第13話 ティオ、頑張る
読んでいただきありがとうございます。
作者が言うのもなんですが、ティオ君がかわいくて仕方ありません。
中央の塔の中は、ひたすら頂上に向かう石の階段が壁に沿ってらせん状に付いていた、中は頂上まで吹き抜けになっていて、はるか下にはなぜかマグマがうごめいているのが見える。
セロは、ただ上だけを見て階段を上って行った。
階段が途切れ、最上階に出るとそこは、塔の端から向こうの端につながる長い細い渡り廊下があるだけ、中央は丸くて少し広いスペースがあり、そこからさらに左右の端へと渡れるようになっている、上から見ると十字になっているのだ。
セロのいる位置から、まっすぐ向こうの端は、広いスペースになっていて一段高い、そこに玉座のような立派な大きなソファーがあり、そこに鬼が一人、不敵な笑みを浮かべながら足を組んで頬杖をついて偉そうに座っていた、雪のように白い肌、水色のふんわりした長い髪は、伸びるままに任せているようだった。
こいつが、ここの鬼たちのラスボスなのだろうか。
「セロ!」
リケの声がした、リケは、右の端にいて、リケを攫っていった鬼に体を掴まれている。
「リケ、俺を信じてそこでじっとしていろ、すぐ助ける!」
「そこのお前、武器を捨ててそこまで来い」
玉座に座っていた鬼が、指を伸ばしてセロを見ている、そことは中央のスペースらしい。
リケを人質に取られているので、下手な事は出来ない、ここは大人しく刀と銃をその場に置いて、両手を上に上げたまま、ゆっくりゆっくり中央へと歩いて行く。
中央まで来た、広さは大体セロ二人分の身長ほどのエリア、そこで止まると王座にいた鬼がさらに言った。
「貴様、そこから飛び降りろ」
「――はい⁉」
ティオは、グレ子に乗ってザコ鬼たちをやっつけながら、塔の中を上へと進んでゆく。
鬼たちはたくさんいたが、そんな事にひるまず、炎を吹き足で踏みつけ噛み付き蹴飛ばしやっつけていく。
「行けぇー、グレ子ぉロズぅー‼」
ティオは(本当はグレ子とロズが)絶好調。
セロはやばい、何なんだ、この鬼は。
「おや、聞こえなかったのか、小僧の命が惜しくば、ここから飛び降りて死ねと言ったのだが?」
いやいや、さっきより語呂が増えてるし。
「セロぉーあたしの事はいいから、早く逃げてぇー‼」
健気なリケに、玉座の鬼は、リケを掴んでいる鬼に向かって。
「やかましい、殺せ」
「はっ」
黒髪の鬼は、両手でリケの首に手を当て締め上げようとする。
「よせ、止めろぉ、その子に手ェ出すんじゃねぇ‼」
怒鳴るセロに向かって玉座の鬼は、まるで面白そうなおもちゃを見つけた時の子供のような表情でセロを見た。
「ならば貴様が死ね、ここから飛び降りれば小僧の命は助けてやろう」
あの眼は本気だ、本気で言っている、だがここでオレが飛び降りればリケはどうなる、奴らの事だからこのまま大人しく離してくれるとは限らない、しかし……。」
セロは静かに目を閉じた、そして再び目を開けると。
「本当だな」
横目でリケを見た後、正面の鬼を睨み付けた。
「本当に、ここから飛び降りれば、この子は助けてくれるんだろうな」
「あぁ、約束しよう」
「セロ!駄目ぇ‼」
リケの泣き叫ぶ声が聞こえる、また泣かせてしまった、これからも守ってやるって決めたのに、でも、これしか方法がないのなら……仕方ない。
そう覚悟を決め、踏み込む足に力を入れ……。
――今まさに、飛び降りんとするセロの足元を、光の矢のようなものがいくつも飛んできて玉座とリケを捕まえている鬼に向かって飛んでいった。
その光は、鬼たちの前で大きく弾けると、煙幕となって瞬間何も見えなくなった。
「?」
何が起こったのか解らないが、その霧の中から黒コートの男が現れた、大きくジャンプすると、セロのすぐそばに着地、そしてその胸にはしっかりとリケを抱いていた。
