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依り代職人

「……甘原少女」

 俺が声をかけるが、甘原少女は聞こえていないのか、それとも聞こえていて反応する気がないのか特段反応を示さず作業を続行する。

「……甘原少女!」

 再び声をかけるが、やはり無視。彼女は手元の作業に没頭し、淡々と物体を完成させていく。そして完成した物体は、俺のもとに差し出される。

「……千里!!」

 甘原少女では反応しなかったので、彼女が常日頃そう呼べと言っていた名称で彼女を呼びなおす。すると一瞬顔を上げて反応を示しはしたものの、また顔を下に向けて作業に没頭してしまう。

「そろそろいい加減にして」

 怒気を発しながらそう言えば、ピタリと甘原少女の動きが止まった。

俺と彼女の間の空間、つまり机の上には大量の知育菓子の完成形が散乱している。

柔軟性のあるソフトキャンディであったりグミだったり、彼女が手あたり次第作り続けていたお菓子の完成体たち。

彼女はそれらを作るだけ作って、食べて処理する役を完全に俺に丸投げしていた。

最初こそ素直に差し出されるだけ食べ進めていたが、俺だって人類の一人である。つまるところ、胃袋と喉が限界を訴え始めていた。

「……私まだ満足してないのだけど」

 不服を全面に押し出しながら、彼女は俺の目を見た。そして作業を再開しようとする。

さすがに再開されては良心か体、どちらかを犠牲にするしかなくなってしまう。俺は慌てて甘原少女の手を自分の手で拘束した。

「何するの?」

「これ以上は俺の両親か体どちらかが死にますので、阻止させてもらいます」

 彼女の両手首を片手で絡め取るようにまとめ、そのまましばらくにらみ合う。

珍しく俺と彼女の間で剣呑な空気が流れ始めた。

少し息苦しさを感じ始めたころ、この空気を断ち切るように、俺たちの視界を一つの物体が占領した。

陶器の紙の中間を行くような、日本人が好む傾向があるであろう白い肌。

本来の眉よりもかなり高い位置にあるであろう麿眉。

墨で描かれたであろう穏やかな目と、赤が美しい小さな唇。

その顔の少し下にある服は、目を見張るような奇麗なちりめんが使われている贅沢品だ。

「……日本人形?」

 思わず力が抜けてしまうと、その隙を見逃さず甘原少女が俺の拘束から逃れる。

そしてこきこきと手首を動かして感覚を確認していた。

「甘党探偵。呼ばれて来てみれば、なんだねこの状況は」

「待ってたよ」

 彼女に迎えられた人物は、古風な和服を着ており、目を見る事が出来ないような重く長い前髪のおかっぱの少女だった。相当背が低く、体もほとんど発達発育していない。甘原少女や辛牙少年も相当若いが、もしかしたら十代にすらなっていない可能性があった。

そんな彼女は大きなカバンを持っており、締まり切らないほど大量にものが詰め込まれたその鞄からは、多種多様、そして大量の人形がのぞいている。

「……人形師、ですか?」

 持ち物から彼女の職業を推測し、質問の形を借りて確認する。

その言葉を聞いてようやく俺の方を見た見知らぬ少女は、コテンと小首を傾げて一言こう言った。

「……誰だい君は?」

「嗚呼そっか、紹介してなかったね。こちら私の助手の田中勝次」

 そう言いながら、甘原少女は俺の方に手を向ける。和装の少女はフム、と頷いて俺の方を品定めするように眺めていた。

続いて甘原少女は手を和装の少女の方に向け、俺に向かって目の前の人物を紹介する。

「で、こちら仕事で偶にお世話になる職人、柚木宮御市(ゆぎみや おいち)

「気軽にいちと呼ぶと良い。そう呼ばせている」

 呼ばれている、ではなく、呼ばせている。その言葉に彼女の気の強さが伺える。

そして柚木宮少女は出現早々俺たちの視界に突然割り込ませた、件の日本人形を机の上から回収する。

とても大切そうに日本人形を抱きながら、彼女は俺の方に向き直った。

「して若造」

 十歳未満と思われる子に若造呼ばわりされるとは、なかなか衝撃的な体験だ。

先程の紹介で名前は聞いていたはずなのだが、彼女にとってはそんな事関係がないらしい。

「遅れてすまなかったね、問いに応えよう。私の職は人形師ではない」

「え」

「人形は一つの種類に過ぎない。私は依り代職人。そこの裏探偵に呼ばれてはるばるやって来た、裏探偵関係者だ」

「あ、そうなんですか」

「……自分で言っておいて何なんだが、裏探偵関係者以外で『依り代職人』なんて自称する人間そうないと思わないかね?」

「そう言われればそうですね……」

「覚えのいい子だ」

 満足そうに笑いながら、柚木宮少女は俺から官原少女の方へと視線を移した。

彼女の前髪はとても長く目を完全に覆い隠してしまっているため、正確に言えば視線の動きは完全に俺の予測でしかないのだが、首の動きや顔の向き的にもこの予測は間違っていないだろう。

「ところで甘党探偵」

「はい」

「私の仕事は一体どこにあるのかね?」

 そう言った瞬間に、柚木宮少女の雰囲気は大幅に変わった。

それは今や慣れてしまった、彼女らの中のスイッチが切り替わった音だった。



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