罪の告白
「アイアコス殿」
呼び声に振り向いたアイアコスの目に入ったのは、悲痛な表情を浮かべるディオメデス。普通では無い彼の様子にアイアコスは不安を感じた。
「・・・私は、貴方方に謝罪しなければならないのです」
彼の声は辛いのを堪えた為か僅かに震えている。
「・・・兄なのです」
怪訝な顔をするアイアコスにディオメデスは迷いながら言う。言葉を選び、己の罪を吐露する。
「ニュクス様と駆け落ちしたのは、私の兄です」
アイアコスは目を見開く。初めて知る真実だ。驚く彼を尻目にディオメデスは続ける。
「始末はつけましたが、それはクレウテでの事です。エリシオン側への謝罪も贖罪も無いままに過ごしておりました。アトラス殿には着いたその日にお話ししました」
アイアコスは完全に理解した。生贄の様に差し出された彼はまさにクレウテの人身御供。実力を持った彼が身内の不祥事の為に。
「申し訳ありません」
謝罪と共に頭を下げるディオメデスを見下ろすアイアコスの目は険しい。
「・・・ディオメデス殿。貴方が謝る事では無いでしょう。謝るにしても、謝るべき相手は自分では無い筈です」
「分かっています。伝えようともしました。ですが・・・美しいあの方を追い詰める事が出来なかったのです」
ディオメデスの眼には確かに気遣う色を持っていて・・・心優しい男なのだ。黙っている事さえ出来たというのに、彼は伝えた。
アイアコスは彼をあくまで同盟軍の将として扱う事を決めた。ディオメデスは強く、優しい。そのような彼を責める事はアイアコスには出来なかったのだ。恐らく、アトラスも同じだったろう。
アイアコスは笑みを浮かべようとした。しかし、ディオメデスの後ろの光景を見た瞬間に彼の表情は凍りつく。
アイアコスの変化にディオメデスは視線を辿る。
「・・・エリテュイア様」
真っ青になった顔色。震える身体。
ディオメデスは後悔した。話し込んでいたから、気配に鈍感になっていたのだ。
エリテュイアの身体が大きく揺れる。彼女の意識は既に暗闇の中。二人は慌てて彼女を部屋まで運んだ。
見慣れた光景が広がっている。エリテュイアは自分が倒れた事を悟った。最近の自身の情けなさに笑いさえ込み上げてくる。弱り切った自身を理解してしまう。
入口の傍に居る二人に気付く。エリテュイアは情けない顔をする弟に微笑んだ。そして、ディオメデスにも。
「ディオメデス殿、どうか謝らないで下さい。貴方に非があるのならば、私にもあるのです」
彼女は立ち上がるとゆっくりと部屋の片隅に向かう。片隅に置かれた小さな箱を手に二人の傍にやって来る。女性の部屋に置かれる物にしては質素だとディオメデスは思った。
小箱の中には青玉が嵌め込まれ、華美な花の細工が施されたフィブラが鎮座している。
「父が・・・母に贈った物だそうです。婚礼の証として・・・母はこれを捨てて出て行ったのです」
悲しげにフィブラを見つめながら言う。彼女には、捨てた物がそれだけでは無いのだと思われた。
寂しさの漂う室内に美しい青だけが光っていた。




