閑話 寒いのが苦手
「うおー、さみぃー」
白衣の下には何枚も着込んでいるはずなのだが、役所の廊下は果てしなく寒い。
現世に倣って『ウォームビズ』をやるのだと、ジパング国家元首の徳川某がのたまったのだ。
現世では二酸化炭素による地球温暖化が深刻で、二酸化炭素の排出量を抑えるという理由の元、ウォームビズを行っているんじゃなかったか?
しかし、ここは違う。現世と対になってはいても、構成される物質、元素は、現世と大きく異なる。
そう、ウォームビズを行うことによるメリットなど、どこにもありはしないのだ。
「おはようございます」
魂保管庫に顔を出せば、三々五々、部下たちが声だけで挨拶をしてくる。
魂にちょうど良い状態を保つ保管庫は、少し肌寒さが残るものの、廊下に比べたらずっとマシ。
それでも、やっぱり温もりを求める俺は、さっさと作業を済ませて、部屋へと戻った。
部屋の、ベッド代わりのソファーの上。
白衣の下を身軽にしてくつろぐ。
もちろん、部屋の中はかなり暖かい。
「辻村ー」
扉をノックもせずに入ってきた鈴置は一瞬、顔をしかめた。
「いくらなんでも、暑くないのか?」
片手でメガネの位置を直しながら、ソファーの前へとやってきた。
「白衣の下、なんで半袖? 長袖を着ろ。もっと着込むとか、防寒対策をしろよな」
鈴置がチクチクと文句を言ってくるので、言い返してみた。
「いや、これくらいの方が身軽だから」
「身軽って……。部屋から出るのにいちいち着替えないといけないのは、身軽とは言えないだろう……。それに、辻村の部屋だけ 暖めすぎで金の無駄遣いって言われるんだぞ」
わざとらしく大きなため息をついた鈴村は、たぶん最後が一番言いたかったことなんだろう。
だが、俺にとって寒さは死活問題。
いつものように鈴置を適当にあしらえば、鈴置もまた、いつものように諦めたらしく部屋を出て行った。
早く暖かくなればいいのに。
常春の国へ行きたいと、切実に願わずにはいられない、冬のある寒い日。




