第7話 ティオ新たな冒険
残されたティオは、まだしくしくと泣いていた。
「こんな小さな石になっちゃって、これじゃぁ、師匠に怒られるよぉ」
どうしても、生の桃じゃないとダメなのか、そう言えば病気で寝込んでいる師匠が、最後に桃が食べたいと言っていたっけ。
セロとリケは顔を見合わせると、ガックリしているティオに。
「よし、俺たちも一緒に行って、師匠に謝ってあげよう」
「そうだよ、事情を説明すればさ、きっと解ってもらえるよ」
必死でなだめるセロとリケだった。
「ホントに⁉」
ティオの顔が一気にほころんだ。
「あぁ、ここまで一緒に旅をしてきた仲間じゃないか」
そんなセロの言葉にティオはまた大きな目をウルウルさせた。
「セロ~リケ~ありがとうーボク嬉しいよー」
そう言ってから、横を向いて小さい声でボソリと。
「――でも師匠は怒るとものすごく怖いよ、生きて帰れないかも……」
「ゔ……」
二人が固まっていると、突然声がした。
「人聞きの悪い事を言うでない、このバカ弟子が!」
それは懐かしい師匠の声だった、でもどこから、と辺りを見回すがその姿は見えない。
「ここじゃ、お前の手の中じゃ」
ビックリして手を見ると、桃の変わり果てた姿である桃色の小さな丸い石から、なぜか師匠の映像が音声付きで浮かび上がって現れたのだった。
「師匠だー!」
「へぇー、この人がティオの師匠――」
セロとリケものぞき込んできた。
「おぬしがこの映像を見ているという事は、どうやら桃に何か願い事を言ってしまったようじゃな、一体何をやらかしたのじゃ?」
「どうしたんですか師匠、こんなに小さくなっちゃって」
「ワシの質問に答えんか阿呆‼、それにこれはただの映像じゃ!」
「えー、じゃぁどうしてこんな石の映像に出てくるんですかぁ、本物の桃だと本物の師匠が出てくるとかだったんですか⁉、だったら石にしちゃってごめんなさい!」
――そんな訳なかろうがバカ者、これはワシが石に魔法をかけて、離れた場所から通信しているだけじゃ――と、言いそうになって師匠はふと考えた、ティオがそう思い込んでいるのなら、それを利用してやろうか、と。
そこで師匠は、少し具合が悪くなったフリをしてみた。
「ゲホゲホ、実はそうなのじゃ、阿呆な弟子のおかげでワシは、こんな石の中に閉じ込められてしまったのじゃよ」
「ええーっ、それは大変なのだ、元に戻さなきゃなのだよ、どうしたらいいの?」
簡単に信じてしまった、さすがはアホの子、師匠はもったいぶるようにコホンと咳払いを一つして。
「それには方法が一つしかない、ここから遙か南の森にあるという魔法の果実、その名もキューティーライチを見つけ出し、それに願いをかけるとよいのじゃ」
「師匠」
「何じゃ」
「言ってて恥ずかしくないですか?」
「やかましいわい‼」
「何ですかそのキューティーライチって、ライチがキューティーになってどうするんですか、ってまだ修行の旅ですか~?」
とたんに嫌そうな顔になるティオに師匠は。
「そう言う名前なのだから仕方あるまい、って、今ものすごく嫌そうな顔をしたな?」
「うん」
「素直に返事をするな!とにかくワシを元に戻したければ、南の森に向かうのじゃ‼」
「ゔぅ~……」
返事を渋っているティオに、リケが優しく声をかけた。
「心配いらないよティオ、あたしたちも一緒に付いて行ってやるよ」
「え?」
「そ、そうだよな、俺達が付いてるから心配いらないぞ」
ティオはそんな二人に向かって、またまた大きな目をウルウルさせた。
「セロぉ~リケぇ~、ありがとう、ボク本当に嬉しいよ~!」
そう言われて、少し照れたような表情で顔を見合わせるセロとリケだった。
(やったー、これでまた面倒な事は、この二人に任せちゃおう)なんて考えてるとも知らずに。
「それに今回は石になっちゃったけど師匠も一緒だから大丈夫だね」
ティオはそう言うと、師匠は。
「バカを言うな、ワシはこう見えて忙し――いやいや、もうすぐこの石の中に完全に閉じ込められてしまうのじゃ、だからおぬし等で頑張って、ワシを助け出してくれ給えよ」
「えー、そんなのめんどくさ――」
「では健闘を祈るぞ、皆の衆」
そう言うと映像は消えてしまいました。
残された桃色の丸い小さな石、ティオはそれを大事そうにポシェットにしまい込むと。
「まったく、師匠にも世話が焼ける」
