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見えなかった顔

恋愛ってどう描くんですか?

 俺の聴覚が回復するまで暫く待ち時間ができる。

その間、千里はどんぐり飴を口の中で転がしながら時間を潰していた。

それはまあ良いのだが、何故かあぐらをかいていた俺の足の間に当たり前のような顔をして陣取っている。

カラコロ、カラコロと、千里が口に含んだどんぐり飴を転がす音が僅かながら聞こえていた。

先程馬鹿みたいに大きな音が耳元で炸裂していたので、その小さな音が心地よく感じられていた。

「千里」

 一言呟くように名前を呼び、軽く小突くようにして合図を送ると、千里がきょとんとした顔でこちらを見上げる。

元々目が大きく人形のように整った顔をしているので、上目遣いになると目力がすごい。

「悪い、頼む」

 自分でも極限まで色々端折りすぎていると思うような願いを伝えれば、千里は一瞬考え込む仕草を見せた。

しかしその一瞬で何をして欲しいか理解したらしく、すう、と軽く息を吸った。

「ーーーーーーーーーー」

「あぁ~、うん、まあ大丈夫だな。ありがとう」

「ん」

 大丈夫だと伝えた直後に、さっさと口を閉じてしまう。そしてコンコンと軽く咳ごみながら喉の調整を始めていた。

俺もしれっと頼んだし、頼まれた方もしれっと実行していたが、この技は結構喉に負担がかかる。

感謝の意を表すためにも、キャスケット越しではあるがポンポンと頭を撫でる。

その瞬間ビクッと少し体が跳ねて硬直したので、慌てて手をどけようとする。

「あ、ワリ……」

 しかし手をどけようとしたはずなのだが、それは叶わなかった。理由は単純で、どけようとした手が上から押さえつけられていたのだ。

押さえつけている手の主は、他でもない頭を撫でられている千里本人だった。

「お~い?」

 顔を覗き込んで問いただそうとしたが、何故か全力で顔を背けられてしまった。

だがまあ、手を押さえつけてまで撫での続行を求めるということは、多分嫌ではないのだろう。

別に辞めたいわけでもないので、要望通りそのまま撫でを続行した。

「……あの、辛牙少年?」

「おう……って、なんで泣きながらこっち拝んでんだアンタ」

「いや供給がヤバくて……」

「あんた相変わらず偶にわけわからんこと言うなぁ」

 で?、と質問の続きを手短に促すと、よほど気になっていたのだろう。少し食い気味で疑問をぶつけてきた。

「さっきのアレ」

「アレ?」

「管原少女に何か頼んでたやつ、いったい何をしてたんですか?息吸って、なんか口開けてたようにしか見えなかったんですけど」

「あー、アレな。高周波の超音波出してもらった」

「……なんて?」

「超音波出してもらった」

 一応繰り返して言っておくと、返事の一つもない状態のまま硬直してしまった。

本人に確認する意味も込めて「なあ?」と呼びかけてみると、こくりと頷いて肯定された。

「耳の調子確認するのに丁度良いんだよ。……まあ千里にしか発声できないうえに、結構喉に負担かけちまうんだけどな」

 そのまましばらく、千里の頭を撫でながら田中さんの頭の整理がつくまで待つ。

ブツブツと何事か呟いていた田中さんだったが、最終的に「まあ二人とも裏探偵だしな」ということで納得していた。

多分この人の中で、『裏探偵』は結構体のいい免罪符か何かになっているのだろう。

半ば無理矢理納得したことで精神的な余裕ができたのだろう、こちらの観察を再開していた。

そして何か見つけたのだろう、じりじりと距離を詰めてから、俺と絶対に顔を合わせないようにしていた千里の顔を覗き込む。

そしてニヤニヤと、喜びによるニヤケと、からかいによる笑顔がないまぜになったような表情を浮かべた。

「おやおやぁ?千里、随分可愛い顔してますねえ?」

 そう言った瞬間、田中さんの横顔に、全力の右ストレートがめり込んだ。


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