「セロぉ‼」
黒コートから離れたリケは、セロにすがり付いてきた。
「よかったぁ、セロぉ~」
本当にあのまま鬼の言うとおりに落ちてしまうのかと思って、すごく怖かったと泣きじゃくる。
「よしよし、もう大丈夫だ」
リケの背中を、なだめるように優しくなでてあげるが、状況はそんなに大丈夫じゃない。
霧が晴れると、リケという切り札を無くした鬼たちはすごい形相でこちらを見ている。
「いいかリケ、このまま真っ直ぐ出口に向かって走れ」
「え?」
「俺はまだ、こいつに話があるから先に行ってろ、終わったらすぐ行くから」
自分がここに居ても、セロの邪魔になるだけだと悟ったリケは。
「うん、セロもすぐ来てよね」
出口に向かって走り出した、リケは安全な場所にいる。
「あっちの奴は俺に任せろ、お前はあの正面の鬼を倒せ」
黒コートの男が、そう言いながらセロの銃と刀を手渡してくれた。
「あ、ありがとうリケを助けてくれて、おまけに俺の銃も――ッてかお前何なんだよ一体、ずっと俺たちの周りをウロチョロして、何がしたいんだよ、何者だてめーはぁ‼」
後半キレ気味のセロに黒コートの男は、フッと鼻で笑うと、仕方ないと浅いため息をつくと、セロにそっと耳打ちしてきた。
その話に、驚いたようにお目目がまん丸になるセロ、でも。
「――なるほど、じゃぁ俺は、あいつに集中してりゃぁいいって事だ!」
セロは改めて玉座の鬼を見た、鬼はゆっくり立ち上がる、背は高くて体のラインは細いが、腕も着物の裾から見える足もかなり筋肉質。
鬼は、そばに置いていた刀を掴み上げると、少し乱暴に柄から引き抜いた、あれもマシューの親父さんの作品であろう。
そのまま、特にどう構えるでもなく両手をだらりと下げただ立っている。
そう、ただ立っているだけのように見えるが。
――スキが無い、下手に打ち込めば、瞬間やられるかもしれねー。
セロも、さっきの倒した鬼からかっさらってきた刀を引き抜いた、自分のではないのに、不思議とセロの腕にしっくりくる、本当に良い刀だ。
さっきは偉そうに、持ち手を選ぶだの生き物だのと知ったような事を言ったが、セロ自身そんな境地に至っているはずもない、だがこの刀はそんな偉そうな事を思わせてくれるような心地にさせてくれる、まるで旧知の間柄のような不思議な感覚にとらわれる。
天才鍛冶師、まさにそうだ、こいつを倒したら俺にもひとつ欲しいな、っと‼
考え事している場合ではない、玉座の鬼がセロに迫って来た。
セロから仕掛けようとしなかったのは、スキがないのだと見破られたからだろうかと見破った鬼が正面から打ち込んでくるのをセロは渾身の力で受け止める、この鬼さすがに強い、一筋縄ではいかないようだ。
だが、セロだって負けていない、鬼の刀を弾き返すと、こっちからも仕掛けてゆく。
「貴様なかなかやるではないか」
「当り前よ、俺をナメんじゃねぇ‼」
刀と刀がぶつかり合う。
「セロとか言ったか、貴様」
「おうよ、覚えてくれてうれしいね」
「俺の名はカイエン」
「てめぇがここの鬼たちの大将だな?」
「そうだ」
「腕のいい鍛冶屋を無理やり連れて来て、こんなもん造らせて、てめぇら何企んでやがる?」
刀と刀が、幾度となくぶつかり合う。
「人間どもへの復讐だ」
「復讐⁉」
一旦体を離した二人、カイエンは話し始めた、鬼たちの悲しい過去を。
――その昔、突然ここ鬼の島へ、人間がお供を引き連れて現れて、鬼の一族を襲撃していった、鬼たちは次々と倒され辺り一面血の海となり死体の山となり、カイエンの両親も幼いカイエンの目の前で殺され、自身も殺されそうになったが仲間に助けられて無事だった、その後は生き残った者たちでいつか人間どもに復讐すべく島を再建してきた、金棒に代わる武器、刀も手に入り後は人間どもへ復讐すべく機会を伺っていたのだと。
