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終幕

ホラーになってるといいな

「………なんなんですか、この状況」

「なんなんですか、って言われても。小野寺由紀の原状復帰待機中?」

 聞かれたことに素直に答えれば、助手に苦い顔をされる。

今私たちは、砂浜に急遽ブルーシートやパラソル、椅子その他を展開し即席の休憩場を作っていた。

そして私たちの視線の先には、安定した場所で横たえられている先ほど失神してしまった小野寺由紀の姿がある。

実際、それ以外に答えようがないのだ。もともと自分以外に妖怪の姿が見える人間が居ないと思っていた彼女の前に、私たち裏探偵関連の『妖怪を感知できる』四人が現れた。

それだけでもう充分衝撃だっただろうに、そんな人間がこぞって自分のやったことを暴き始めたのだ。脳が処理落ちしてしまっても、まあおかしくはない。

「……つっても、今回本当にどういう事なんだろうな。あ、コーヒーおかわり」

「本当だよねぇ。馬場美也子を殺したかったのか、それともあのマンションを燃やしたかったのか。あ、僕紅茶おかわり」

「小野寺由紀本人が今回の騒動の根幹にかかわっていることは明白……なんだけど、何がしたいかよく分からないのよね。馬場美也子を殺したかったなら、どうして自分を海に沈めたのかよく分からないし」

 そう言いながらすっ、と空になったマグカップを軽く上げれば、そこにココアが注がれる。

それを注いでくれたのは勿論、先ほどからちーちゃんやLiarにも飲み物を差し出している助手、もとい田中さんである。

彼のすぐ脇には何故か数本の魔法瓶が常備してあるが、あまり気にしてはいけない。本気になれば料理のさしすせそ+αも出てくるのだ。

「いまいち油すましとトモカヅキの行動が一致してないんだよな。火事を起こしたいならトモカヅキを使って自分を海に引きずり込む必要がない。自殺したいなら油すましを使う必要がない」

 そう言いながらちーちゃんがこちらにポッキーを差し出してくる。

別段断る理由もないので、そのまま口を開けて待機する。

そうすると、口の中にポッキーが差し込まれた。そのままありがたく咀嚼していると、あきれ顔のLiarが私に向かって苦言を呈してくる。

「君さ、お嬢様とか赤ちゃんじゃないんだから。もうちょっとこの男どもの異常な献身に疑問持とうよ」

「え?」

「あ駄目だねこれ。もう感覚麻痺してる」

 そう言いながらマグカップを傾けるLiarに質問を投げかけようとしたが、それを阻止するようにちーちゃんが私の口にポッキーを差し込んでくる。

さすがにモグモグ咀嚼しながら会話をするのは失礼だと判断し、食べ終わってから会話を再開するべくポッキーを飲み込む。

すると矢継ぎ早に次のポッキーを口に差し込まれ、また咀嚼する。

……喋れない。

「はは、わんこそばじゃないんだから」

「うるさい。余計なこと言うなLiar」

「ハイハイ、邪魔者は黙りますよーっと」

 二人が二言三言話しているうちに咀嚼が終了し、ようやく話せる状態になった。

「じゃあLiar、さっきの話……」

「えー?ボク何も言ってないよ?」

 そしてどうやら先ほどの意味不明な会話で、ある程度の決着がついてしまっていたらしい。適当な対応ではぐらかされてしまった。

そんな感じで私たちがほのぼの会話をしていると、その様子をうかがいに来たらしい馬場美也子が、かなり遠くからこちらを眺めている。

「……どうされました?」

 正直人のケアまで仕事に組み込みたくはないのだが、来てしまったからには仕方あるまい。変に突っぱねたらより面倒臭くなる気もするし、快適な仕事環境を確保するためだと納得しておくことにする。

そんな思考のもと、私とちーちゃんは完全外行きの笑顔で馬場美也子を迎え入れた。

だがしかし、すぐ横に座っていたはずのLiarは、完全我関せずの表情を顔面に張り付け唇にスティックリップクリームを押し当てている。

(……こいつさっさと戦線離脱しやがったな)

(ちーちゃん今は気にしない方が良いよ)

(そうだな)

