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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて説教

 


 名前を(たず)ねるだけで、どれほどの時間を要したか。しかも偽名ときた。


 もしかして俺はコミュ障という存在をどこか甘く見ていたのかもしれない。



「それで、クリムさん。もう少しだけ聞きたい事があるんですけど……」


「は、はい。私なんかでよければ、その……」



 クリムさん(仮名)が再びごにょもにょとしてきた辺りで俺は心中で溜め息を吐き、会話の主導権を完全に握る事にした。もう、さっさと終わらせてしまおうと――



「あぁ、立ち話もなんですし、どうぞ楽にしてください」



 そういえば、この子ずっと立ったままだったなと声をかける。俺は適当なところで座らせてもらってるけど。



「え? あ、いえ……このままで、はい、大丈夫、です……」


「まぁまぁ、長旅でお疲れでしょう。申し訳ありませんが適当な所でお座り下さい」


「えっと、それでは……?」


「……え?」



 きょろきょろと辺りを見回すクリムさんに、俺は何をしているのか全く解らない。何か落としたの?



「も、申し訳ありません……何か座る物を、その……御貸しくださると――」


「ウチにはそんなもんないわよ」



 言葉以上に申し訳なさ全開のクリムさんに痺れを切らしたママ鳥が、吐き捨てるようにその言葉を遮った。



「え? あ、も、申し訳ありません……」


「ふん、だから私は嫌だったのよね。それなのに――」


「マザー。とりあえず落ち着いて、ね? 話してくれないのに話を(こじ)らせないでよ」


 俺も地べたに座るのが当たり前になっていて失念していた。そういう文化圏の人にこちらの都合を押し付けるというのも間違っているとは思うしな。



「だって――」


「あのさ、マザー? 嫌みな(しゅうとめ)じゃあるまいし、正直言わせてもらうと、こんなマザーを見たくなかったな……」


「ソ、ラ……?」



 思わず口をついて出てしまったが、偽りなき本音の言葉にママ鳥は目を点にして固まった。



「そ、そんな事言わないで頂戴、ソラ。私だって仕事でどうしても"コレ"を預からないといけなくなって――」



「なぁ、"フェニスさん"。俺、そういうの嫌いだって言ってるんだよ。反吐が出そうになるくらいに嫌いだ」


「え……」



 自分でも酷く冷え切った言葉だと思った。同時に硬直したママ鳥が凍り付いた。



「ソ、ソラ様。私は別に――」


「悪いけど待っててくれ。繰り返しになるが、説明する気がないなら少し黙っててくれ……本当、申し訳ないんだけどさ」



 何か言いたいのか、しかし今はクリムさんの話より先に済まさなければならない要件が出来てしまった。


 親に向けるような目ではないだろう、そんな目になってるだろう。それを悪いとは思うが、どうしても言いたい事が出来てしまったのだ。



「ソラ、そんな他人みたいな呼び方……」



 ママ鳥の大きな身体は小さく震え、俺を見下ろす目は揺れて、酷く弱々しく見えた。家族にそんな姿をさせた事に、ちくりと俺の胸が痛みに悲鳴を上げる。


 だが、そんな風に傷付く情があるならばどうして――



「あのな……」



 怒りの熱をこのまま思いのままに吐き出せば、ママ鳥を傷付けるだろう。果たしてそれでいいのか?


 そんな疑問が浮かんで来てくれた。本当に良かった。不思議とそう思えた。



「ごめん、マザー……少し、いや結構言い過ぎた。ごめんな……」



 真摯な謝罪を言葉に込める。その上で俺は、でも聞いて欲しい……と言葉を紡ぐ。



「どうしてマザーがクリムさんを悪く言うのか、そんなにぞんざいに扱うのか。俺には解らないけどさ? 仕事だから仕方なくとか、物のようにコレ呼ばわりとか、そんなマザーは……なんかさ、ちっぽけになっちゃったみたいで俺、嫌なんだよ。大好きな家族を嫌いにさせないでよ」



「…………」



 ひとつ、ひとつと大切な思いを込める俺の言葉をママ鳥は無言で聞いていた。同じようにひとつひとつを大切に聞いていて欲しい……そう、思う。




「親としてはまだまだのようじゃな。フェニス」


「師匠。メアリーは?」


「まだ目は覚まさんが、ジョニーが側で寝ておる。本当は儂もついていたいのだが……」


 こちらのやり取りが聞こえてしまったらしい。未だに気落ちしているマザーをじろりとジョルト師匠が睨む。いやはやお恥ずかしい、聞かれてしまったか。



「ソラの言うことはもっとも、頭を冷やすのだな」


「そう、ね……」


「そこの、クリム……と申したか。御主も何か訳あって来たようだが、急ぎの要件か?」


「い、いえ、そんなことは――」


「ならば、すまぬが見ての通り、少々立て込んでおる。日が明けてからでかまわぬな?」


「は、はい」


「うむ、助かる。どうやら野宿も初めてのようじゃし……」




 言葉を挟む余地もないほどテキパキと解散ムードを作り上げたジョルト師匠に、俺は唖然としていた。亀の甲より年の功と言ったところか――



「ソラよ」


「あ、はい」


「ベッドを作るぞ。儂もいい加減に枯れ枝の上はしんどい」


「え、もう暗いですし――」


「…………」



 あ、はい。やります。


 

2023/3/2修正


ここまでお読み頂きありがとうございます。

総合評価が回復しました。皆々様に感謝!!

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