いやいや、もとはと言えばティオが原因だろうと、突っ込みたくなるセロとリケだった。
ティオはここで改めて、セロとリケそれとロズに向き直ると。
「こんな師匠に付き合ってくれて、ありがとう、これからもお世話になります」
ぺこり、つられてグレ子も一緒にペコリ。
そんな可愛いティオにセロとリケも改めて、こちらこそよろしくとにっこり。
さぁ、次の目的地は決まった、いざ南の森へ、目指すはキューティーライチ。
旅の支度を整えて、一行は南の森へと向かうべく、旅を続けることに。
南の森へ行くには、更にこの山をいくつか越えなければならないらしい、先は遠い。
ここはそんなとある山の中、時折甲高い鳴き声を上げる鳥の鳴き声が聞こえたり、ざわざわと風が木の葉を揺らす音が聞こえたりする、深い山の奥。
そこをテクテクと歩くティオたち一行。
「疲れたよぉー、少し休もうよぉ~」
さっきからずっと険しい山道を歩き通しだったティオがついに騒ぎ出した。
「うるさいなぁ、さっき休んだだろ‼」
そんなティオに文句を言うリケ。
「まぁまぁ、もう少し行ったら村があるかもしれないから、そこまで頑張ろうな」
そう言ってティオを説得するセロ。
「後どのくらい行ったら村があるのさぁ」
ティオがブツブツ言いながら歩いて行くと、セロの頭の上に乗っかったロズが、向こうを見渡していた。
「さっきまでは険しい山道だったけド、段々広いなだらかな道になってるヨ、ってことは村が近い証拠だもう少し頑張りナ」
しばらく歩くと、ロズの言う通り本当に村に辿り着いた。
小さな村だった、少し休ませてくれる場所は無いかと探していると、向こうで人の声がしたので行ってみる。
「よう、どこに目ぇつけえんだって、聞いてんだよ、あぁ⁉」
近付いてみると、一人の若い女の人が、見るからにガラの悪そうな男二人に絡まれている場面だった。
「す、すいません、急いでいたもので……」
女の人は完全に怯えている、男たちはますます付けあがっているようだった。
「あぁ⁉俺様にぶつかっておいて、ごめんなさいで済むと思ってんのか、こらぁ‼」
か弱い女の人をいじめるとは‼と、セロの美人を見たら放っておけない病に火が付いた。
お前らは下がっていろ、とティオとリケに言った時にはもう、女の人を掴もうとしていたガラの悪い男の手を掴み上げていた。
「何しやがる、誰だ貴様‼」
「通りすがりのハンターだ、男二人美しい女性をいじめるとは、男の風上にも置けない奴らだ」
「なんだと、やんのかゴラァッ‼」
腕を掴まれた男が、反対の手でいきなりグーでパンチしてきたのをセロは余裕のパーで受け止める、こいつら見た目ほど強くない、セロは完全に見切っていた。
こんな奴ら、一瞬で倒せる、そう思った時後ろから、ティオの悲鳴が聞こえた。
「うわぁーん、捕まっちゃったよぉ‼」
もう一人いたガラの悪い男が、ティオを後ろから羽交い絞めにして人質に取っている。
「ティオッ‼」
側にいたリケが助けようと、腰の剣に手を当てた時、ティオを捕まえていた男が。
「おっと、動くんじゃねぇぞ兄ちゃん、少しでも動くとこいつの命はねぇぜ!」
そう言われて、何も抵抗できなくなった、どうしようピンチだ。
ガラの悪い男どもは、不敵な笑い顔を浮かべている、やり方がひどい、このままじゃセロがやられる、リケはそう思ってセロを見たら、セロは少し余裕の表情だ、しかも目線はティオを捕まえている男の、少し上を見ている。
リケは悟った、次の瞬間、後ろ川回り込んでいたロズが、ティオを捕まえている男の背後から襲いかかり、そのすきにグレ子が足に噛み付いた。
「ギャァァッ‼」
二匹に襲われた男は、ビックリしてティオを捕まえていた腕を離す、あとはセロが目の前の男の顔面を殴りつけ、解放されたティオをリケが男から引き離した瞬間にはもうセロの飛び蹴りが炸裂して、二人はあっけなく倒された。
「ち、ちくしょう、覚えてろー‼」
ヘロヘロになりながら、ありきたりの捨て台詞を吐いて、一目散に逃げて行きました。
さすがはセロ、カッコいいなと思ったらもう女の人の手を取って男前炸裂させている。
「大丈夫ですかお嬢さん、お怪我はありませんか?」
「あ、はい――」
『よっ兄ちゃん、強いなーやるじゃねーか!』
気が付くと、周りには村人たちが集まっていて周りを取り囲んでいた、ガラの悪い男を倒したとあって、セロに拍手まで送っている。
「あ、あはは、どーもどーも」