 ちーちゃんと視線だけで会話しながら、馬場美也子に椅子を勧める。

すすめられた彼女は素直に椅子に座り、助手によって差し出された紅茶を静かに飲み始める。

そしてカップを傾け紅茶を飲み、カップから口を話して数泊後。彼女は呟くように言葉を紡ぎ始めた。

「質問があるんですけど……」

「はい」

「彼女は本当に、由紀なんですか?」

「……はい?」

「いまあそこで寝てる人、本当に由紀なんですか?実は妖怪?っていうのが変身して成りすましたりしてるってことはないんですか?」

 そう言われてしまったので、二人揃って助手の両脇に張り付き、ブースト効果を得て小野寺由紀の方を凝視する。

だがしかし、彼女本人からは妖怪の気配を感じることが出来なかった。

やはりあれは本人だと再確認してから、不安そうな表情の馬場美也子に向き直る。

ちーちゃんと目くばせをし、私が代表して結果を伝えることにした。

「本人ですね、安心してください」

「そんなはずないわ!」

「ちょっ!?」

 答えるなり肩を強く掴まれ、叫ばれてしまった。

反射で足を上げかけたが、相手は一般人だ。安全靴で蹴る訳にはいかず踏みとどまる。

だが案の定無抵抗な私に相手はヒートアップし、肩に置かれた手により強く力が込められる。

「痛い痛い痛い!痛いです!」

「そんなはずないのよ!由紀はあんな……!」

 駄目だ聞こえてない。どうしようかと頭の片隅で考え始めた時に唐突に肩の痛みが消えた。

「ほい、ストップ」

 見れば。ちーちゃんが馬場美也子の手を私から引きはがしていた。正直ありがたい。

素直に口から感謝を漏らせば、ちーちゃんは頭を撫でるという行動だけでそれに答えた。

そしてちーちゃんが馬場美也子の手を放す。すると彼女は唐突に踵を返し、ずかずかと小走りに歩き始めたのだ。

「あの、何を」

「こうなったら私が確かめてやるわ!」

「いや馬場さん、それはやめた方が」

「うるさい!」

「でも小野寺さんは今」

 私たちの言葉を一切聞かず、横たえられた状態の小野寺由紀のほうに歩いていく。

普通であれば警察が止めるのだが、不幸なことにここは現場である焼けたアパートから遠く離れた海だ。

一部人員以外は現場である家事現場に留まっているし、その一部人員も現場整理などに駆り出されていて余裕がない。

結果、馬場美也子は小野寺由紀のもとに行くことが出来てしまった。

そしてトチ狂ってしまったのか何なのか、馬場美也子は今目の前に横たわっている小野寺由紀が、「小野寺由紀の姿をして成りすました妖怪」であると判断したらしい。

「正体暴いてやるんだから……!」

 そう言いながら、あろうことか小野寺由紀の首に手をかけようとした。

止めなければ、と即座に立ち上がろうとしたのだが、Liarが私たちを押さえつけてそれを阻止する。

「ちょっと!」

「おい!」

「良いから良いから」

 二人揃ってLiarに叫ぶのだが、彼女は動こうとしない。

そして私たちの目の前で、事態は容赦なく進んでしまう。

馬乗りになって小野寺由紀の首に手をかけた馬場美也子、しかし馬場美也子の手を、更に重ねるようにしてもう一組の手が覆う。

「えっ」

「よかったぁ……」

 狼狽する馬場美也子を腹に乗せたまま、ゆっくりとホラー映画のように小野寺由紀が上体を起き上がらせる。

そしてにたぁ、と寒気が走るような笑顔を顔に浮かべたまま、小野寺由紀が馬場美也子に対して一方的に言葉を吐き出し始めた。

「あのね美也子、私疲れちゃった。みんなと違うのも期待するのも取り繕うのも受け流すのも皆に合わせるのも全部全部疲れちゃった。ね、でも仕方ないでしょ。私十分頑張ったでしょ。だからさ、最後の我が儘くらい叶えてもいいでしょ」

「由紀……?」

「だからね、でもね。美也子にも知ってほしかったの。私が視てたもの視てほしかったの。視てくれたでしょ?視てくれたんだよね?だからここに居るんだもんね。じゃあさ美也子、一緒に居よう?一緒にいこう?ね?ね?ね?」

「ね、ねえ、由紀!」

「大丈夫安心して。怖いし難しいけど、そのためにトモカヅキを呼んだの。引きずりこむの上手だから。怖いのは二人だったら大丈夫だし、難しいのはトモカヅキがどうにかしてくれるから」

 一方的に話し続けながら、小野寺由紀は馬場美也子の手を変色するほど強く握りしめる。

馬場美也子は何かを察したようだが、もう遅い。幸せそうな笑顔のまま、小野寺由紀はトモカヅキを呼ぶ。

呼ばれるや否や、ある程度無力化していたトモカヅキが一気に活性化し、小野寺由紀に抱き着いて海の方に引きずり始めた。

馬場美也子はこの時点で何が起こるか完全に理解したらしく、悲鳴をあげながら逃れようとする。しかし小野寺由紀は幸せそうに微笑んだ状態のまま、馬場美也子を抱き寄せてそのまま硬直してしまった。

私達の目の前で、トモカヅキによって二人が海に沈んでいく。警察は慌てて対処しようとしていたが、間に合わなかったらしい。

端から見れば小野寺由紀が馬場美也子を海に引きずり込んだように見えたのだろう。

そして自ら望んでトモカヅキに引きずり込まれたのなら、もうどうしようもない。

私達はただ茫然と、押さえつけられた状態のまま事の顛末を見届けてしまった。

「いやーなるほど、ほぼ全部小野寺由紀の企み通りだったわけだ。油すましと契約すれば、ほぼ確実に油すましは視えるようになる。でまあ、ここからは才能の域になる訳だけど、彼女はそこまで考えてなかったんだろうね。火事の犯人を捜して近くに散っている妖怪の気配をたどればここにたどり着く。それでちょっとでも海に踏み込めば、彼女と契約していたトモカヅキが引きずりこんでミッションコンプリート」

「………」

「………」

「自分が今まで生きてきた世界を強制的に共有するついでに無理心中が彼女の目的だった、ってとこかな?」

 絶句状態の私たちそっちのけで、Liarは饒舌に語り続けている。

そして彼女はまるで話はこれで終わりだと宣言するように、こう締めくくった。

「まあ双方似た者同士だったしね。妥当な最期でしょ」

 私たちの目の前では、先ほどの喧騒が尾を引くように、ただただ海がさざめいていた。




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