パタつかせてペン ミーツ ガール
ジョルト師匠とメアリー編は後日談に載せます。
「あぁ、人が寝てるってのに騒がしい!! 阿呆マザー、寒い!!」
安らかな眠りを妨げられ、俺は起床の一番から不機嫌メーターを振り切らせていた。貴重な明晰夢だった気がするが、今では霞のように消えゆくばかり。
「いくら人がペンギンだからって――」
と、ようやく視線を巡らせる途中、ジョルト師匠が何やらメアリーを抱いているのが見えた。
「って、ジョルト師匠? メアリー、どうかしたの?」
その声を皮きりに寒さに震えるジョニーも、なぜか不機嫌なママ鳥もふたりの事に気がついたようだ。
俺が寝てる間に何かあったのか。深刻な雰囲気がジョルト師匠から漂ってるあたり、冗談とかそういったものではないのだろうけど……
えっと、誰か起き抜けのペンギンに説明してくれる方いませんか?
◇ ◇
結局、メアリーに関してはジョルト師匠から、大丈夫だ。という、ある意味強引な言葉で黙らされた。まったく、少し前までメアリーを殺す的な発言をしていた爺さんとは思えない。
まぁ、それでも一応家族としてきっちり話はさせてもらうとして、だ。
メアリーの事が大丈夫であるなら、ただ視線だけが"もうひとつの問題"に向けられた。
ママ鳥の背中から見える"白く輝く羽根"。沈む茜の陽にさえ染められる事の出来ない白さ、白銀色を持った翼がそこにあった。
「マ、マザー。それ、なに……?」
「ちょっと、ね。ほら、降りなさいよ」
心底、間の抜けた声だと思った。だがしかし、訊かずにはいられない問いかけにママ鳥は不機嫌そうな顔をして、その大きな身体を少し乱暴に揺する。
すると白銀の翼はママ鳥の背中から転がるように動いて……あぁ、なんだ。仕事のストレスで白髪ならぬ白羽根になった訳ではないんだな。
「ふぁぁ!? そ、そんな急に……」
ママ鳥の背から、どすんと音を立て落ちる白銀の翼が悲鳴を上げた……というか。
「うぅ、痛い、です……」
大きな翼の生えた女の子だった。
女の子。そう、人である。大きな翼はあるけれど。
ママ鳥から転落した際に頭から落ちたのか、夕日のせいかは分からないが赤くなった鼻を指先で抑えてなにやら唸っている。
「マザー、流石に説明をしてくれ」
「…………ご飯にしましょう」
夜の帳が降り始めるなか、俺は改めてママ鳥の足に隠れながら彼女を観察した。
なぜか堂々と彼女の前に立つ事が、何というか言葉に出来ない気持ちのせいでできないのだ。こんなに人見知りだっただろうか、コミュ障じゃあるまいし。
しかし、俺の問いに対してママ鳥は沈黙を貫いていた。口に出すのも嫌だと言わんばかりに夕食である牛的な何かを食べている。
ジョニーとジョルト師匠はメアリーが心配なのだろう、未だに眠るメアリーの近くでそれぞれ食事を続けている。ふたりに任せておけば大丈夫だろう。
「あ、あの……その……」
そういうわけもあって、俺が彼女を監視もとい観察しているのだ。どういう事か、この子は先程から視線をさまよわせながら言葉にならない言葉を呟いている。
歳は俺の前世でいう所の中高生くらいか。ガリガリに痩せこけているとまではいかないが近いくらい痩せている肢体に、よく言えば簡素な、悪く言えば見窄らしいワンピースタイプの服を着ている。
暗くなりつつあるから肌の色は判断し辛いが、様相と相まって病的な白さを思わせる。
あまり手入れ出来ていないのかボサボサとした髪は黒く、真っ黒だ、カラスくらい黒い。顔もその髪のせいでよく見えない。ホラーに出てきそうで正直、怖い。
そして、特筆すべきはその大きな翼だろう。肩甲骨辺りから伸びる白い輝きを持つ一対の翼。今は畳んでいるのか、それでも身体より大きいと不便じゃないのだろうか。飛べるのかな、でもママ鳥の背中に乗って来たし――
「あの、そ、そんなに見られると……」
「おっと、失礼。言葉は……通じるんだな?」
「は、はい……その……」
流石に注視し過ぎたらしい。もじもじと身悶えをして消え入りそうな声を漏らす少女に、俺はひとつの確信にも似た予感を抱く。
こいつもコミュ障か、まさか厨二病も患ってないだろうな。
あのそのと遠慮がちに言葉を濁す少女に、ママ鳥ではないが俺も正直に言うとイライラしてきた。いかんな、最近短気になってきたような気がする。カルシウムはどうやって摂取しようか、ミルキーワームじゃ駄目なのか。後はやっぱり――
「あの、わ、わたし……」
「小魚、かねぇ……」
「わたし、小魚ですか!?」
「え? なにが?」
いや、翼生えてるだけでどう見ても人間ですが? てかちゃんと声、出るんじゃないか。
「い、いえ……その、わたし――」
ごにょごにょもにょもにょ。
ベキン!! と鈍い音が頭上から響いて見上げれば、ママ鳥が牛的な何かの骨を噛み砕いていた。うん、カルシウム摂取してるね。落ち着いてよ、ママ鳥。また寒くなってきたよ。
「マザー。本当、説明して」
「……召使いよ」
ようやく出て来た言葉はあまりにも少なく、それだけで理解を出来るかと言えばノーなわけだ。今更召使いなんていらんだろうに。
「……と、母は申してますが」
「えっと、その……」
ごにょもにょ。
うん。分からん。困った。
あとママ鳥、母って言った途端に寒気が和らぐとかチョロインかよ。攻略ルートなんて存在しないがな。
「あぁ、もう。仕方ないな」
こうなれば俺が何とかしないとな、メアリー以上のコミュ障とかそれだけで辛いけど……そういえば初対面でメアリーは俺にそんなにコミュ障じゃなかった気がするな。なんでだろうか。まぁ、今度聞くか。
「君、えっと君の名前はなんていうのかな?」
先ずは相手の警戒心を解くべく、柔らかい物腰で接するべし、だ。
おい、マザー。小声でファッ○よ。とか言うな。どれだけ嫌いなんだ。もしかして本当にそれが名前なのか?
