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ルインシールサーガ 二章 奴隷紋は光らない  作者: 宮下しのぶ
第四章 「奴はすこぶる、貧乏だった」

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「奴はすこぶる、貧乏だった」 3


「ミシューとは、同郷なの?」

 とカーリャが聞くとフィリアは頷き。

「そうよ。とはいえ私は田舎村の村長の娘であの子は辺境領とはいえ伯爵家の御令嬢様だけどね。身分が違いすぎるわ」

「貴方も、アーシュナイド学院の卒業生なのよね。ミシューと仲良くなって色々調べたわ。相当に入学試験も敷居が高く、講義も難解らしいわね。せっかく入学しても授業についていけずに落ちこぼれる生徒が随分といると聞くわ。入学生に対して卒業率は八割弱で、二割以上は卒業できないとか」

「んなわけないじゃない。よほどの事がない限り、大体全員卒業するわ」

 カーリャのにわか知識をフィリアがパサリと切り捨てる。フィリアはお茶請けの、えーと、なんだろう、妙なスティックタイプの何かをパリパリかじりながら答える。

「それって、おそらく王都の貴族とかを通わせるハイソなお坊ちゃま学院の話でしょ。私が通っていたところは違うわ。コネ入学は出来ないし、入学生は本当に頭の良い人間を厳選しているから、そもそも落ちこぼれる見込みのあるような人間は入ってこれないのよ。だから、基本的に、家庭の事情とかでない限り、大体卒業するわ。そういう事情のおかげで、田舎村長の娘である私も入学できたんだけどね」

 ポリポリ食べるお茶請けの正体が謎過ぎて話に集中できない。ただ、なるほどと思う。セインブルグでも事情は同じだが、どうにも専修大学校に通う貴族たちは、常に一定数が落ちこぼれる。基本的には親がコネとカネで何とかしてしまうのだが、中にはどうにもならない落ちこぼれもいる。アーシュナイド学院というところも同じだと思っていたが、生徒を厳選すると授業が難解でも生徒がついてこれるのか。カーリャはまた一つ勉強になった。

 だがやはり、そうなると目の前の頭の悪そうな女がエリートに見えてくる。いや、実際に難解な大学を無事卒業しているのだからエリートであるのだろう。そうなると、厨房で食事の支度をしている小娘は超エリートということになる。エリートがゲシュタルト崩壊しそうである。エリートとはいったい。うごごごご。

「あによ」

「いや。別に」

「言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ」

「あまりにも貧困でしょぼすぎて、哀れという言葉さえまるで夏の陽炎のように虚ろで、どこからどう見ても隣国のエリート魔導士になんて見えないなんて、失礼過ぎて言えるわけないでしょ」

「はっきり言うんじゃないわよ!」

 いや、はっきり言えと言ったのはあなたでしょ。それをはっきり言っただけじゃないの。逆張りで失礼な。ぶっ殺すわよとカーリャは思った。略して。

「ぶっ殺すわよ」

「なんで!」

「いえ、言葉が足りなかったわ。ごめんなさい。はっきり言えと言われたからはっきり言っただけなのに不当に怒られてしまい思わず殺意が沸いてしまったの。そういう意味でのぶっ殺すわよ」

「ただの、逆切れじゃないの!」

「あなた、面白いわね。オーラが無くてしょぼいのに、突っ込みは切れ切れだわ。今、人生が面白くなくて自分より哀れな人間を笑いのネタにしたかったのよ。一節、大金貨三枚で私に雇われないかしら。私の周りをうろうろして、事あるごとにその無駄に愚かな突っ込みを炸裂させるだけで良いわ」

「何、その謎雇用!しかも、好待遇!」

「あ、ちなみにメリアリアっていう中年のババアがいるから、特にそいつには重点的にやってほしいのよ。容赦はしなくていいわ。気に入らなければビンタを張ってもいい。とにかく徹底的に突っ込んで頂戴。どう、いい仕事でしょう」

「いや、やらんわ!謎だし好待遇なのが不思議すぎるわ!」

「残念ね」

 カーリャは残念そうに嘆息する。対面で、フィリアはあいも変わらず謎スティックをポリポリ噛んでいる。謎だなあと、心底浅い感想を浮かべながらカーリャが見ていると。

「十七種類の生薬を配合したハラム製小麦菓子、クラムクラック。栄養価満点だから、時間の無い時の朝のお供にもちょうど良いよ。二本で、小銀貨一枚だよ」

 しょぼい調理場で夕食の準備をしているミシューが顔をのぞかせて、またしても余計な情報を宝石箱に包んで叩きつけてきた。だから、聞いてねえよ。調理に専念してくれよ。

 心底うんざりした表情のカーリャに、フィリアは感嘆した様子で言った。

「僅か十日で、あそこまで商品知識を熟知。プレゼンも完璧。逸材だわ。さすが、アーシュナイド学院首席卒業ね。ポテンシャルが他のディストリビューターと一線を画しているわね。きっと彼女なら狙えるわ。幻のホワイトプラチナを」

「だから、うちの娘を巻き込むな!」

 カーリャは、机を叩いて力いっぱい叫んだ。

 やはり、どんなに馴染んだところでこの一件だけはどうしても看破できない。事、ある事に頓珍漢な返答をするあの様子。この一点だけは許せない。

 カーリャはフィリアをビシッと指差し。

「大体、あんたがミシューの事を巻き込んだからこんなにややこしい事になっているんでしょ!別にあんたがどんな仕事をやろうが勝手だし、それでどれだけ身をやつしたところで所詮、赤の他人の事だからどうでもいいけど、私の友人を巻き込まないでくれる?はっきり言って、心底迷惑なのよ!とっとと、あの子の登録打ち切って、元の普通な能天気に戻しなさい!さもないと、本気で怒るわよ!」

 そう、一気にまくしたてる。強い語尾と口調。怒り任せの発言。その様子に、フィリアは一瞬気おされて、あっけにとられるがすぐに頬杖をついて。

「へえ」

 感嘆したように、笑みを浮かべた。

「なによ」

「いえ、別に」

「言いたいことがあるのなら言いなさいよ。ちなみに言いたいことが気に障る事ならばもれなく閃光のような右ストレートが再びアンタの左頬を打ち砕くから、それでもよければ言いなさいよ」

「良くないわよ!」

「ちなみに、この技の名前はフィラーフェ=ルトの顔面を必ず砕きマンパンチという名前よ。名称は今決めたわ。気に入ってくれたかしら」

「気に入らないわよ!あと、名前間違ってるわよ!フィリア=フェルトよ!つか、なによ!必ず砕きマンパンチって!そのまんまにも程があるわよ!あと、砕くんじゃないわよ!医務室で、『二度と治らないかもしれませんね~』って言われてチョッピリ怖かったんだから!」

「いや、だから言いなさいよ。言わないと、しゃべらないから喋らすために顎を砕いて暴力で解決するマンパンチが炸裂するわよ」

「だから、なんで暴力で解決するのよ!人類なんだから話し合いで解決しなさいよ!あと、顎を砕かないでよ!」

「あ~ご~く~だ~き~ぱ~ん……」

「解った!いうわよ!だから、息を吸うように顎を砕こうとするんじゃないわよ!」


お読みいただき、ありがとうございます。

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