「だからまず手始めに貴様を地獄に送ってやる、その後はこの世をわれら鬼が支配してやるのだ」
カイエンの瞳に宿るのは、深くて暗い闇、復讐の為だけに生きて来たのか。
確かに、親や仲間を目の前で殺された恨みと悲しみは理解できる、でもそれは鬼たちが、窃盗殺戮破壊のあらん限りを尽くしてきたからで、自業自得ではないか。
――なんて不毛な。
人生は一度しかないのだから、そんな闇に囚われない生き方もあっただろう。
セロは、刀を握る腕に力を込めて鬼に向かって行った。
深い悲しい闇が、奴の力の源なら、俺の強さの源は。
いろんな人の顔が浮かんだ、今まで友と呼び合った様々な奴ら、俺を育て上げてくれた師匠、今一緒に旅をしている仲間一番大切な人の笑顔。
セロは足を踏ん張って、力の限り刀を振り上げ、カイエンの持っていた刀を払い落とした、そして、そのまま振り降ろす。
「これで終わりだ‼」
それで、カイエンを斬り伏せ、終わる――はずだった。
だが、カイエンはそんなセロの刀を素手で受け止めたのだ。
その頃ティオたちは、鬼たちを塔の屋上に追い詰めていった。
「さぁ、覚悟しろ、全部やっつけてやる(グレ子とロズが)!」
グレ子も、頭を振り上げ、渾身の力を込めて炎を、吐き出そうと、した、が。
どうした事か、突然グレ子の勢いが止まり、体も巨大グレ子から中グレ子に戻ってしまった。
驚いたティオは。
「もしかして、体力が限界になっちゃったの、大丈夫なの?」
大きいロズも「アタシも、もう限界~」と、チビ猫の姿になってしまい、避難しようとグレ子の体に登って来た。
「げ!」
やばいよ、鬼たちは中グレ子になってしまった事で、もう炎は吐かないと理解したのか、じわじわと迫って来る。
形勢逆転、ここは塔の上、しかも塔は断崖絶壁のすぐ際に立っていて、はるか下は波が荒れ狂う深い海。
ザップンと押し寄せる波打ち際が、ものすごく小さく見える。
じわじわと迫ってくる鬼たち、じわじわと後退するグレ子、とうとう塔の端まで追いやられてしまう。
「ガオー‼」
鬼たちが唸り声をあげながら一斉に襲いかかって来たのに驚いたグレ子は足を踏み外して、塔のてっぺんから落ちてしまった、視界の下には荒れ狂う海。
「うわぁぁぁー」
グレ子と一緒に落ちてゆくティオは、思わず魔法の杖を握りしめて――
終わりだと思っていたのに、セロの刀をその手で受け止めたカイエン。
そんなカイエンの腕は、さっきまでの細い人間の腕ではなくなっていた、太い指に太いムキムキな上腕二頭筋、着物も裂けるほどの赤いゴツゴツした大きな体、口は裂け大きな牙をむき出しにし、さっきまでの美しい姿とはまるで違う、言っちゃぁ悪いが、醜い姿の赤鬼になってしまった。
「貴様に、この醜態をさらしてしまうとはな」
しかしその眼は闇をはらんだあの悲しい眼だ。
「げ!」
これがカイエンの真の姿なのか。
セロは焦って刀を構え直すが、カイエンの振りまわした太い腕が、一瞬でその刀を弾き飛ばした。
はるか下へと落ちてゆく刀、手段を選ばなくなった鬼は、じわじわとセロを追いつめてゆく。
愛用の銃を構えるものの、その銃もカイエンの一振りで振り落された。
今度は腹を殴られた。
「ぐはぁっ!」
腰から砕け落ちるセロ、下に落ちないようにするだけで精いっぱい。
カイエンは更に近付いて来る、立ち上がって抵抗しようにも、体が上手く動かない。
その光景を、物陰から見守っていたリケは思わず走り出していた、らせん階段を下に。
カイエンは、苦しそうに腹を押さえて動けずにいるセロの頭に手をかけ、持ち上げた。
リケが駆け下りていった階段の先には、セロの落とした銃があった、これが下のマグマに落ちてしまわずに、ここにあるという事は、大丈夫、セロはまだ負けていない!