「えっと……その……」
この際、決してしてはならないのが威圧感を出さないこと、そして距離感だ。人が他者を不快に感じる距離感、パーソナルエリアがコミュ障のそれは常人よりも遥かに広い。下手をすると人慣れしていない野良猫かよと言わんばかりである。
こちらも聞き手に徹するに辺り、急かさず、かと言っていきなり親身になりすぎるのも更に警戒心を抱かせる場合があるのでNGだ。餌で釣るにしても判断材料が少な過ぎる。
だからと言って、攻め手がないとは誰も言っていない。
「あ、えっと……ごめんなさい。こっちが先に名乗るべきでしたね。ソラって、言います」
戸惑いがちに言葉を選び、恐る恐る声をかける。
大抵の生き物は仲間を見付けたがるのだ。つまり、群れを作りたがる。リア充はリア充を、コミュ障はコミュ障同士、他者を求める本能が必ずしも存在する。
そこで俺も同族であると匂わせるのだ。
「ソラ様、ですか……あの、素敵な御名前だと思います」
「……ありがとう、ございます」
いきなり様を付けられたら事に思わず遠慮が口から出そうになるが、どうにか抑える。そして、思考する。皮肉というか幸いにも相手は考える時間だけは好きに与えてくれるのだ。
違和感なく様を付けてくる辺り、ママ鳥がいう召使い辺りがかなり濃厚だが、肯定する素振りがなかったから違うのだろう。だとすると彼女はいったい何者なのか。
あのママ鳥が嫌々ではあるが連れてきた存在がその辺にいる存在ではないという事は、ジョルト師匠が示している。まぁ、師匠は連れてきたのではなく発掘されたんだけどな。
「私は、えっと――」
名前と告げるという、息をする並に簡単な事を躊躇うのは……ジョルト師匠同様に偽名を使う為か、だとしても果たして彼女は何を隠そうとしているのか。
「クライム……と、言います」
その名前を告げた瞬間。俺は初めて彼女の顔を見た。黒き髪から覗く可愛らしい顔とは裏腹にどこか鋭さを持った蒼い瞳、そこには今までの怯えや緊張は一切なく、何らかの意志が宿っているように、俺には思えた。
「クライム、さん……ですね?」
不意に強く感じる存在感から俺は思わず息を呑む。明らかに雰囲気が先ほどとは違い過ぎ――
「あの、やはりクリムがいいでしょうか? その方が女の子らし……あっ」
……あっ、じゃねぇよ。
偽名確定。もうこっちは別に本名じゃなくていいんだよ。お前はあれか、合コンで気の合わない相手に平気で偽物の連絡先を渡しちゃう奴か。不思議な事に、後日連絡してみたら、おかけになった番号は現在使われてませんとしか言われなかったよ。それくらいなら初めから渡すなと痛い痛い心が痛い。
「ハイ。ワカリマシタ。クリムサン、デスネ」
「あ、え、は、はい……それで、お願いします……」
防衛本能が咄嗟に取った行動。それは機械的で事務的に事を進める事だった。
しかし、罪とか。この世界の言語とかどうなってんのかね。まさかコイツ、厨二病も併発してねぇだろうな。
※2023/3/2修正
クリム外見変更
ここまでお読み頂きありがとうございます。心抉れる描写がありましたが皆様は大丈夫でしたでしょうか。
更新速度上げないとと更新してブクマ減ると凹みますよね。あるある。でもまだめげない。




