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人形憑依

「ところで甘党探偵」

「何?」

 カリカリと、ひたすら作業音が響き渡る。素人目に見ても既に相当の完成度を誇る彼女の作品だが、どうやらまだ完成ではないらしい。

更に細かいところを作りこんでいく彼女は、暇なのか口を動かすべく甘原少女に話しかけていた。

「……私の記憶をたどる限り、君が捜査目的で私を頼るのは初めてだと思うのだがね」

「……そうだね」

「私は君と辛党探偵は相当優秀だと踏んでいたのだが」

「その評価は何とも、有難い限り」

 大仰なほど丁寧な態度で、甘原少女は頭を下げた。それを片目に見ていた柚木宮少女はふと作業の手を止めて、独り言のようにこう呟いた。

「……これは私の推測に過ぎないのだが、何か隠されている可能性はあるまいか?」

「まあ、その可能性も無きにしも非ずでしょうね。まあ裏探偵なんて敬遠される職業だし」

 へらりと気の抜けた笑顔を浮かべながら、甘原少女が中々にとんでもないことを言う。

その言動がとんでもないと思ったのは俺だけではなかったらしい。柚木宮少女は不服そうに口元を歪ませながら応じた。

「ずいぶん慣れたものだな、悪い事だ」

「良い事じゃないのがあなたらしいね」

「……完成したぞ」

 いつの間にか作業を再開していたらしい柚木宮少女は、そう呟きながら完成した人形を少し持ち上げて示した。

それを目線を映して確認してから、甘原少女がゆっくりと立ち上がる。柚木宮少女はその後を追随した。

俺は更にその後ろをついて歩いて行くのだが、正直柚木宮少女の持っているその人形が怖くて仕方がなかった。俺の膝くらいまでの高さなのだが、その大きさになるようそっくりそのまま写真の桜さんを縮めたような形なのだ。

人形が怖い、人形には魂がこもる、なんてよく聞くがその気持ちが今痛いほどよく分かる。

そんな身長の人間なのではないかと勘違いするほどの生々しい完成度に、ついつい恐怖を感じてしまった。

少女二人はそんな俺の気持ちなど知らず、すたすたと迷うことなく廊下を歩いてく。

そして台所まで来たところで、示し合わせていたように二人揃って足を止めた。

「……台所に一番思念があるとは何とも言い難いな」

「私も同じことを思ったよ」

「随分と古き良きなご家庭なようだな」

「……それ以上はやめましょうね?さっさと仕事しましょうよ二人とも」

「……そうだな」

 他人のご家庭に関してこれ以上の言葉はあかんと思って、慌てて制止を入れる。

すると柚木宮少女は少しばつの悪そうな顔をして、素直に俺の提案に従った。

コトン、と柚木宮少女がその人形を台所の床に置く。

すると特に何かしら特別なことをした様子もなかったのだが、ギギギギギ、と非常にぎこちなくはあるものの、勝手に人形が動き始めた。

俺はその様に絶句してしまったのだが、驚いたのはどうやら俺だけではないらしい。

まさかのその人形を作った張本人である柚木宮少女が、その様を見て驚きの表情を浮かべていた。

「……何とも珍しい。こちらから呼びかける前に自ら入ってくるとは、よほど気になる事でもあるのだろうか」

 そう呟いた柚木宮少女は人形の後を歩いて行く。その人形はだんだんと滑らかに動けるようになり、しばし台所の中を行ったり来たりと右往左往する。

そして数秒間急に停止し、人形はくるりと台所に背を向ける。

そして暫く歩いてから、ある一室に向き直ってその部屋の扉を小さな手で器用に開けて、部屋の中に侵入する。

そこは件の子供がいる場所で、人形は迷いなく子供の方に進んでいく。

そして人形は必死に子供を……おそらくは抱いて連れ出そうとしているのだろう。

しかし人形の大きさは俺の膝程度、赤ん坊を抱くことなど出来はしない。

抱こうとしては失敗し、抱こうとしては失敗しを繰り返す。それは謎の哀愁を発していた。

「桜さん」

 気づいた頃には必死に子供を抱き上げようとする人形に近づいていた甘原少女。

彼女はにこりと笑みを浮かべながら、人形の顔を覗き込んでいた。

「甘党探偵、何をしている?普通の人間は入れたとしてもこちらの情報を拾う事は…」

 慌てて甘原少女の行動を諫めようとした柚木宮少女の言葉を無視して、甘原幼女は更に言い募る。

「聞こえてますよね?」

ニッコリ、と微笑んだ彼女の表情を見たからなのか、人形はピタリと停止する。

そしてあろうことか、こくりと一度頷いたのである。


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