炎と油と説得(不穏)
お久しぶりです、失踪はしてません。
絶句、その空間を表す言葉に、これ以上適切な言葉はなかっただろう。
1人だけ凄く満足そうな奴を除けば。
「うむ」
「うむ、じゃねぇよ何満足そうな顔してんだ」
うんうん、と一人満足気に腕組みしながら頷く同業者。
なーんか既視感が……嗚呼あれか。アクション映画とかで主人公に戦い方とか一子相伝したあと、成長ぶりを見て頷く師範に似てんのか。
「……いやなんでだよ」
色々とツッコミどころが多すぎる。
なんで師範顔……いやまあこれは分かる。まだ分かる。
だがしかし、なぜ満足感を覚えるのが油すましの足首切断なんだ、ニッチすぎるだろう色々と。
「とりあえず動けなくしましたけど……どうします?」
「GJ。やることは一つだ。絶対に裏がいる。吐いてもらうぞ、色々とな」
「辛牙少年、今相当悪い顔してるよ」
「自覚してるから安心しろ」
油すましは登場する昔話などが少ないため、妖怪としての特徴は諸説あるが、多分此奴は赤子並みの知能しか持ち合わせていない。
口頭での脅しは通じないだろう。赤ん坊相手にガンをつけても無駄という事だ。
そんな相手にはどうやって脅しをかけるのか。
方法は単純、本能的にわかる危機を突き付けるのだ。
そして、油すましが本能的に分かる危機とは。
「千里、あれ持ってんな?」
「勿論」
問いかければ即答する。さすが同業者、対妖怪万能ツールは常備していた。
「あれって何ですか?」
「教えたでしょ?どんな妖怪も大抵の場合……」
千里はブレザーのポケットに手を伸ばし、軽く中を探った。
そして中からつまみ出してきたのは、少し錆色の目立つ銀のジッポーだった。
「火が有効って」
キン、という音を立てて蓋を跳ね上げ、ガリガリと火花を散らす。
年代物のジッポーだったが、数回の火花でようやく灯がともる。
そして火を目視した瞬間に、油すましが露骨におびえ始めた。
油すましはその名の通り油の妖怪、彼らの弱点は、火を見るより……というか見なくても明らかだろう。
おびえる油すましに対して、千里は笑顔を張り付けたまま、油すましの眼前でゆらゆらと炎を揺らし始めた。これ見よがしだ。誰がどう見てもこれ見よがしだ。
凄く端的にいうと、露骨に性格が悪いことをしている。
油すましは両手を合わせて懇願の姿勢を取り始めた。それに対して千里は一切反応を見せない。
ただジリジリと、少しずつ間をなくしていく。油すましが取り込んだ油はもれなく良質だ。一度火がついてしまったら最後、全部燃え尽きることだろう。生存(まず妖怪に命の概念が当てはまるのかどうかすら、裏探偵である俺たちですら不明だが)はどう考えても不可能だ。
怯えきって、何故か仏を拝み始めた油すましに、千里の動きが一瞬止まる。
そして千里の顔面は、毒々しいほど華やかな笑顔で彩られた。これは、何か決定的な物的証拠を見つけた時によくする顔だ。
「ねえ」
油すましのノミの中に千里が手を突っ込む。だが、暴れることはないようにしっかりと炎を至近距離で固定していた。さすが性悪、隙がない。
そして彼女はノミの中から一つの物体を引っ張り出す。それは星の形をした携帯のストラップだった。あまりにも油すましには不似合いな物。
千里は、笑って問いかけた。
「これ、だぁれの?」




