XⅥ - 2 終章
帰りの電車の中で、母は座ってうとうとしていた。
その前に父と並んで立っていた。
「ママ、張り切っちゃって疲れたんだろ。学食で美味しいもん食ったしな」
学食の無料チケットで昼食をとった。母はポークジンジャー定食を選んで食べたが、僕や父のをちょとずつ、味見してとても気に入ってた。
「相変わらず大食いだったなぁ」
父が言いながら、僕を見た。
「おまえさぁ」
「?」
「背ぇ、伸びたなぁ」
「えっ?そう?」
吊り革に捕まる父を見た。父ほどではないが、そうなのかな。
「4月の健康診断でいくつあった?」
「172だったかな」
「172?もっとあんだろ?」
そうかなぁ。この2ヶ月で伸びたとか?
「完全にママは超えたな」
そうだ。今まで気にしてなかったけど、母よりは高くなった。母も高い方だけど、170くらいかな。母と同じくらいに感じてたかも。
「宏ちゃんみたいになるんじゃね?なんだっけ、末っ子の」
「友君?友也」
「そうそう、すんごい背高いんだろ?5年生?だけど」
そう、甘えん坊の友也は小5だけど、170近いと言っていた。僕がバイト始めた頃に比べても、別人のようだ。中身はまったく変わってないけど…
叔父の宏樹も190近いし、伯父の和樹も180超えてる。それで母は170くらい。江ノ島の祖父母も、あのくらいの年齢層で言ったら高身長だった。
父も伯父くらい。兄もそうかも…こっちの祖父も高かったし。
「おまえは伸びないのかなぁと思ってたけど…宏ちゃんの上の子もそうじゃん。まだ中学だからこれからかも知んないけどさ」
卓也は中3になったけど、姉の千宏も160くらい。叔母がそれくらいだから、母譲りかも。
「もう大学生だもんな」
「まだ高2デスケド」
もう高2?
「慌てることないか。でもあっという間だぞ」
身長の話と受験の話が一緒だ。でも経験者の言葉だから、ありがたく聞いた。
鎌倉駅に着いた時、5時近かったけど、明るくて夏が始まってる。
天気もいいからすっきりとした空だ。人混みで空見上げるなんて初めてかも。下ばかり見てたかもな。高い建物もないし、空がこんなに広いなんてね。
もちろん観光客だらけ。大学のオープンキャンパスの人混みは心地よさがあったけど、案外ここも人波に任せて歩っていると悪くない。“観光客”が多すぎて、歩きにくいとか、なんでこんなに人いるのよ! なんて怒りながら歩くから、イライラするけど、今は気にならない。
現金だなぁ。空いてる他の道も知ってるんだから、そっち行けばいいんだし。今日はなんだか気持ちに余裕がある。
若宮大路の和菓子屋に寄った。鎌倉土産として売ってるのだろうけど、母がここの焼き菓子が好きで、普通によく買ってくる。抹茶味の皮に餡が入っている。それで大体は母が一人で食べる。
そこからずっとぶらぶらと散歩のように歩きながら帰った。
父と母がおしゃべりしながら歩く。その後ろを僕は歩く。
観光客とすれ違ったり、追い越されたりする。
鎌倉しか知らないけど、小川の実家や伯父のカフェのまわりに比べても、人混みや建物の立地の雰囲気とか全然違うし、やっぱり鎌倉でよかった。
「ねぇ、いいよねぇ」
母が振り向いた。今、考えてたことの返事のように聞こえた。そんなはずないけど。
「夕飯さぁ、カップ麺でいい?」
何を聞くのかと思ったら…
「いいよ」
「家にもあるけどさぁ、コンビニ寄ろっか。なんか食べたいものある?お弁当でもいいよ」
「自分が食べたいだけだろ?まったく」
と父は言うが、まったくしょうがないとは思ってないのだ。
「焼きそば食べたい。あと、ジンジャーエール」
「あー!私もレスカ買お。パパは?」
「コーラ?」
「言うと思ったぁ、ねぇ」
母と父は心底楽しそうだ。
いいんだ。心地よくて、身を任せていて。油断ではない。このまま進めば。
生まれ育ったこの街を歩く。人混みもざわめきもゆっくりで心地よい。
明日は今日休んじゃったからバイトだ。
聡太くんやアンちゃんにも大学のことを聞いてみよう。
今日明日で小川や須田もオープンキャンパス行ったはずだ。小川は社会学が気になっているみたい。
どんなだったか、月曜日に聞いてみよう。
終わります
お読みいただきまして、ありがとうございました
この物語は、もともと、達彦と晴子の物語として始まり、さまざま変遷を経て、ここに至っています
記録はしておらず、頭の中で作っては崩したり広げたりを繰り返していた妄想です
“スマホ”という素晴らしいものに出会えて、記録しておこうと思い、書き始め、そこでも散々行ったり来たりしていました
一人自己満足でよかったのですが、“小説家になろう”を知り、投稿作品を読み、心に残る作品がいくつかあります
私も一人でも目にとめてもらえたら…と思ってしまいました…
ありがとうございました




