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Ⅱ - 1

 「歴史部どうかなぁ」

「まだ決めてないのかよ」

 初夏の鎌倉は、表と裏の明るさの違いが顕著だ。僕の中で、日光の当たる暑くて眩しいところを表、日光が遮られ薄暗く涼しくところを裏と思っている。実際、なんていうのか、日陰とか陽当たりがいいとか言うんだろうけどね。


 八幡宮周辺の地形調査の課題が出た。高校生で校外学習なんて…と思ったが、鎌倉以外からの入学者が多く、改めて鎌倉という場所を知るためだとか。

 ちなみに一年5クラスあり、A、B組が高校から入学組。C、D、E組は内部進学組。二年進級のクラス替えでシャッフルされるらしい。二、三年は同じクラスになるとか。

 暑いさなかの3、4校時。いわゆる校外学習は、日陰を探しながら歩いた。4〜5人のグループ活動で、事前に調べて実地に出たのだが 、一人足を怪我したとかで実地調査は免除されて学校で自習している。

『調べたのの、まとめるのをやるよ』

と言っていた。確かにここ数日、体育を見学してたような。

 結局、僕と小川と淡路の三人で回った。淡路はおとなしくてほとんど喋らない。

『部活なに入った?』

と聞いたら

『美術部だよ』

と言い

『何部なの』

と聞かれたので…


 「歴史部どうかなぁ」

と言った。

 鎌倉に住んでて、実はあんまりよく知らない。小学校の頃から何かにつけて学ばされてきたとは思うけど、その頃はあまり興味がなかった。

 部活は仮入部期間が一学期中と長く取られていて、いろいろな部活を体験できる。小川は結局、写真部に決めたみたいだ。週一回程度出ればいいらしい。今日もスマホだけど写真担当だ。


 川を見に滑川まで来た。

 鶴岡八幡宮の東方を流れる川は住宅の中を流れている。

 本当は広々したところや、相模湾に注ぐ河口があるけど、その辺はほとんど行った事がなく よく知らない。

 川沿いを歩けるところもあるけど、僕たちが歩ったあたりは橋からしか川が見えなかった。

両岸は 建物がギリギリまで建っている。草木が鬱蒼としているところもある。

 家の近くにも流れているけど、支流だ。名前は変わって二階堂川だけど気にした事もない。

昔は 大きくて流れも早かったのかな…

 小学生の頃に聞いた逸話を思い出した。


 鎌倉時代、夜、橋を渡っている時、この川に金を落としてしまった武士がいた。金を拾うために、落とした金額の何倍も使って松明を買い 、従者に探させた。

 その話を聞いて、何倍もの金を使うなど損だろうと言う者がいた。武士は、その者に、拾わずにいたらその金はそのままになり価値がない。拾って使えば役に立つし、そのために大金を使って松明を買えば利益を得る者もいる。合わせたら大したものになるだろうと言った。

 金は留めず、巡らせた方が世の中の役に立つと言うようなことなのだろう。

 「金は天下の回りもの的な?」

小川が言った。

「あー、それそれ、それが出てこなかった」

確か先生もそんな事を言っていたかも。

 僕は夜に川に入って金を探すなんて、嫌だなと思っていたと思う。まったく自分でも成長してないと感じる。

 武士みたいに、自分の利益よりも、もっと大きな事に目を向けられるようになるのかな? 武士に言われた相手はどんな気持ちだったかなぁ。恥ずかしかったかなぁ。バカなやつだなとか思ったのかな。僕はどっちかって言うとそっち側なのかも。


 八幡宮に戻る途中の裏道で、すれ違った女の人に声をかけられた。

 声をかけられるほんの一瞬前に、僕はその人 、沢田さんに気がついた。

 僕の前を歩く小川の後ろで、顔を伏せようとしたが遅く、

「あら〜!こんにちは」

僕は 観念して、

「あ、こんにちは」

と 会釈した。

 小川と淡路は、数歩先を行き待っていた。淡路はこっちを見ていたが、小川は向こうを向いていた。

 小川が沢田さんの顔を知っているのか僕は知らない。今の今まで思いもよらなかった。小川の表情はわからなかったと思う。

 「あ、お友達?あ、もしかして授業?」

「あ、はい。校外学習みたいなものです」

「あら 、ごめんなさいね…あーごめんごめん」

そう言いながら、傍らの男の子を抱きかかえた。

 沢田さんの子どもだろう。母親にしがみついてぐずり、不機嫌そうな視線を向けた。暑いからか前髪が額にべったりと張り付いている。

「ちょっと熱があって、保育園早退して、これからお医者さん行くところなの」

「あー、そうなんですか。じゃあ、早く行ったほうがいいですよ」

「ありがとう。引き止めちゃってごめんね。すみませーん」

と小川と淡路に声をかけ、行ってしまった。


 「近所の人に会っちゃった。びっくりした」

と言いながら二人に近づくと、小川が

「地元だもんな」

と言った。

「狭いところだからね」

 僕は嘘をついた事を小川に見透かされた気がして緊張していた。

 それにしても暑い。僕はワイシャツの胸元をつまんで、バサバサ扇いでみたけど、生温い空気が行ったり来たりしてるだけだった。


 行くところ行くところ、同級生達がいて、狭い範囲だから仕方ないのだけど、結局まとめを工夫しないとなとなり、まとめ係に丸投げだ。まとめ係はなんて言うやつだったかな。

スダだったっけ? スガだっけ…

 「三崎くん!」

淡路が呼んだ。

 おとなしい感じの人の声でなくて、一瞬、あぁ、でかい声も出せるんだなんて思って振り向いた。片ひざついてうつむいている小川の腕を淡路が掴んで支えていた。僕はすっかり慌ててしまい、何を言われ何をしゃべったかわからなかった。

 二人で支えて、鶴岡八幡宮まで連れてきて、木陰にあったベンチに座らせた。淡路が自販機で水を買ってきたが、一口飲んで、

「吐きそう」

と言って、口を押さえたままうつむいていた。

「熱中症かな、救急車呼ぼうか」

「その方がいいかな、学校に連絡してみようか」

と淡路がスマホを取り出すと、小川は制し、

「大丈夫。少し落ち着いた」

と言い、持っていたノートで顔を扇ぎ始めたので、淡路と僕も一緒に扇いであげた。

 汗びっしょりだったが少し引いたみたいだったが、顔色はよくなかった。体調が悪かったのかもしれないが、校外学習で暑い上、沢田さんと子どもに気づいたかもしれないからか…?

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