表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルインシールサーガ 二章 奴隷紋は光らない  作者: 宮下しのぶ
第二章 ハラムビジネス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/21

ハラムビジネス 5


 議会は、おおよその定時報告がつつがなく行われるだけであった。行政と軍部の折衝もそれなりに存在した。ただ、いつぞやのように竜が近隣に出没した、などといった王都を脅かす惨事が報告されることはなく、ありていにいえば何も、面白みのない内容であった。

 いや、面白みがあったところで百害あって一利もない。ノブリスオブリージュは平民の平穏な日々を確約するものであって、都市を破壊しながら魔物と戦う事ではない。戯曲のような冒険談は演劇の演目として行えばよいのである。現実にあってはいけない。

 ただ、変化もあった。

 以前は軍部の騎士大隊と魔導大隊だけであったのが、バナン総大隊将公が加わったことで実の詰まった話ができるようになった。

 軍部と一言にしても様々な部署がある。実際の軍事行動をつかさどるのは主に騎士大隊と魔導大隊だが、他にも医療、計務、兵站、諜報等の部署も存在するし、それらの統括機構も存在する。ゼナンとフォルスは優秀だが、さすがに他の部署にまでは明るくない。

 バナンは、全ての部署に対して専門的な知識を持っているわけではないが、軍の全体像を把握している人間なので非常に俯瞰的な視野での発言が多かった。いままでに不透明だった軍部の裏方的な部分についての情報が手に入る事はとても有益だった。

 邪推すると、今まで騎兵大隊と魔導大隊のみを送り出していたのは、そういった軍部の深い部分の情報をカーリアリアに教えたくなかったのではないか、とも彼女は思ってしまう。もしそう仮定するのであれば、今まで秘匿していた情報を流す気になったのはどういった心境の変化なのかとも考えてしまう。やはり、バナンは今一つ分からない。

 先日、ひと悶着あったゼファーリア大森林における一連の状況終了と、ざっとした損害や現在進行形で発生している問題、そしてこれから発生すると推測できる問題に対する大雑把なすり合わせが終了した後、話はバッファが賓客であるライノス区長と共に持ち合わせた議題に移る。

 議会で提示される内容によっては一時的にライノス区長に退席してもらう必要もあるのではないかと考えたのだが、グランク曰く、どうやらそこまでする必要はないとの事である。そもそも、ライノス区長は爵位を保有しているものの、立法よりも行政よりの人間であり、分類的にはこちら側の人間らしい。バッファの部下であるという事はグランクの部下でもあるという事なので、そこまで気を使う必要性はないというのがグランクの見解である。ただ、議会の参加者が増えるのであれば前もって一言報告してもらいたいと小さな声で口説いていたが。

 ライノス区長は口を開く。

「本日は、私のような若輩の者に発言の機会を頂き有難く思います。女王陛下、ならびに議会に参列された方々に対しては感謝の言葉もございません」

「それで、話というのは?」

 グランクが促す。カーリアリアが見た限り、ライナス区長は必要以上に緊張している様子だと見てうかがえる。

 本来の円卓議会が目指す場所とはすべての者がすべからく対等に話すことのできる状態である。たとえ、それが貴族と平民でも、である。なので、もっと砕けて話してもらっても構わないのにと思うが、実際にそれは難しいのだろう。理想は理想だ。実際ではない。女王陛下に「目つき悪いね」と舐めた口を利くのは場末のパン屋の小娘だけで良いのである。知らないとは怖い事だ。

「実は、相談さえて頂きたいという内容というのは、ここしばらくの間、クリュール区で始まった新しい事業形態の事なのです」

「事業?事業が興るのは良い事なのではないか?」

 そう聞くグランクにライノスは一つ頷き。

「確かに、事業が興ることで経済が活性化するのは喜ばしい事なのですが、問題はその内容なのです。現状、相当数の被害届が区役院と区警察に寄せられています。届は減るどころか、日に日に増える所で、区も警察も頭を抱えているというのが現状です」

「よもや、扱う商材が麻薬、とでもいうのではあるまいな」

 そこで、グランクの眼光が注意深く光る。王都では麻薬の流通は原則として禁止している。依存性が高く、犯罪率や自殺率の増加につながるからである。一部の薬物のみ、錬金組合の管理下に置いてという条件でのみ、使用が許されている。

 ただ、毒の味は蜜の味とでもいうのだろうか、実際として闇取引として麻薬の流通が一定数、存在するのも揺るがない事実である。三層、言い変えるならば外層の貧困区など特に難しい。外国人移住者や小規模な犯罪組織が金儲けの為に非合法の売買を行っているという有様である。諸外国の中には麻薬を合法化している国があるのでそこで安く仕入れて、非合法な国内で高く売るという手法だろう。リスクは高いがレバレッジは数十倍から、下手をすれば百倍にまで跳ね上がる。勿論、捕まれば極刑だが。だが、実際に取り締まり切れていないというのが実情である。

 取引は外層の一部にとどめていたが、それが二層で比較的治安の良いクリュール区まで流れてきたなら大ごとである。

 しかし。

「いえ、違います。麻薬の流通ではありません」

「では、武器か。あるいは、奴隷売買か?」

 グランクが挙げた二つも王都では非合法である。武器は鍛冶職人か、ハンターライセンスの所持者か、軍事職の人間しか保有が許されない。他にも許可の認められる事例はあるが特殊なライセンスを所持しなければ保有は許されない。無差別に容認し、街中で非武装の一般市民に対して危害を加えたら事だからである。

 奴隷売買も、認められていなかった。過去には認められていた時代もあるが、複雑な事情が絡み、現在は貴族が労働力として奴隷を所持する事すら許されていなかった。

 だが。

「いえ、そうはありません」

 ライノス区長はふたたび首を横に振る。

「だったら、何だというのだ」

 グランクは、ライノス区長の結論から先に言わない様に少しだけ苛立っている様子である。歳を取ると沸点が低くなるのだろうなあとカーリアリアは思ったが、それはあえて言わなかった。火に油を注ぐ必要はない。

 ライノス区長は少し思案し、どのように伝えればより良く伝わるのだろうかと考えている様であった。そして、しばし思案に暮れた後に、惑うように口を開いて出た言葉は。

「日常品です」

 ライノスの斜め上を行く回答に、場にいた一同はあっけにとられた。事件性とはあまりにも無縁の答えだったからである。グランクは、想像の斜め上を行くライノスの言葉に困惑ぎみに聞き返した。

「私の耳が確かならば、日常品、と聞こえたのだが。これは聞き間違えだろうか」

「いえ、お言葉の通りです」

 グランクは、困惑のままに聞く。

「具体的には?」

「栄養剤等の滋養強壮に効く薬。原材料は辛うじて、錬金組合を介さなくても可能な物に統一しているらしいです。なので、あくまで健康に良いとだけにとどまります。劇薬指定にはあたりません。他には衣服や食器器具の洗浄剤、鍋等の調理器具。化粧品なども取り扱っています。どれも、値段は高額ですがそれなりに品が良く……」

「もうよい。解った」

 グランクは話が長くなりそうなので、強引に打ち切った。確かに、長々と商材の説明を受けたところで問題の解決とは程遠い。


お読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや★評価で応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