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第14話 ティオ、落ち込む

読んでいただきありがとうございます。

いよいよ旅もラストスパート。

今回は少しリケがおセンチになってます

「息子のマシューが大変お世話になり、その上助けて頂いて、何とお礼を言ったらよいか」

 熊――じゃなかった、マシューの父親から丁寧にお礼を言われた後、お礼にリケの剣を治してあげようと言う。


 長い間ほったらかしになっていた炉に再び火が入り、鍛冶屋の主人は剣打ちに精を出す。

 剣を打つなど、どれくらいブリかと張り切る鍛冶屋に息子のマシューもお手伝い。


 その間は、鍛冶屋の家でお世話になることになった。

 槌を振るう音が鍛冶屋の作業場から響いて来る。


 いい音。

 打ってもらっている間、リケはその音を聞きながら外の切り株の上に座っていた。


 向こうではティオがグレ子とじゃれあって遊んでいたが、何かを思いついたらしく、セロを呼んで、魔法の杖を振るい始めた、呪文を唱えると杖が光り、その光でグレ子を包み込む。


 あの時の、グレ子に羽根が生えた魔法をもう一回やろうと言うのか、しかし、羽根は生えず、代わりに一匹のコウモリが現れた。


 あれーおかしいなーというティオの声が聞こえる。

 コウモリはすごくびっくりした様子で、みんなが見守る中、バタバタと何処かへ飛んで行ってしまった。


 あの時出来たのに、どうして今は出来ないんだろうと言うティオに、あの時は必死だったからじゃないのかとセロが言う、人間死にもの狂いになれば、見えない底力が湧いて来るのだと。


「もう一度、あの塔から落ちてみるかい?」

 セロが、いたずらっ子のような少年の笑顔を向けると。

「もう、高い所は、ごめんだよぉ」


 ほっぺをプクーっとふくらませるティオは可愛い。

 それにセロも――あの時、言いかけたあの言葉は嘘じゃない、今はっきり解る。


 そうこうしているうちに、セロが何かに気付いたらしい、鍛冶屋の建物に向かって何か話をした後、こっちに向かって手を振っている、リケは満面の笑顔でセロに向かって走り出した。


 鍛冶屋の主人は、刃こぼれを治すどころか更に立派なグラディウス剣として作り直してくれていた、今まで持っていた剣とは比べものにならないくらい手にしっくり来て、重さもちょうどいい、握りしめた感じも最高、さすがである。


