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第11話 バイト

 各エリアに一つある掲示板には、二次元コードが掲示されている。それをスマートフォンで読み込むことで、今そのエリアで受けられる依頼を確認し、申し込むことができる。


 交差点エリアの掲示板から二次元コードを読み取って、その依頼を確認する。

 なかには、定番ともいえる依頼が幾つかあった。


「交通量調査だってよ。車、歩行者男性、女性、自転車。それぞれカウントする人を募集しているらしい」


 壁を背にしてスマートフォンを眺めるダンテツ。


「ダンテツ、もうちょっと左に行って」

「左? こうか?」

「もうちょっと」

「じゃあ、勝手に動くからストップって言え」

「はーい。……ストップ」


 目的の場所まで動いてもらえば、きっちりとしたリーゼントにはあまりに合わない純白の翼が生える。


「いえーい、不良みたいな天使の写真ゲット」

「カメラなんか使ってんじゃねーよ!」


 ケラケラと笑う僕に対して、怒りながらもスマートフォンに目を向け続けるダンテツ。先ほどまで一緒にいたスイレンは、飲み物を買ってくると言って僕のもとを離れていった。


「そういや、あいつ飲み物を買ってくるって言ったけどさ」

「うん」

「金は持ってんのか?」

「さぁ?」


 僕達は持っていなくて、ここに来る前に集まったカフェでは、何も頼むことはできなかった。果たして彼女はどうなのか……。

 と考えたところで、持っていなかったら向かうこともないだろう。


「でも、何も持たずに買いに行くことはないと思うよ」


 そう話して、僕も依頼のリストに目を向ける。


 アパレルショップでの接客は、ファッションに興味のない自分では務まらないだろう。たこ焼き屋では調理も任されるため、少しハードルが高いかもしれない。


 接客だけならなんとかなるだろうか。そう思って探してみるものの、雑貨等を取り扱う店では商品を憶える必要がありそうで……。


「カラオケとか、結構楽そうかな」

「ああ。本格的な調理もなさそうだし、温めたりしたものを運ぶくらいだろう。単発で入るならこれが良いかもな」


 時間も一時間単位から選べて、時給は千円。授業を受ける人が多いだろう日中なら、それほど人も来ないだろう。


「でも、一週間でどのくらい稼げるのか、だよね」

「一日八時間働いたとして、五万六千か? ウェアは買えるが……」


 少し心許ない。


「お待たせしましたー。二人とも、良いバイトは見つかりました?」

「おかえりー。せめて依頼って呼んであげて」


 そう突っ込みを入れてみるけれど、バ先と表現する憧れは捨てきれない。それが一時の流行語だとしても。


 手渡されたコーヒーをストローで吸い上げ、一口含む。氷がいっぱい入っていて、シロップの甘みがしっかりと感じられた。流石は長い付き合いだけあって、甘党だということは理解してくれている。


「ダンテツさんは、ブラックで良かったです?」

「ああ。それより、金はあったのか?」

「はい。朝に新聞配達の依頼を受けたので」


 こんなにしっかりとした子が結婚をしてくれたんだから、僕の人生は上手く行かないはずがなかった。


「それで、住居エリアと交差点エリアの依頼を比較してみたのですけど、その二つのエリアに関しては、この学園都市の住人に関わる仕事が主みたいですね」


 つまり、人対人の依頼。


「コーヒーショップでバイトをしていた先輩に話を聞いたんですけど、学園都市に関する依頼の方が単価は高いみたいです」

「例えば?」

「街路樹の剪定とか、夜間の見回りとか」


 それらの依頼が多く集まるのが、学園部やネイチャーエリアだという。


 試しに見に行ってみよう。僕達はネイチャーエリアへ向かう電車に乗った。


 駅の近くにあった掲示板から二次元コードを読み取り、駅の待合室で確認をする。


 学園都市が運営をする果樹園や畑での仕事は、確かに実入りがいい。日当で二万円からというのがほとんどで、ノルマがクリアできれば即帰宅。慣れてしまえば、そう拘束はされないらしいとスイレンは語る。


「一週間フルでやっても十四万か。なかなか良いんじゃねーの?」


 ダンテツは肉体労働を受け入れているようで、かなり乗り気だ。


「でも、そういうのって力仕事だよね? 僕はちょっと自信がないかも」

「そのための能力では?」


 ……なるほど。


 自分の能力がどこまで活用できるのか。試しに一つ、依頼を受けてみることにした。

 選んだのはイチゴの収穫。これは、摘み取る際に道具を使わないことから選んでみた。


 イチゴの果肉の周りに存在するであろう、見えない何かを操り、優しく持ち上げ、節で折るようにして収穫をする。それをそのまま箱に移動。


「けっこう、意識を集中させないと……」


 油断すると、果肉を潰してしまうくらいに力が入ってしまう。そうすると給料から天引となるらしいのだが、この際修行と割り切って諦めて、能力のコントロールに力を注ぐ。


(この能力で、ずっと過ごすわけではないと思うけど――)


 それでも、この経験は今後変更を検討する際の判断基準にはなるはずだ。


(ずっとこの姿で、かつ手入れも要らない)


 そうあり続けるために必要なのは、果たして何なのか。不老不死の秘薬か、はたまた禁忌の魔術か。それらを生み出す力、もしくは扱う能力。


 想像するだけでは、判らないことがある。少なくとも、今の能力の力加減が、まさにそれだった。

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