第8話 ティオお医者さんになる
夜になり、ティオたち一行は、適当な場所を見つけて野宿することになった。
食料は前の村で分けてもらったものがまだ残っているし、途中で見つけた木の実も美味しかった、月の光に柔らかく照らされながら、お腹いっぱいになったティオはグレ子にくっついて、スヤスヤと眠りについている。
そんな中、リケは一人起きていた、少し離れた場所で腰の剣を抜いて構えている。
何処にでもありそうなシンプルなデザインのグラディウス剣、少し重いが大きさは今のリケにぴったりだった、柄の先に付けられた紋章が月明かりに照らされて、青白く輝いて綺麗だけどそれを見るリケの表情はあまり冴えない。
でも、この剣を使いこなせるようになりたい。
試しに、目の前の枝を切り落としてみようと剣を振り降ろしてみる、ところが思っていた目標とは違う場所に剣が当たり、はずみで跳ね返されてしまう、その後も何度もやって見たが、剣に振りまわされているみたいに、体が上手く動かない、そのうち体がクルクルと回り、剣も腕から抜け落ち尻もちを付いてしまった。
「あたた……」
そこに、木の枝をミシッと踏みつける音がして、慌てて振り返るとそこに、月を背に立つ人影。
さっきのリケの様子をずっと見ていたのだろう、しっかりとした足取りで近づいてくる、その影の正体に気付いたリケは見られた恥ずかしさ以上に、でも安心感の方が勝った。
「腰の使い方がなっちゃいない、腕だけで振りまわそうとするから上手くいかないんだよ」
地面に転がった剣を拾い上げると、クルリと回してかっこよく構えて見せた。
「セロ……」
「全身をバランスよく使って、こうやって斬るんだ!」
そう言いながら、目の前の太い枝を斬って見せた、切れ味も鋭く見事に真っ二つ。
「すっごい……」
感心しているリケに、セロが近付いてきた。
「どうした、眠れないのか?」
剣をリケに手渡すセロ、リケは受け取りながら笑顔を向けているセロに。
「お前……剣術も使えるのか?」
「当り前だ、こう見えても武術は一通り仕込まれてきたからな」
するとリケは、土下座せん勢いでセロに迫った。
「頼む、あたしにも剣術を教えてくれ、もっと強くなりたいんだよ‼」
「どうしたんだ、お前は投球コントロールの良さをもっと生かした方がいいんじゃねぇか、あのトマトとコショウ爆弾結構効いたぜ⁉」
「あ、あんなのは子供だましだ、やっぱり剣も使えるようになりたい!」
そう訴えるリケに、セロはしばらく考えて。
「まぁ、いいだろう、剣が使えるようになるのも悪くはないか……」
「ホントに⁉やったぁー、ありがとうセロ‼」
喜びのあまりついセロに飛びついてしまったリケを、少し遠慮しがちに引き離すと。
「まずは、剣術の基礎、体力作りからだ、上手く扱えるようになるには力を付けねぇとな」
「うん、分かったありがとう‼」
それからしばらくは、旅の合間を見つけては、腹筋を鍛えたり腕の力を付けたり柔軟性を付けるためのストレッチだってしっかりやったし、セロを相手に剣術のけいこを付けてもらったりと充実した日々を過ごすリケだった。
この日も、セロを相手に剣をふるうリケ、でもそれを見ているだけのティオは、少々退屈気味。
「あーあ、楽しそうだなー」
とは言っても、自分も剣術を習おうという選択肢は無いらしい。
退屈なので、グレ子とその辺りをぐるりと周ってこようかとティオが言うと。
「あんまり遠くへ行くんじゃないヨ」
ロズに注意されたが、ティオだけだと心配だけどグレ子も一緒なのでたぶん大丈夫だろうとの事だ。
しかしちょっとお散歩、といっても、周りは全部木とか木とか木とか、あまり代わり映えしない景色がずっと続く。
そこに小さい動物の背中が見えた、木の根元の地面をカサカサと掘っているようだ、まん丸くて大きいシッポがプクプクと動いて可愛い、どうやらリスのようなモンスターだ、ティオは思わず近付いてみる。
ティオの気配に気付いたリスのモンスターは、こっちを向いて、牙をむき出して威嚇してきたが、ティオはお構いなしに触ろうと手を伸ばした、が、その手を引っかかれてしまった。
「痛――っ……」
ティオはビックリして手を押さえて睨み付けると、リスモンスターもびっくりして草むらの中へと逃げて行った。
「んーもぉぉ、ひどい目にあったよー」