 そして鍛冶屋の主人は、もう一つ造っていた。

「お、俺の⁉」


 それは見事な刀だった、確かに欲しいとは思ったけど今はリケの剣だけで十分だと思っていた、だから、むっちゃ嬉しいサプライズ。


「あなたは、かなりの腕前の持ち主と見ました、だから作らせていただきましたよ」

 と主人、伸びてしまった無精ひげを剃る間も惜しんで、刀を打ってくれたのだろう、熊に一段と磨きがかかっている。


 かっこいい、最高の刀、セロは本当に嬉しそうに刀を眺めている。

「いーなーいーなー、ボクのは?」

「あんたには剣や刀は必要ないだろ!」

「それもそうだけどさぁ」


「ティオ君は、刀を振るうより、その杖を振るう方が似合いますよ」

 鍛冶屋の主人に、そう言われた。


「それもそうだね、ボクには、この杖が一番大切だよ」

 ティオは誇らしげげに魔法の杖を振り上げた、太陽の光を受け金色の羽根がキランと反射する。


 ――そう、杖の大きさは、その人の持つ魔力の大きさを表すと言う、自身の背よりも大きい杖を持つこの子はよっぽどの魔法使いに違いない――

 鍛冶屋の主人はそう思ったのだった。



 鍛冶屋親子と別れ、南の森へと旅は続く。


 まだまだ険しい山道が続くがティオの足取りは軽い、鍛冶屋の主人から、南の森はすぐそこだと聞いていたからである。

 フフフンと、鼻歌まで聞こえる。


「えらくご機嫌だな、ティオ」

 セロが、そんなティオを見て言うと。


「だって、もうすぐ南の森~今度こそ魔法の果実をゲットするんだ!」

「そっか、そうなったらこの旅も終わりだな」

 セロが、当たり前のようにさらりと言ったが、その言葉にリケはドキリとする。


「あ、そっか、そうなったらお別れだね」

 ティオも、あっさりと言う。


 お別れ。

 この旅が終わることも、お別れになることも、リケは深く考えてもいなかった。

 この先。


 その事を考えると、リケは心臓を深くえぐり取られるような、嫌な気持ちになった。


「この後、セロはどうすんのさ?」

 ティオにそう聞かれたセロは。

「うーん、そうだなー、新しい町へ行って、そこでまた串肉屋にでも就職しようかな」


「ふーん、ボクは師匠の元に戻って修行の続きだ、今回の旅で少しは魔法も上達したかもだし」

 魔法の杖を振り上げるティオを、並んで歩いていたグレ子が不安そうに見上げた。


「グレ子はボクと一緒に来るかい、師匠は犬が苦手だと言っていたから丁度いいよ」

 そんなティオにグレ子は、嬉しそうにしっぽを振ってグルルと鳴いた。


 ――何が丁度いいんだろ、ティオの事だから……師匠の修行が厳しくなった時、グレ子が助けに入る、師匠は犬が苦手なので逃げる、おかげで厳しい修行を免れる、ティオはラッキー、なんて考えているのだろう、と、リケは想像した。


 みんなこの先の事、ちゃんと考えているんだ。

「リケはどうすんの、この後も戦士として頑張るの?」

 ティオの純粋無垢な顔がこっちを見ていた。

 セロを見上げると、彼もこっちを見ている。


 戦士として、と言われても、まだまだ戦士としての力もないし戦士だからと言って何をどうしていいか解らないし、この先の事を考えると不安でどうしようもなく押しつぶされそうになる。


「い、言われなくても、これからの事くらいちゃんと考えてるよ、あーあ、これでもうあんた達と別れられるかと思うと、清々するなー!」


 つい、淋しさを誤魔化すために心にもない強気な事を言ってしまった。

 本当に心にも思っていない事、心では逆のことを思っていたのに。


「そう、だったの……?」

 ティオには、まっすぐ言葉通りに受け取られてしまった。


「ボクたちの事、そんな風にしか思ってなかったの……?」

「い、いや、ティオっ、違っ――」


「ボクは、リケの事ずっと大切な仲間だと思っていたし、これからもこの気持ちは変わらないって信じてたのに……」

 少し怒ったような、悲しそうな声でティオは言った。

 大切な仲間。


 ティオはそう思ってくれている、それなのにあたしは――きっかけは戦士でなくても何でもよかったのだ、一人で家を飛び出して、身を隠すためにティオの旅に同行した、ティオを利用していただけなのだ、なのにティオは最初から、大切な仲間だと受け入れてくれていたのだ。


