表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/20

第10話 オリエンテーリング

 入学式翌日から授業は始まった。


 教科書の類はすべてタブレットに収められていて、それとスマートフォンだけ持っていれば、この学園都市では充分に事足りる。


 授業の選択はスマートフォンから。専用のアプリで時間割を確認して、受けたい授業があれば登録。あとは時間通りに指定された教室へ向かえばいい。

 どういったペースで授業を選べばいいのだろうか。一日にどれくらい受ければいいのか。しばらくは、探りながらの生活になるだろう。


 その日、僕は午前中にあった数学の授業を受けるだけに留めておいた。


「いやー、舐めてたわ数学。ぜんっぜん憶えてなかった」


 飲食等にあるカフェのテラスで、僕は項垂れながら落ち込んでいた。


 現世では、多少経営の経験もあったし、会社員としての勤務経験もあった。常識的なものはある程度は備わっていると思っていたのだが……。


「数式、ぜんぜんわかんにゃい」

「文系、ってことなんじゃねーの?」


 実技を受けた帰りだというダンテツと合流して、お互いに受けた授業の感想を言い合う。


 彼が受けたのは剣術の授業だったそうだが、この日は剣道を一通り学んだという。手拭いを巻いた関係か、自慢のリーゼントはオールバックで纏められている。


「……リーゼントに目がいっていたけど、結構爽やかな顔立ちだよね。狙ってる?」

「いや、深くは考えていなかった。それより、数学は変わらず数学っぽいな」

「何その言い方」

「現世と変わらないんなら、受けるだけ無駄ってこと」


 学ぶ必要がないということか。そう問い掛けると、学んでも身に付かないという、端からの諦めだった。


「ま、座学はある程度諦めて、実技で単位を稼ぐしかないかもな」

「はぁ、ダンテツに同じく、かもね。全体の三分の二以上の単位を集められれば卒業も可能、みたいだけど……」

「数学はIクラスの科目だから、端からの取得が難しい。他には文字の解読を学ぶ授業だとか、地図の読み方描き方を学ぶ授業」

「地図に関しては試験は実技みたい。その中でだったらチャンスはあるかな」

「そのチャンスを活かせるかどうか、それを試せるイベントがあるみたいですよ」


 今日は授業を受ける気はないと言っていたスイレンが、いつの間にかやって来ていた。


「どうしたの? 今日は朝早くから出かけていたみたいだけど」

「職員棟へ行って、気になることを質問していたんです。ほら、二人とも。スマートフォンを出してください」


 指示された通りに取り出す。


「一週間後のスケジュールなんですけど、選択科目ってあるのが判ります?」


 カレンダーから一週間後の日付を選び、そこに並ぶ授業を眺めるが、その中に開始時間だけが記され、終了時間が未定となっているものがあった。それが選択科目だ。


「これは、好きな授業を選択して、その授業の試験を体験できるらしいのです。地図の授業だったら、オリエンテーリング。剣術だったらモンスターの討伐。みたいな」

「オリエンテーリング?」


 それってなんだっけ? 首を傾げると、ダンテツも同じ様な反応を示していた。


「地図を見ながらチェックポイントを回って、如何に早くゴールに辿り着けるか。みたいなやつです」

「へぇ、レクリエーションみたいなもんか」

「甘いですよ、ダンテツさん。異世界での活動を視野に入れているものなのですから、当然の如く戦闘もあり、です。戦闘の経験もできるため、おすすめの授業だそうですよ」

「一石二鳥だ」

「野外で料理をしようものなら、それは三鳥にも四鳥にもなります」


 人気がありそうだ。


「でも、地図に関しては当然支給されるのですが、食料やらなにやらはすべて持ち込み。つまり、事前の準備が必要になってくるそうなのです」

「え、じゃあ何も知らずに参加したら、飲まず食わずでチェックポイントを探さなきゃならないの?」

「いえ、現地調達」


 それはサバイバルでは?


「でも、面白そうじゃねーか。それって、もう登録はできるのか?」

「できますよー。でも、三人一組なのです」


 だから、ここへ来たわけね? 正解。

 そんな、視線でのやり取り。


「しゃーない。トリオを組んでやるか。で、どんな場所に行くかは分からんが、制服って理由には行かないだろ? 運動服なんて、支給されていなかったと思うが」


 下着姿で就寝したくらいには、服の類の支給はなかった。


「それも買わないといけないんですよねぇ。なので、授業を受けるよりも、先ずはお金を稼ぐべきなのだと思います」

「そのための一週間、って面もあるのかもね」


 授業の流れについては、多少は理解できた。それなら次はお金稼ぎについて。


 カフェを離れて路面電車に乗り、交差点エリアへ向かう。

 アパレルや家具など、生活必需品や授業に使用されるものなどは、すべてこのエリアにある店舗で揃えられる。駅からすぐ近くのビルへ入り、アウトドア用品店を覗いてみた。


「登山ウェアはなかなかするな。最低でも三万だぞ」


 様々な種類から一つを選び、ダンテツが身体に合わせている。そのウェアの袖を摘んでみると、なかなかしっかりとした作りをしているようだ。


「ジャージじゃ駄目かな?」

「戦闘のことも考えるなら、動きやすさを重視するのも手ですね」


 スイレンが持ってきたジャージ。それもブランド物なのだろう、作りがしっかりしていて、値段も張る。


「安いもので妥協するって手もあるが、初回のオリエンテーリングで破損をしたら、それはそれでショックだろうな」


 ダンテツは、良いものを買って長く使いたいと言う。


「水筒なんかも欲しいよね」


 服の値段を確認する二人から離れ、売り場を移動する。そちらは千円からの取り揃え。


 もしもの時のことを考えるなら、テントもあったほうがいいのだろうか。そちらは一万円の物があるけれど……。


「こういうのって、安いものを買っていいのかなぁ」


 キャンプというものには縁がなかった生前であるだけに、選ぶ基準がいまいち判らない。


「イズちゃん。とりあえずお金稼ぎに集中して、その間に余裕があったら、経験者から話を聞いてみましょう。必要なものが判るかもしれません」

「楽して稼げるものがあるといいけどね」

「例えば?」

「新商品の試食」

「Gクラスが作製した、新薬の被検体ならありますよ」


 ……それ、一週間を棒に振らない? 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