ちょっとびっくりしたけど、周りの人たちにはやされて、ヒーローにでもなったようなセロ、鼻の下を伸ばして、でもまだ女の人の手を握っているよ。
そんな時、向こうから一人の男の人が慌てた様子で人をかき分けて来たのが見えた。
「ララ、無事か?」
「あ。あなたぁ!」
すると、ララと呼ばれた女の人は、セロの手を振りほどいて、男の胸に。
まるで運命の再会を果たしたように、熱い抱擁を交わす二人。
「ララ、大丈夫だったか、ケガは無いかい?」
「ええ、もう大丈夫よあなた、この人達が助けてくれたの」
「そうだったのか、妻を守っていただき、ありがとうございます、えっと、あなた達は……?」
「かわいい魔法使いと半人前の戦士と猫のロズと犬のグレ子と、ショックで固まっているハンターです」
リケが、ため息まじりで紹介、セロは隣で氷漬けにされたかのように固まって動かない、さっきカッコいいと思った事、物凄い勢いで撤回。
その後は、ララさん夫婦の家で一休みさせていただくことになった。
「最近、あの男たちが時々現れては、村人たちを何かと脅して、金目の物や食べ物を奪っていくようになったので、困っていたのです」
ララさんの夫が話してくれた。
「ひどい事する人達だねー」
「でも、あなた達のおかげで少しは懲りて、この村にも来なくなると思いますわ、本当にありがとうございます」
「あ、いえ……、困った時はお互い様ですから、あはは――」
助けた美人が人妻だったことに加えて、家にお邪魔させていただくと沢山の子供までいた事に、かなりショックを受けているセロだったが、いつの間にか子供たちに懐かれよじ登られている。
「あらあら、この子達ったら、すいませんねぇ、遊んでいただいて」
ララさんはセロに笑顔を向けた、その腕にはしっかり幼い赤子を抱いて。
「い、いえ、これくらいの事、あははは」
セロは両腕にぶら下がった子供たちを振りまわして遊んであげている、半ばヤケを起こしたようにも見えるけど。
「本当にお強いんですね、驚きましたわ」
「うん、セロはハンターだから強いんだよ、美人には弱いけど」
ティオが、口を挟む。
「こら、余計な事は言わんでいい!」
「そうでしたか、この村も以前はモンスターを倒そうと強いハンター達がいっぱい居たんですがね、今はもうゴロツキの悪い人たちが来るばかりで……」
治安が悪くなっているのか、モンスターがいた頃はモンスターに悩まされ、モンスターがいなくなると今度は悪事を働く輩が増える。
さっきも、ティオが人質に取られていたとき自分は何もできなかった、剣を抜こうとはしたけれど、もし剣を抜いていたとしても、あたしには、何が出来ただろう。
そう考えると、落ち込んでくるリケだった。
あたしも、強くなりたい――
今日は本当にいい天気。
西の森でのラブ・ピーチ争奪戦に敗れ、願いも叶わぬまま家路につくシャロルと、お供で付いてきただけの執事グランディス、途中で見つけた一軒の茶店に立ち寄り、外に置かれたベンチで茶と団子を食べながら、まったりしていた。
空には小鳥が楽しそうに遊んでいる、ここは高台にあるお店なので向こうにそびえる山々が雄大で綺麗、お茶も団子も美味しい。
西の森で悲惨な目にあわされて、結局何しに来たんだ状態だったプライドの高いお嬢様なシャロル、実はここに来るまでずっとグランディス相手に、散々愚痴って愚痴って愚痴りまくって、愚痴り尽くして今はスッキリしているのだ、横のグランディスはぐったりしているけれど。
これでまたお屋敷に戻って優雅な生活が待っているわ、そんな気分でふと横を見ると、隣のベンチで同じようにお茶を飲んでいる黒コートの男がいたので、思わずお茶を噴き出した。
「あ、赤いバラの君、こここんな処でお会いできるだなんて……」
シャロルは、愛しの君にまたお会いできた事と、でもラブ・ピーチを奪えなくて約束が守れなかった事とで、複雑な気持ちになった。
「あの、本当に何と申していいか、あの者たちが邪魔さえしなければ今頃はわたくしが」
何とか言い訳しようとするシャロルに、赤いバラの君は少し口角をお上げになられて。
「全て解っております、あなたのせいではございません」
と、おっしゃられました、そして更に。
「南の森に、キューティーライチという魔法の果実があるのですが、ご存知ですかな?」
――シャロルハ、行キ先ヲ ミナミノモリ ニ変更シタ。