 リケだって今では本当に本気でティオの事もセロの事も、みんなに負けないくらい、かけがえのない大切な仲間だと強く思っている。


 なのに、そんな大切な仲間に、ひどい事を言ってしまったのだ。

「ティオ、違うっ、ゴメン……」


 何とか弁解しようとするリケだったが、上手く言葉が出てこないまま、ティオはぐったり落ち込んで歩いて行く。

 本当にショックだったのだ。


 どうしていいか分からないまま立ち尽くしていると、セロに頭を軽くポンされて。

「今の言葉は、ちょっと失敗だったな」


 セロの横顔も、少し怒っているように見えた、セロはそのままリケを追い越し、トボトボと歩くティオと並んで歩いて行く。


「あーあ、これだからタンジュンな男って、ダメなのよネ」

 ロズが、リケの肩に乗って来た。

「ホントに、センサイな乙女心がわからないんだかラ」

「ロズぅ~」


 普段からツンデレなロズにだけは、リケの気持ちが理解できるらしい。

 女の子はセンサイなのだ、だから単純な男の子をキズつけてしまう、その上男の子をキズ付けた事に自らもキズ付いてしまうのだ。


 今日もとってもいい天気、山には爽やかで心地いい風が吹き抜ける、木々の間から明るい光も差し込んで、小鳥たちが楽しそうにさえずり合っている。


 しかし、ティオもリケも暗く沈んでいる。

 落ち込んだまま、トボトボと歩いていた。


「ほらほら、いつまでもウジウジしてんじゃねーの」

 セロが何とか機嫌を取ろうとしていたが、なかなか立ち直れそうになさそうなティオだった。

 リケだって、ティオに話しかけようとしても軽く無視される、よっぽどショックだったのだろう。

 やがて日が沈みかけて、手頃な場所で野宿となった。


 セロのごはんは今日も美味しかったが、このモヤモヤは晴れない。

 そうこうしているうちに、日も沈み辺りは暗くなる、たき火の日も消え、空には少し凹んだ月が星たちを従えるように浮かんでいる。


 横になりながらも眠れずにいたリケは、横でグレ子にくっついて眠っているティオの背中にそっと話しかけた。

「なぁ、ティオ……」

「うん?」


 返事が聞こえた、ティオも眠れずにいたらしい。

「今日はゴメン、みんなと別れて清々するなんて言って、あれ全部ウソだから、そんな事全然これっぽっちも思ってないから」

「本当に?」


 いつの間にかティオはこっちを向いていた、大きな瞳で見つめられて、ドキッとするリケだったが。

「あ、あぁ、当たり前じゃん、あんた達と一緒に旅をしていっぱい冒険して楽しくて、それであんた達と別れたいなんて思う訳ないよ!」

「……」


 ティオは何も答えず、リケもそれ以上何を言っていいのか分からないまま沈黙が続いた、草むらから楽しげな虫の声が聞こえてくる。


「もしかしてさぁ」

 やがて、ティオはゆっくりと話し始めた。

「リケは、ボクの事が 好きなの?」

「はぁ⁉」


 なんでそうなるのよと、リケが驚いていると。

「セロがさっき、年頃の女の子は好きな男の子がいても、気持ちを上手に伝えるのが苦手だから、つい反対の事を言っちゃうものなんだって、言ってたから」


 ドキッとした、セロがアタシの代わりに弁解してくれていたのか、好きな人に気持ちと反対の事……そうだよ、もうすぐセロとお別れしちゃうのが辛いから反対の事を。


 ――って、おいおい。

「ちょっとまて、だからって何であたしがあんたの事を好きだってことになるのよ‼」


「あーっ、リケったらぁ、また反対の事を言ってる~照れなくてもいいんだよぉ」

 完全に誤解してるよ


「だから違うって、それは絶対にない!」

 そもそもティオはまだ子供だし年下だし、何とも思ってないから。


「じゃぁ、セロの事が好きなの?」

「違っ‼」

「違うの、それって本当に違うの?それとも反対の事言っちゃってるの?」

「ど、どど、とっちでもいいだろ、そんな事!」


 どうして子供って、こう何でもストレートにものを言うのかしら。

 リケが返事に困っていると、ティオはニッコリ微笑んで。

「大丈夫だよ、ボクだってリケの事大好きだし、セロの事も大好きだよ」


「ホント、あんたはまだまだ子供なんだから」

 そう言われたティオは少し考えて。

「そっか――うーん、じゃぁボクも少し大人になってみるね、えっと、ボクはセロの事もリケの事もグレ子もロズも、大嫌いだぁー……これでいいの?」


「なんだそれ、変なの」

「今の、変なのって、反対の意味なの?」

「ううん、心から変だって思った、あんたは素直な子供のままでいるのが、一番合ってるよ」


「それも反対の意味なの?」

「反対な訳ないでしょ、あたしの言う事何でもかんでも反対にとらないで、本当の事を言っている方が多いんだから‼」

 話がややこしくなってきた。


「あーっ、大人の言葉って難しいのだ~やっぱボクはセロの事もリケの事も、グレ子もロズもみーんな大好きでいいや~‼」


 大の字になって月に向かって叫ぶティオ、そんな風に大切な事を大切な時に言えるティオがうらやましい、と心から思うリケだった。

 だからといって、今ここでティオのように大切な事を言えるほど、子供じゃなくなったなと思ってしまう難しい年ごろなのだ。


「だからまた、反対の事を言っちゃったらゴメンね」

 リケがそう言った時にはもう、ティオは大の字になったまま、気持ちよさそうに寝息を立てて眠っていた。


 だからリケも安心して、静かに目を閉じた。

 この旅が終わったら――みんなそれぞれに何を思う。



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― 新着の感想 ―
切ない…。 この旅が終わったら皆、それぞれの道に行っちゃうのかな? リケの素直になれない気持ちも分かるよ。 でも、本当にセロで良いのん?リケちゃん。 今回はティオくんが、皆の良い緩衝材になってるね。 …
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