グレ子が心配そうにのぞき込んできたが、ケガは大した事はない、と気を取り直して先に進もうとするが、草むらがガサゴソと大きく揺れ、さっきの可愛いモンスターよりさらに数倍大きなモンスターが現れた、親かもしれない、しかも凶暴そうで可愛くない。
その頃、剣術のけいこを終え、そろそろ出発しようかと言うセロ。
「あれ、ティオは?」
居なくなっていることに気付いてロズに尋ねると、ロズは小さなため息をついて。
「そコ」
と言って、草むらの方を指さすと、本当にそこからティオとチビグレ子が飛び出してきた、かなり慌てている。
「どうした?」
聞く前に事情はよく分かった。
ティオを追ってモンスターが数体現れたのである。
「ったくお前はー、何連れて来てんだよ‼」
セロに怒られた。
「ふぇ~ん、ごめんなさいぃ~」
――しょうがねぇな、と言いながら銃を取り出すセロの横から「あたしがっ」とリケが先に飛び出していった。
「まだ無茶だ、やめろリケ!」
セロの制止も聞かず、剣を構えてモンスターの群れに向かってゆくリケ。
動きも軽く剣をふるうリケだったが、どの攻撃もモンスターたちにかわされてしまう、しかしリケもひるまず立ち向かっていった。
「ちょこまかと動くな、狙いが定まらねぇ」
銃を持つセロの前をリケが動き回るものだから撃てずにいると、モンスターの前足がリケに襲いかかった、リケは思わず剣で受け止めようとしたが、モンスターの方が力は強くリケの体は剣ごと弾き飛ばされてしまった。
「リケー‼」
「あいたた……」
草むらがクッションになったおかげで何とか無事なようだ、だが弾き飛ばされた剣が向こうに転がっている。
「あ、あたしの剣が‼」
しかし、起き上がろうとするリケにさっきのモンスターが襲いかかって来た。
「うわぁっ!」
逃げられそうにない、思わず両手で顔を庇う事くらいしか出来なかった。
ガブり――。
嫌な音が響いた、でも、目を閉じているリケには何も起こらない、どこも痛くない。
おそるおそる目を開けてみると、そこにはセロの背中があった、セロがリケの前に入ってモンスターから庇ってくれたのだ。
しかも、左腕を噛まれている、大きな牙が腕の中に喰いこんでいるのがわかる。
赤い血が、ポトリと地面に落ちた。
「セロ‼」
セロは左腕を噛ませたまま、右手で銃を構えると、そのボディーに向けてボスン‼と、渾身の力を込めて撃つ、勢いセロの腕から離れて後ろの大きな木にぶつかって倒れた。
「セロっ、伏せろッ‼」
ロズの声にセロは反射的にリケの体を庇うように体をかがめると、巨大化したグレ子の吐き出す炎が、セロの頭上をかすめて残りのモンスターを黒こげにして一網打尽。
「大丈夫か、リケ」
リケを庇っていた体を持ち上げて、リケに笑顔を向けるセロだが、すごく苦しそう。
「あたしの事より、セロ、血が‼」
「あぁ、これくらいの傷、……大した事じゃねーって」
そう言いながらも、立ち上がれそうになく、そのまま草むらにもたれかかるように座り込んでしまった、傷口からは血があふれ出して止まりそうもない。
「うわぁ、セロが大ケガしてるのだ、大丈夫じゃないのだー」
駆け寄って来たティオも、セロのケガの具合がひどいのを見て、魔法の杖を振り上げた。
「ボクが治してあげるのだ~、ベリオガスバル・ヴィスヴィトール‼」
すると、魔法の杖が赤く光り、ティオの体が光の渦の中に包まれた。
その光の中から現れたのは、ナース姿のティオとお医者さんバック。
「何だそレ」
横で見ていたロズがあきれて言うと。
「いや、この間の絆創膏だけよりは、少し進化したんじゃねぇか?」
辛そうに笑うセロだった。
「おかしいなぁ、魔法で治せるはずだったのに、でも仕方がないボクはお医者さんなのだ、ボクがセロのケガを治療するのだ!」
カバンを開け、中から取り出したのは消毒のお薬。
「瓶に、ドクロのマークが描いてあるけど……」
「うん、でもこれが消毒のお薬なのだ」
ふたを開けると、中には緑色のドロリとしたゼリー状の物体、ティオはそれを指ですくい取ると、セロの傷口に遠慮なく塗り込んだ。
「ぐ、つぅぅぅ――――――~!」
強烈にしみる、痛い、超痛い。
「おっ、おまえなぁー、少しは優しく塗ってくれよ」
「えーっ、でもこれくらいしないと、消毒できないんだよー」
ティオは、セロが強烈痛いのを強烈に堪えているのにお構いなしに、謎の物体をどんどん塗り込んでゆく、でも消毒薬だ傷口を消毒しているのが分かる、分かるけど痛い。
