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辛党・甘党・ポマード眼鏡

文量少なくとも定期更新を目指します…

「にっしても綺麗に焼けたことで」

 そう呟きつつ舌の上でカラコロと飴玉を転がしていると、【視る】事に集中したい現状、邪魔でしかないものが視界に映る。

脱色されて淡い茶色になったロングヘアが特徴的な今回の関係者、馬場美也子。

多分本人は遠慮がちなつもりで右に左に、ウロウロしまくっている。

「………邪ッ魔」

 流石に本人には言わないが、ごく小さい声で本心を吐露する。

先程まで迷惑を一切考えず絶叫していた彼女を、大人な対応で落ち着かせた私を誰か手放しで褒めて欲しい。

だが飛んできたのは、賞賛でも労りでもなく肘鉄。

私がよく知っている人間の技よりは速度もキレも大きく劣っているそれを、私は振り返りもせずに躱した。

「何か御用ですか?固武さん」

 ちーちゃんでも見習いでもないとなれば、必然的に一択まで選択肢は絞られる。

その名を呼びながら振り返れば、肘鉄を決め損ねた反動で綺麗に姿勢を崩したポマード眼鏡の姿があった。チャンスなのではなかろうか。

「ウワー足が滑ったー」

 偶然を装いつつ、捻りすぎた上半身のバランスを腕を引っ張ることで完全に崩す。

そして上半身と連動して崩れつつあった下半身のバランスは、足払いをかけることで奪い去った。

下へ下へと落ちていくポマード眼鏡の顔。

いやあそんな顔で見られても困りますよ?私はただ単に足を滑らせて、それで反射的にいろいろなものにすがろうとしただけですから。

「千里?」

 あっ、多分今私の後ろに鬼がいる。

「なぁーにしてんだお前はよぉ?この人にそんな事しちゃ駄目だろうが」

 握りこぶしが素敵な凹凸を作ってしまっている男、千里辛牙。だがしかし、私がこれで終わるわけがない。

「ちーちゃん本音は?」

「よくやった、褒めて遣わす!」

「ありがと」

「あなたもあなたでよく本人前にしてそんな茶番できますね?」

 眼鏡を拭きながら立ち上がるポマード眼鏡。あだ名にふさわしい強度を誇る髪は崩れなかったらしい。やだ残念。

「……さて、お遊びはここら辺にしてっと」

再び【視る】ことに集中する。ビル周辺にある程度痕跡はあるものの、全体的に薄い。

火災を起こす、それほど攻撃的なことをしたのであれば、普通は妖怪の種類が絞り込める程度には痕跡が残るはずなのだが。

分かりやすく例えるならば、獣の痕跡に近い。

ただ通るだけと喧嘩したのとでは、足跡であったり毛であったりと、獣の種類を特定する要素が増える。

厳密にいえば違うかもしれないが、イメージ的にはそんな感じだ。

「ちーちゃん、何か【聴こえる】?」

「いや」

 念のためちーちゃんにも確認したが、即答される。

多分こちらと大差ない状態だったのであろう、何の迷いもない即答だった。

「おかしいよね」

「おかしいな」

二人とも同じようなことをぶつぶつ言うこの状況は、はたから見れば異様、下手をすれば狂気すら感じさせるであろう光景だ。

ただそれだけ、緊急事態ということだ。ここまで何の情報も与えられない事件は初めてかもしれない。

となれば、あと頼れるのは自分の知識。

「炎……煙はそこまで残ってないからえんらえんら、ではないしね」

「だけどなあ、炎で有名な妖怪の仕業にしちゃあ……燃え尽きるのにえらく時間がかかったみたいだしな」

「炎関連の妖怪なら、普通一瞬で『ボッ!』だしね」

 燃え尽きるまでは本当に一瞬である。比喩でもなんでもなく。

一瞬で大惨事を起こしてパッパと消える、妖怪は悪いほうに傾くと本当にろくでもない。


さて、今回の事件を引き起こした妖怪の絞り込みに入ろう。

炎そのものではないが、火事に関係する何か。そしてそのままではそこまでの攻撃性を持たない妖怪。

だが、風ではないだろう。同属の妖怪であれば、鎌鼬であるガア・オル・マーの三人が反応しているはずだ。

ちら、とちーちゃんの方を見ると、ちーちゃんもまた同じような目線で私を見ていた。

どうやらこの情報の少なさで、二人揃って同じ手段が頭に浮かんでしまったらしい。

こくりと言外に、お互い頷いて肯定を示すと、二人揃って同じ言葉を口にした。

正しくは、同じ人を指す言葉を。

「見習い/田中さん!」

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