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屁理屈というか詭弁というか

「聞こえて……えっ!?」

 予想外の事態に驚いている俺を尻目に、甘原少女は人形が頷いたことに対して嬉しそうに目を細める。

「……甘党探偵」

「なぁに?」

「君の観察眼には恐れ入るばかりなのだが、何故見えていると判断したのかね」

「単純な話、君の表情を呼んだだけ。依り代職人が顔しかめたんだから何かしら起きたんでしょう?そこから推測してああ発言した」

 問いに対してあっけらかんとした態度で、中々に尖った回答を返してくる甘原少女。

俺は驚いたのだが、柚木宮少女も同じ感情を抱いてくれていたらしい。おそらく眉間があるであろう場所を前髪の上から抑えて、呻くように呟いた。

「半ば博打じゃないか……!」

「うんまあ、そうなるね」

 そう茶番かコントのように延々話していた我ら裏探偵メンツだが、その会話劇に横槍を指す声が一つ。

「……ひとつ、お聞きしたいのですけれど」

 唐突に耳に問いこんできた、落ち着いた印象を与える成人女性の声。

どこから聞こえてきたのだろう、と思いその声の発生源を探して視線をさまよわせる。そしてその結果俺の視線がたどり着いたのは……案の定、依り代とした人形であった。

「……おお、喋ってる」

「怖がらないのですね?」

 感嘆の声を上げた俺に対して、人形……こと桜さんは少し不思議そうに声をかけてきた。

彼女からしたら、某ファストフード店の有名になりすぎたCMのごとく、「キエアアアアシャベッタアアアア」とでも叫ばれると思っていたのだろうか。

だが残念、こちとら裏探偵の助手を務めさせてもらっている人間だ。知識不足は多々あれど、何故か実地経験はそこそこにあるのだ。

俗に言う『名前もない弱小怪異』には死ぬほど出会っている。故に結構耐性が出来てしまっているのだ。

「いやこう言うの、非常に不本意ながらも見慣れちゃったので。一回そう言うもんだと思えば。驚きはしますけど怖くはないです」

「発声機能をつけておいて正解だったな。我ながらいい判断だ」

「まさか喋れるとは。より便利ですね。意思疎通が出来るのはありがたいです」

「……本当に慣れてらっしゃるのですね」

 質の良い依り代だからかは知らないが、楽しそうにそう呟く姿はまるで本人がここに居て離しているような感覚にさせる。

少しほのぼのした空気が場に流れたところで、その流れをあえてぶった切るようにして甘原少女が本題を切り出した。

「ところで桜さん。今あなたは行方不明とのことですが、帰って来る気はありませんか?」

 一瞬で、場の空気が凍り付いたのを感じた。恐る恐る人形の方に目を落としてみると、まるで般若のような険しい顔つきをしている。

どちらかといえば小面を思わせるような優しい顔つきのはずなのに。

「それは、嫌です」

 控えめながら、しかしきっぱりとした拒絶。

普通の人間であれば驚いてしまったことだろう。だがしかし、俺の雇い主は普通とは離れたところにいる超人だ。

「ですよね」

 彼女は桜さんが決死の思いで告白したであろうその言葉に対し、甘原少女は非常にあっさりとした四文字で会話を終わらせる。

完全に予想外の返しだったのだろう、桜さん(が憑依した人形)は見事に急停止してしまった。俗に言うフリーズというやつだ。

「……ですが、まあ。こっちに来ていただかないと子供の引き渡しが難しいんです」

 その言葉を聞いた瞬間に、桜さんが憑依した人形が再起動した。

そしていったい何をしたのかと問い詰めるようにして、甘原少女の腕にしがみつく。

ホラー映画のワンシーンにでもなりそうなその光景に、正直少し腰が引けた。

しかししがみつかれている当の本人は一切気にしていないらしく、むしろ説得のチャンスとでも言いたげな表情のまま人形を見下ろし、声をかけた。

「当たり前でしょう。その人形は確かに一流の依り代職人が作ったものですから性能は良いですけれど、子供一人抱えて移動できるほどの強度は有していませんよ」

「……それに申し訳ないが、あらかじめ有効範囲を定めさせてもらっている。依り代は、なにぶん悪用されることが多いのでな。私から一定距離離れる、その他条件を満たすと依り代としての機能はなくなるのだよ」

 甘原少女の言葉に続くようにして、柚木宮少女が補足を口にした。

その言葉を聞いた瞬間、電池が切れたように桜さんが憑依した人形が甘原少女の腕から落ちた。

ごとん、という外見の割に重い材質の人形が床と激突して音を立てる。

その瞬間、柚木宮少女が露骨に嫌そうな顔をした。まあ当然ではある。彼女にとって今桜さんが憑依している人形は一種の作品だ。それが手荒に扱われてうれしい人間はそうそう居ないだろう。

「……どうしても、ですか」

「お子さんを迎えに来たいのであれば」

「そうですか……」

「念のため先に言っておきますが、私はあなたを彼らのもとに差し出すつもりは毛頭ありませんよ」

「え」

 甘原少女の『念のため』が完全に完全に予想外であったらしい彼女は、あ行四番目の一音を発してまたもや硬直してしまった。

そんな彼女の状態を知ってか知らずか、甘原少女は彼女が硬直から復帰するのを待つことなく言葉を続ける。

「私の依頼内容は『貴方を探すこと』であって『貴方を彼らに引き渡すこと』ではありませんから」

 さらりとそう言った甘原少女に対して、俺は思わず思っていたことをそっくりそのまま口に出してしまった。

「千里それ屁理屈って……」

 言いません?といおうとした瞬間に、口を覆うようにして手荒に右手が襲い掛かって来た。

そして目論見通り口を覆い、俺の発言権を奪ったところで、甘原少女が耳元で囁くようにしてこういった。

「それ以上は黙ろうか?」

「ふぁい」

 俺は知っている。この目の時の彼女に逆らってはいけない・


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