リケはその銃を拾い上げると、ここからの距離と角度、銃の重さと構造、トータルして投げる力を瞬時に計算した、セロが褒めてくれた、あたしの投球コントロールは世界一。
――頭が割れそうに痛い、鬼に頭を掴まれているからなのか、このまま頭を砕こうとしているのか、体中が痛くて動かない、……意識が遠くなってゆく。
そんなセロの耳にかすかに、自分の名を呼ぶ声がした。
「‼」
かすかだが、はっきり聞こえたその声は、薄らいでゆくセロの意識を呼び起こしてくれた、その指に懐かしい感触が戻り、考えるより先に体が動く。
その手に戻ってきた愛用の銃を構えると、目の前の鬼の顔面に向かって。
思いっきり撃った。
「ギャァァ――‼」
急所を攻撃された鬼は、セロを振り落してそのまま後ろに倒れてしまった。
鬼を倒した、いや、今はそんな事より。
「リケ⁉」
セロが下を見るとそこには、セロの銃を投げるためにバランスを崩し、下へ落ちてゆくリケの姿が。
――ティオが言ってたじゃん、やらなかった後悔より、やった後悔の方がいいって。
いや、この場合、やっちまった後悔かな(笑)
でもあたしは後悔なんかしてないよ、セロが無事だったんだから、最後にやっとわかったよ、あたしたぶん、いやきっと、ううん絶対、セロの事が、ダイsu――
ものすごく大切な事を言いかけた瞬間、リケの目の前に突然中グレ子の凶暴で怖い顔がドアップで迫ってきた。
目ん玉飛び出るくらいビックリして、瞬きする間もなくグレ子の背中にいたティオの伸ばした手に受け止められ、そのままグレ子の背中に。
何が起こったのか解らないが、よく見るとグレ子が空中に浮かんでいる。
「グレ子が飛んでる……?」
「そうなのだ、グレ子は鳥さんになったのだよー」
ティオが言うには、あの塔から海に向かって落ちている時、夢中で魔法をかけたら、グレ子に羽根が生え、飛べるようになったのだ、だからこうしてリケとセロを助けようと、塔の壁をぶち壊してここへ来たのだと。
「ホント、落ちる時はこれで死んじゃうかと思ったわヨ」
一緒にいたロズも無事だった。
グレ子はその羽根を羽ばたかせると、上昇してセロの元へ、驚いているセロも乗せたグレ子はそのまま天井をぶっ壊して、空へ出た。
隣の塔では、まだ鬼たちが騒いでいたが、こいつらの大将を倒した今、もう悪さをすることもないであろう、そのまま鬼ヶ島を周回して、海へ出た。
海の上では、島を抜けだしたマシューと熊が、こっちを見上げて手を振っている。
岩場の崖の上には、黒コートの男が、背を向けて木々の中に消えてゆくのが見えた。
目指すは、元来た砂浜、グレ子は羽根を風に乗せ、着地体制に入ったその時、羽根がキラリンと光ったかと思うと、ポヨンと消えてしまい、チビグレ子の姿に戻ってしまった。
そのまま不時着、みんなは勢いで砂浜に投げ出される。
「うわぁぁぁっ‼」
リケは、セロに庇われるように落ちたので無事のようだ、ティオはコロコロンと転がって落ちたのでケガは無さそう、グレ子は体の半分が砂に埋もれてしまったが、すぐに起き上って体をブルンと震わせて砂を払っている、ロズも「もう、あんた達と一緒にいたら、命がいくつあっても足りないワ!」と言いながら砂を払って毛づくろい。
みんなの無事を確認したセロは、安心したのかそのまま無防備に両手を広げて、砂の上にゴロンと寝っ転がった。
なので、ティオとリケもセロを挟むように横に転がった。
皆で見上げた空には、ぽっかりと白い雲が気持ちよさそうに浮かんでいる。
「みんな、無事でよかった」とセロが言う。
「最後は、ちょっと締まらなかったけど」とリケ。
「でも、その方が、ボクたちらしくていいじゃん」とティオ。
「ぷっ」
「ぷぷっ」
その後は、誰からともなく笑いが起こり、みんなで思いっきり笑いあった、お腹の底から笑えた。
あぁ、生きてるって素晴らしい、こうしてみんなで笑いあえる。
その声は、砂浜に押し寄せる波の音負けないくらい、青い空と蒼い海に響き渡っていった。