やっとの事で消毒が済むと、そこへ絆創膏を貼る、ティオの魔法のおかげか、まるでセロの傷口に合わせたようなぴったりの大きさだった、ちょっとシワになったが気にしない。
あとは、傷口を動かしてはいけないと、添え木まで入っていた、これを絆創膏の上にあてて包帯を巻く、グルグルグルグル、しかしティオが巻くと綺麗にならなくてグシャグシャになる、何度かやり直そうとするが上手くいかない。
見かねたリケが「あたしが巻くよ!」と、ティオから包帯を取り上げ、セロの腕に上手に巻いて行く。
「おお、さすがは戦士、包帯巻くの上手なのだ~」
あまりの綺麗さに感心するティオ、セロも「さすがだなー」と褒めている
だが、包帯を巻くリケの動きが途中で止まってしまった、肩が静かに震えている。
「リケ?」
セロとティオがのぞき込むと、包帯の巻かれたセロの腕に、涙がポタリ。
「――何も、泣くことないだろ」
「だって、だっ……て……」
そんなリケの頭を、セロは右手でポンポンすると。
「気にすんな、これくらいの傷すぐに治る」
「でも、でもっ、あたしのせいでセロがこんなケガして、まだそんなに力も無いのに、あたしったら調子に乗って……」
「でもでもー、モンスターに向かって行ったリケ、すごくカッコよかったよ!」
ティオも、リケを励ますように言う、そんなティオの手にもひっかき傷が。
「その傷……ティオにまでケガさせてたんだ……」
さらに落ち込むリケだった、ティオのキズはリケのせいでは無いのだけど。
リケは、すごく思いつめた様子で。
「もうあたし、一緒にいない方がいいのかも」
「はぁ?」
「だって、あたしのせいで、みんなを危険な目に合わせちゃう、あたしは戦士でも何でもないのにこんな恰好してるだけで……」
「それが悪いなんて誰も言ってないだろ、お前はすごく頑張ってるじゃないか」
「そーだよー、カッコいいハンターと元気な戦士と可愛い魔法使いに犬と猫、安っぽいRPGみたいで楽しいのに、リケがいなくなったらさみしーよ」
それにな、と言いながらセロはリケの肩に手を置くと、いつになく厳しい顔になった。
「そう言うと、同情して引き留めてもらえると思ったのなら、俺は怒るぞ」
「そ、そんな事は思ってない、同情してほしくて言った訳じゃ……」
「なら、これくらいの失敗で出て行くとか言うな、今回の失敗は次の教訓に生かせばいい」
「次の――」
「そうだ、今日は何が駄目だったかを考えると、次はどうすればいいか、自然と分かってくるはずだ」
「ま、死んじゃえば次も何もないけどネ」
横からロズがチャチャを入れてきた。
「だったら、死なない程度にガンバればいいんだね」
のんきに答えるティオ。
「お前らー、人が真剣に話てるのにー‼」
セロが、そんな二人に怒鳴りつけている、何だよこの適当感、でもおかげで、少し救われたような気がする。
「ごめんねセロ、ちょっとへこんじゃった、でも次はきっとあたしがセロを守るから!」
「そーか、その意気だ、けど無茶はするなよ?」
「うんっ!」
素敵な笑顔を向けてくれた、笑った時のセロは、ちょっと少年っぽくなって良いな――。
だからリケも笑顔で答えることができた。
だが、飛ばされた剣を拾い上げてビックリした、ちょうど先端の部分が刃こぼれしていて少しひびが入ってしまった、これでは使えそうにない、そばに大きな岩があったので、おそらくそこにぶつかったのだろう。
「でも、リケがそっちに飛ばされなくてよかったのだ」
ティオがそう言うと、「それはそうなんだろうけど……」とリケ、大事な剣に傷がついてしまったことにショックを受けているようだ。
「ねぇ、セロの錬金術で治せないの?」
ティオに言われて、セロは少し申し訳なさそうに。
「刃こぼれ自体は治ると思うが、こういった繊細なものは苦手なんだよな、それにこの怪我だし」
セロの力では、ヒビや刃こぼれした所は元に戻せるが、それは見た目だけであって、その分切れ味が鈍くなってしまうかもしれないと言うのだ、やっぱ、プロの作ったものには敵わないらしい。
「セロは、大雑把な性格だからネ」
ロズが言うと、セロはボソッと「悪かったな大雑把で」と小声で言った後。
「よし、この先の村で鍛冶屋を探して、直せないか頼んでみようじゃないか」
という事になった。




