収穫が可能となった。

 それはつまり、バイトの効率が上がるということで……。


「凄い、半日で十万」


 二日かけて収穫のコツを学び、三日目でその集大成を披露する。

 一回の収穫にかかる時間を大幅に短縮できたことから、半日で五つの果物、野菜を収穫でき、各二万円を得て計十万円なり。


「あと四日同じ事をやったとしても、四十万。半日は自由にできるだろうから――」


 ダンテツとスイレンは自分なりに向いている依頼を探しているようだから、ここは自分が先行して、オリエンテーリングについての情報を集めるべきだろう。


 先ずは情報収集の基本である、酒場――は少しハードルが高い。見知らぬ生徒に話しかけて、いきなりオリエンテーリングの話を聞き出す。そもそも、オリエンテーリングに参加をしたことがない生徒だったら?


 ならば確実に情報を集められる場所へ向かうべきだ。

 僕は電車に載って学園部へ向かい、職員棟へ入った。


「地図の先生はいますか?」


 受付で確認すると、呼び出してくれた。


「話がある生徒というのは、お前か?」


 作業服を着た、頭にタオルを巻いた男性だった。体格は良く、ガテン系。健康的な日の焼け方をしている。


「はい。ライズです」

「俺は長月(ながつき)だ。ネイチャーエリアの管理人をしている。そこが舞台となる試験の授業も担当だ」


 自己紹介も終わり、彼の案内で個室に入った。

 面談などで使われる部屋だそうで、長テーブルとパイプ椅子があるだけの簡素なもの。前の利用者が消し忘れたのだろうか、ホワイトボードには動物の絵が描かれている。


「可愛い羊」

「畜産関係の話をしていた」

「先生が描いたんです?」

「悪いか?」


 可愛らしい絵を描く人に、悪い人はいない気がする。

 そう思って首を振ると、腰を下ろした長月が話を促す。


「オリエンテーリングについて、お訊きしたいことがあります」


 椅子に腰を下ろして、早速話を振る。


「必要なものがあれば、教えていただきたいのですけど」

「それに関しては自由にしてくれて問題ないが、少なくとも地図とコンパスは支給する」

「服装なんかは?」

「汚れを気にしないのなら、制服でも問題ないな。戦闘に関しては、各々好きな武器を持ち込んでもいいし、能力も自由に使って問題ない」

「終了時間とかは?」

「モンスターに苦戦しなければ、半日もあればゴールに着ける」


 そこまで気負う必要はないのかもしれない。


「どうせ、次の選択科目のことだろう? 試験の合否は、到着までにかかった時間だ。それを縮めるために何が必要なのか。それを探ってくれれば問題ない」

「経験者に話を聞いても、実のある話は聞けないと?」

「必ずしもその通りにやらなければならない、というわけではないからな。出現するモンスターも日々変わる。自分が、仲間が動きやすい行動を取ることが大事なんだ」


 むしろ、初回は何も持たずに参加するのも面白い。長月はそう笑った。


 職員棟を出て、僕は考える。

 話を聞いてみて思ったことといえば、如何に戦闘をスムーズに終わらせられるか。それが肝心なのだろう。


 しかし、それは正確に地図を読むことができる、という前提にある。


「お金もあるし、地図でも買って散策してみようかな」


 独り言を呟きながら、僕は購買部へ向かった。

 それぞれのエリアごとの地図を入手したら、軽く中身を確認して、電車を乗り継いで飲食店街へ。スマートフォンにも地図はあるのだが、紙の地図を見ることに慣れたほうが良いだろうから。


 コンパスはスマートフォンのアプリを使うことにして、先ずは駅から、自分の視線の先を地図と照らし合わせる。


「このエリアは、駅が二つあるのか。手前の飲食店街と、奥の歓楽街」


 線路の進む先を合わせるようにすれば、簡単だった。

 線路を挟んで右側へ行けば公園があるようなので、先ずはそこを目指してみる。


 まるで熱海の商店街のような道を行く。ヨーグルトやプリン、寿司や干物。様々な飲食物に目を奪われながらも、現在地を見失わないように地図とにらめっこ。


 自分が方向を変える度に、地図を回転させて方向を合わせているのは中々に間抜けだ。


 試しに、路地に入ってみようかな?


 好奇心に身を任せるように、僕は商店街の路地へと吸い込まれるように入っていく。こういう所に隠れた名店があるのを、良くテレビ番組で紹介されていたのを憶えている。

 角を折れ曲がると、軒先が見えた。


「赤提灯だ!」


 風情あるそれに惹かれて、店先を覗いてみる。

 暖簾に大きく、氷と書いてあった。


「えっと、何のお店?」店員に話を聞く。

「アルコールを使ったシロップのかき氷や、アルコールにかき氷を入れたものを提供しています!」

「……え、昼間っから? 路地裏で?」

「罪悪感、感じるでしょ?」


 大好物です。そう返事をして、いずれ必ず、再び訪れることを誓った。

 お酒は好きだ。それほど量は飲めないし、直ぐに顔が赤くなってしまうけれど、大好きだ。スイレンとは毎晩付き合ってもらっていたし、彼女の作る水割りは、とてもよい濃さで大好きだった。


 お酒とかけて、かき氷と解く。その心は、積もりに積もった話が溶けていく。……なんて、謎掛けになっていただろうか。どうにも、入学式での謎掛けが消化不良で、自分なりのものを考えたくなってしまう。


 自信を持てるものが思い付けば、人に披露するのもいいだろう。


 右へ右へと進んでいれば、当然の如く元の商店街の通りへと戻ってくる。


「すみません。北ってどっちです?」


 たい焼き屋で店番をしていた、ワイシャツにエプロン姿の男性に話し掛ける。

 気になったのは、コンパスがないときでも方向が判る方法はあるのかどうか。


「この学園都市、学園部が北にあるから、このエリアを通る線路は真っ直ぐ北東を向いているんだ。オリエンテーリングの練習かな? それなら、十分ごとに学園部から光の柱が上がるから、見逃さないようにすると良い」


 親切なアドバイスに感謝して、僕はたい焼きを一つ購入した。それを食べながら、コンパスで確認した北の方を眺めている。


「ほら、上がった」


 店番の彼の言葉に頷く。

 派手な光ではなかったけれど、確かに光の筋のようなものが上空へ向けて昇っていったのが判った。


「あれ、この学園都市を維持するための、レイラインって呼ばれるものなんだよ。打ち上げられた力が、上空でドームのように広がって空間を満たしている」

「へぇ、そういう仕組みなんだ」

「体育祭でね、レイライン防衛戦っていう種目があるんだ。結構盛り上がるよ」


 優しい先輩と少しの間雑談をして、お土産として追加でたい焼きを買う。二人の手が空いているようなら、公園に呼び出して一緒にたい焼きを頬張るのも良いだろう。


「ここのたい焼きとかけて、名軍師と解く」

「お、学園長に刺激されちゃった? その心は?」

「名餡(名案)」

「ありがとう」

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