XⅥ - 1
オープンキャンパスに母と行くつもりだったけど、父も来た。
三人で電車に乗るなんて久しぶりで、ちょっと子どもの頃に戻ったみたいだけど、父と母はずっとおしゃべりしていて、学生時代の話なんだけど、楽しそう。
親子でちょっとそこまでって感じ。
第一志望のオープンキャンパスは別キャンパスだったが、大学祭のように賑やかで、在校生の案内係がお揃いのTシャツを着ていて、なんだかんだと世話を焼く。
母は愛想よく声をかけている。
在校生達はボランティアで、学食で一週間分の無料券がもらえるとか…母とのやり取りでわかった。
「タッちゃんも来年やらせて頂けばぁ」
なんて調子よく言うから、在校生達に囲まれちゃって、
「是非是非!お待ちしてま〜す」
なんて言いながら、なんだかんだと色々資料を渡された。
来年も何も合格しなきゃなんだけど?
親子や友達同士や先生に引率されてるような集団、大学の人達ーもうほんとに人が多い。
人が多いのは慣れてるけど、いつもはウンザリする事もあるけど、今日の賑わいは心地よい。いやじゃない。
ゆったりと流れているようで、身を任せてる感じ…もしかして、歓迎されてる?
あっ…ダメダメ! そういうのよくない。気が大きくなっちゃって、足元すくわれそう。
「なに?虫?」
僕が首を振ったので母が聞いた
「あ、うん。なんかね」
邪な虫かな。
大きな教室で説明会があった。
法学部の教授で、受験担当だと言った。卒業生ではないが、この大学の雰囲気がとても気に入ってるとか。
さっき感じたみたいな心地よさかな。
第一志望なのかな。こっちかな。やっぱりこっちじゃなかったってなるのかな。
もらった資料を見て、母はうなずきながらラインを引いている。ぐるぐる丸を書いたり、星印つけたり…
僕は他の資料を見た。
史学科の定員は60名。
他に一般受験の学科別じゃなくて全学部共通というのがあって、志望学部だけでなく併願ができる。それってどうなのかと思ったら、定員5名! どっちか受かればいいかなって感じなのかな? よっぽど出来るヤツなんだろうな。
その5名のために一般の受験者が損するってわけじゃない。
でも60名。全国から60名。都道府県に一人だけじゃん。大雑把すぎるけど。
関東地方で約7人とちょい。
あ、でも塾で3人合格者いた。学部は違ったけど。他の塾だって複数人の合格者はいるだろう。
まあ、全員第一志望じゃないだろうし、定員ぴったりって事はない。補欠って事もあるしね。こんなのってここに限らず、どこでもあるだろう。
笑いが起こった。
母も笑ってる。父は頬杖ついて、ニヤニヤしている。
なんだろう、聞いてなかった。
「落ちた大学で教授って、執念深いね」
と母が言った。
どうも教授は、この大学が第一志望だったけど、落ちて別の大学に進んだとか。数年前にこの大学に誘われた時、嬉しくて一も二もなく引き受けたとか。
父がすぐスマホで調べてて見せてくれた。ここより上位の大学出身でそこでも助教だった…
「通いたかった大学に関われて、幸せ。これから受験する皆さんには、失敗談なんて縁起でもないとお叱りを受けるかもしれませんが、やっぱり、ご縁があったとしか思えない。今こうして集っているのも、縁があっての事。どうぞ皆さん、志し高く持ってください。私たちは皆さんをお待ちしております」
拍手がものすごかった。
僕はちょっとジーンとしてしまった。
来年も受験担当をやられているだろうか。この先生の話をもっと聞いてみたい。法学部じゃなくたって聞けることあるよね。




