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第4話 神隠し

 断っておくけど、その神隠しに巧が関わっていたわけじゃない。そのニュースを見たときには、僕は巧が触らずサマと呼ばれていたことをまだ忘れていた。

 行方不明になったのは、特撮のドラマに子役として出てとても人気が出た、氷上健吾さん。お父さんも役者で、氷上甚っていう、昔特撮ドラマのヒーローをやって人気が出た人らしい。

 そういう芸能人の親子がいるっていうのは、神隠しのニュースを見るまで僕は知らなかった。僕は前の家にいたとき、特撮とか見せてもらえなかったから。テレビにその特撮ドラマの一場面が流れてたけど、氷上健吾さんはとっても格好よかった。背がすらりとしていて、とっても性格がよさそうに笑っていた。なんだか、「王子様」っていう感じの人だった。

 神隠し、というのは本当にそのままの意味で、最上さんの家に遊びに来ていた氷上健吾さんが、最上さんの家から裏手の砂浜に降りていく途中で突然いなくなってしまったんだ。氷上健吾さんはお父さんや最上のおばさんと話をしてすぐ後、一人で砂浜に行く途中だった。氷上さんのお父さんが振り返ったときには姿が見えなくなっていて、砂浜に降りたんだろうと思って行ってみたらいなくて、先に砂浜に降りていた人にもきいてみたけど誰も氷上さんが砂浜に来ているのを見なくて、そのまま氷上さんは戻ってこなかった。

 僕はその神隠しのことを、テレビで知った。一年前に僕たちも行ったことのある場所だったので、どんな場所かよくわかっていて、何であんなところで行方不明になったんだろうと不思議に思った。だから、神隠し、という言い方もすごくしっくりきた。

 その神隠しのことでテレビ局がたくさん最上さんの家に取材に来ていて、それがおさまるまでは遊びに行けないわ、とテレビを見ながらお母さんは言っていた。僕はそれも仕方ないなと、お母さんと一緒にテレビを見ながら思った。取材は本当にすごく多そうだった。ヘリコプターまで飛んでいて、空から最上さんの家とその裏手の海を映していたし、最上のおじさんもおばさんも何度も取材を受けていた。中には、最上のおじさんたちが買い物に出かけようとしているところを無理矢理呼び止めて取材をしたりということがあった。

 そんなことがあった後だけど、夏休みに入ってから遊びに行くことになった。本当はお母さんは迷っていたんだけど、最上のおじさんの方から電話があって、おばさんが落ち込んでるから是非顔を見に来てやってほしい、と言われたんだって。テレビ局もいなくなったからって。

 それで、神隠しがあってから十日ほど経って、夏休みに入ってから四日くらいして、お母さんは僕と巧を連れて最上さんの家を訪ねていった。本当は海水浴をしたかったんだけど、ちょうど氷上さんが神隠しに遭ったのが、浜辺に降りていこうとしていく途中のことだったので、最上のおばさんが絶対に駄目だと言ったため、海水浴はしないことになった。

 その代わり、夏休みの宿題の自由課題として出すつもりで、僕たちは最上のおじさんの家をスケッチすることにした。最上さんの家は元はお寺だった建物で、とっても風格があるんだ。瓦の感じとか軒先の感じとか、見ているだけでとっても素敵で。問題は、それを絵に描けるかということなんだけど、それは頑張るしかない。

 巧も僕と同じで、夏休みの宿題の自由課題に絵を描いて出すことにした。玄関先に座って僕は軒先を見上げながら絵を描き、巧は僕の傍に座って玄関先に植わっている花を描く。

 そんな僕たちの上に、ぬっと影が差した。僕たちは同時に影の主を見上げた。

 そこには、白い肌に薄茶色の髪、青い瞳をしたものすごく大きな男の人が立っていた。絶対に日本人じゃない。

 その人は、僕たちのうち巧の方をまっすぐに見た。そして、話しかけてきた。

「君が、助け手か」

 巧はただ男の人を見るだけで、何も言わない。

 男の人は巧に話しかけ続けた。

「頼む、力を貸してくれ。私のいとこの子が行方不明になった。小さき者たちによると、異なる世界に行ってしまったという。取り戻すのは私たちだけでは無理だが、君の力を借りれば為すことができると小さき者たちは言う。どうか、頼む」

 そこまで言うなり、その人は片膝をつき、深く頭を下げた。僕はびっくりしてその人を見た。こんなに大きな人が、僕たちよりも小さくなりそうな勢いで縮こまって頭を下げている。

 僕は巧を見た。巧は無表情でその人を見ていた。

 しばらく誰も何も言わないままだった。

 と、玄関からお母さんが出てきて、声を上げた。

「何なんですか、あなたは!」

 言うなり、その人を後ろに突き倒そうとした。その人は岩のように動かない。お母さんは僕と巧の腕を掴み、無理矢理立ち上がらせると、ものすごい勢いで僕たちを引き寄せた。

 僕はお母さんの剣幕に驚いた。こんな風にお母さんが声を上げることがあるなんて思わなかった。お母さんは僕のお母さんなんだ。ちょっと嬉しかった。

 でも、この人はそんなに怖い人とか悪い人じゃないと思う。そのことを言った方がいいのかな、と思ったけど、お母さんはそれどころじゃない感じて男の人を睨みつけていた。

 巧はというと、お母さんの後ろにいた僕の後ろにいつの間にか移動してきていて、男の人をじっと見ていた。何も言わない。その目が赤く見えて、僕はちょっとどきっとした。そんな巧を見て、僕は不意に、触らずサマ、という言葉を思い出した。ちょうど去年、最上のおじさんたちが言っていたことだ。

 そのとき、家の中から最上のおじさんが出てきた。

「美織さん、何かありましたか。……おや、あなたは」

 おじさんは男の人を見て言った。

「もしかして、オニールさんですか」

 男の人は立ち上がると、深々と頭を下げた。

 毎日朝6時に投稿します。

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