第6話 死んだ人との約束
二人とは少し距離があって、二人は僕が見ていることに気がついていなかった。僕は木の影にさっと隠れた。どうしてオニールさんはここにいるんだろう、二人は何の話をしているんだろう、と思っていたら、二人の声が聞こえてきた。二人は結構遠いところにいるのに、不思議だなと思ったけど、僕は耳をすました。
オニールさんは片方の膝を地面につき、頭を下げたままで言った。
「王よ、来てくださって、小さき者たちの言葉に耳を傾けてくださってありがとうございます」
「俺は王とかじゃねえの。それと、あれだけうるさく耳元で言われ続けたら、無視もできねえっつうの」
「しかし、あなたは小さき者たちを滅することもできたはずだ」
「やらねえよ。ただ羽虫が周りを飛んでるってだけで、いちいち反応するか?まあ、そいつらが俺とか周りの奴らに迷惑かけてきたら話は別だけどな。で、話ってのは?神隠しにあった健吾ってやつのことか?」
「勿論です。小さき者たちの話では、あなたなら彼を見つけて連れ戻すことができると」
「異世界に行ったって話だったよな。まあ、状況的にそれで正解だと思うけど、異世界ったって無数にある。俺でもいちいち探してはいられないぜ。時間がかかりすぎて、時間切れになるかもしれない」
「……まずは感謝を。あなたは健吾を探す方法の検討をしてくださった」
「だから、考えただけだって。見つけたり連れ戻したりしたわけじゃないんだから、感謝すんなよ」
「いえ。見ず知らずの子どものために、あなたが考えることすら必要はなかった」
「まあな。でも、お前、死んだ奴と約束したんだろ。健吾ってやつのことを守るって。死んだ奴との約束は大切だからな」
そこで、オニールさんは喉を詰まらせたようだった。泣きそうになっている感じ。……でも何でこんなにはっきり聞こえるんだろう?結構距離があるのに。
「……再び感謝を。王に、人間のそのような感情を気遣っていただけるとは思いませんでした」
「だから、そういう大仰なのはやめろ。とにかく、さっきも言ったように、異世界は数え切れないほどある。全部探してられるかっての」
「しかし、手がかりがあったとしたらいかがですか。健吾も小さき者たちに愛されている者です。私ほどではないが、常に小さき者たちが周りについており、このたびも一緒に異世界に渡っております。あちらにいった者とこちらにいる者との間で情報のやりとりがされていて」
「へえ?そいつらは何て?」
「それは、その」
オニールさんは言葉を切る。巧は小さくため息をついて、
「あー、そいつらが俺なら助けられるって言ってるのは、実際に俺が助けた結果を見てるからか?」
「……すみません、黙っていて」
「どうせそいつらが黙ってろって言ったんだろ。言ったことで良い未来が来なくなるかもしれないからって。でも、そう言われても、難しいことには変わらないぞ。健吾にくっついていってるそいつらの存在を頼りに、俺一人が健吾のところ行くことはできるとしても、こっちに戻ってくるのが問題だな。健吾を連れて帰ってくるのに、こっちにいる妖精との繋がりを手がかりにしても、世界の狭間を迷う可能性が高い。帰りは二人での移動だからな、力は余計必要だ」
「それではどうすれば」
「まずは、帰り道がわかるように印をつけるか、道がわからなくてもこっちにいる誰かが引っ張って戻すか、あるいは座標になってもらって俺がそれめがけて戻ってくるか。印をつけるのは面倒くさいから、現実的にできるとしたらこっちから引っ張ってもらうか、誰かに座標になってもらうか、だ。それで確実に戻れるようになる、っていう感じだな」
「妖精たちはあちらとこちらを行き来しています」
「そりゃ、元は同一存在だからな、そいつらは。だから、そいつら同士が行き来するくらいならその引き合いの力でやれるけど、人間を引き戻すには全然足りない」
「それではどうすれば。よその世界に行った人間は、二度と戻ってこられないのですか」
「だから、誰か一人が世界の隔たりを越えて健吾を迎えに行って、もう一人がこちらから引っ張ればいい。勿論、誰でもその役ができるわけじゃない。素質と訓練が必要だ」
「あなたが健吾のところにまで迎えに行き、私がこちらから引っ張る、あるいは座標の役をするというのは」
「残念だけど、お前にその素養はない。世界を越えることもできない」
「健吾にはその能力があったということですか」
「それは違うと思う。今回の件には、他の力が関わっている感じだから」
「それでは誰に頼めば。小さき者たちは、あなたが行かないと健吾は死んでしまうと言っています。あなたが行くことで健吾はひとまず命が助かる、と」
「そいつらは、俺が行って健吾を連れて戻るところまでは話していないんだ?て言うか、お前ら、何で俺の前では黙ってるんだよ。こいつの前で喋るみたいに喋れよ。でないと、伝言ゲームになって面倒くさいだろうが」
お前ら、というのが僕にはよくわからない。オニールさん以外にも誰かいるんだろうか?
でも、オニールさんは全く気にしていない様子で、
「小さき者たちはあなたの前で萎縮しているのです。どうかお許しを。代わりに私が伝えますので」
「あー、もう、しょうがねえな。とにかく、そいつらは俺が健吾のところまでたどり着く未来は見てるんだな?その後、どうなったって?」
「……あなた一人だけこちらに戻ったと言っています。健吾は戻せなかったと。ただ、あなたは楽々と戻ってこられたそうです」
「やっぱり、こっちに戻る力が足りなかったんだろ。でも、俺だけでも楽に戻ってこられたってのは何でだ。どうやって道がわかった」
巧が呟いたとき、僕の周りにたくさんの光の玉が現れた。暗闇にほたるみたいに浮いている。
巧が叫ぶ。
「誰だ!」
こちらに駆けてくる足音がした。木の影に隠れていた僕の目の前に巧が飛び込むようにして現れた。




