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ⅩⅣ

 カフェは、年末年始は大晦日から3日まで休み。以前は大晦日と元日も開いていたが、案外暇だったので、休みにしてしまったとか。

 なので僕は冬休みは30日までと4日から行った。

 土産店はそうでもなかったが、カフェはいつもの土日みたいに混んで忙しそうだった。

 忙しくて手が回らないからと言って、いとこ達はランチに呼ばなかったとか。

 バイトの学生が、帰省などで休んでいることもあって、母が手伝いに来てフロアーに出ていた。

 これまでも正月は手伝いをしてたが、見るのは初めて。

 声が大きくてよく響く。

 なんだか手慣れていて、子連れなのか客に

「可愛いねぇ、幼稚園?」

とか

「どちらから〜?」

とか

「桜の時期はきれいですよ〜また行ってみてくださいねぇ」

などと如才ない。

 信用金庫時代の接客の賜物か、元々そういった性格なのだとつくづく感じた。 “お嫁さん〜” なんて言ってたけど、案外向いてるんじゃないのかな。皿洗いしか見た事なかったから新鮮だ。


 「お腹空いた〜いい匂いで、クラクラしちゃったわよ。後でこれ食べられるんだから頑張ろうと思っちゃった」

 鶏と人参やごぼう、干し椎茸、油揚げの混ぜ込みご飯とけんちん汁とほうれん草と菊花のお浸しと沢庵、デザートの和菓子、飲み物も温かいほうじ茶のみ。

 このメニューは毎年正月4、5、6日は同じ。大変だろうからと叔父がそうした。

 それと山形の農家に嫁いでる父の妹から、自家製沢庵が大量に送られてきて、

『よかったらカフェで使ってね』

と言ってくれるので、母が持ち込んでいる。

 近所に配ってもまだある。

「小川くん食べるかな」

「食べるんじゃない?」

「いつ戻ってくるって?」

「あー、あさってかな? 6日」

 小川は冬休みに入ってすぐ、厚木に戻った。

小川が一人暮らしを始めてから、一度妹が来て泊まってったとかで、

『なんか怖い』

と言ってたとか。まあわからないでもない。

 「じゃあ明後日持ってこよう」

「一本じゃ多いんじゃないの」

「当たり前じゃないよ、適量をちゃんと切ってタッパーに入れますよ」

と母は指で弁当箱くらいの大きさを示す。

「デカくない?」

「梅干しも入れちゃう」

「は〜なるほどね」

梅干しも送られてくるが、塩の結晶が付いてて本当に辛い昔ながらのだ。


 叔母に混ぜ込みご飯をもらって、嬉しそうにしている母と帰った。

 正月は営業時間は一時間くらい早めに終わらせるが、その時間より早く上がったからか江ノ電は空いていて座れたので、眠くなりそう。

 「ご飯作るのめんどくさいから助かるわ」

「そのつもりで作ってんじゃないの?」

「ああ、そうよ。自分ちのも詰めてたもの。兄さんのもあるし、聡太君にもあげてたよ」

聡太君はバイトの大学生。

「聡太君にも沢庵あげよ」

いい事思いついたと言う感じで笑う。

と、突然、

「タッちゃん、塾どうする?」

 

 電車の揺れに、心地良くなってるところを現実に引き戻された。

 以前行ってた塾の先生に会ったこと、クラスメイトのお父さんだったことは話していた。

「何よ、今?」

「だって、今さっき駅に看板出てから」

なんだよ、もう。

「藤沢の予備校でもいいけど、行ける?」

「藤沢ぐらい行けるよ」

と言ってみたものの、ただ行くのと通うのは別。

「本厚木まで行けたもんね」

「はいはい」

その先が長かったけどね。今度行ってみればいいんだよ、ホント。

 「ママさあ、前行ってた塾の先生方、よかったと思うのよね〜。お兄ちゃんが行ってたところなんて、厳しくてさぁ。圧迫面談で成績が上がらないのは、お家での指導がなってないみたいな感じなの。両親がお尻叩いてくださいってやつよ」

 兄は大船の塾に通っていたが、後に横浜校に移った…

 そんな事言われてたんだ。

「怒られちゃった〜って落ち込んだけど、よくよく考えたら、本人や親ができたら塾なんて行かないって!って思っちゃってムカムカしちゃってさ。そっちの方がプロなんだから、勉強させる技なんていっぱい知ってるはずじゃない。塾代払ってるのにさぁ、こっちが怒られるのってどう?変じゃない?」

「まあ、確かに言われてみればそうかもね。本人次第って事もあるだろうけど」

「そこをやらせるのがプロなのよー」

思い出してイライラしてきている。

 「まさか、言ったの?」

「電話掛けて言ったわよぅ。そしたらさぁ、夜パパが帰ってきてから、校舎長と先生が来て謝られたわよ。パパも最初はびっくりしてママったら〜みたいな反応だったけど、『オタク信じて安くない月謝払ってますので』なんて言っちゃってさ」

 それ言われちゃうと、向こうも何も言えなくなっちゃうもんな。辞められたら困るだろうし。代金払ってなんか買うのと一緒だよ。よかったらまた買うし、そうでもなかったら買わない。

 「そしたらね、そういう人いるんだって。ケイコちゃんママが言ってたのよ」

「ピアノの?」

幼稚園の頃、ちょっと音楽教室行ってて、そこで一緒だった同い年の子だ。

 母親同士は仲良しになっちゃって今でも連絡を取り合っている。

 学校は違ったので、どんな顔だったかもまったく覚えていないが、中学から音大の付属校に通っている。

 ケイコちゃんは受験に強いピアノ教室に移ったが、その先生が厳しく、

『家で練習してないの?』

『やる気あるの?』

『お母さま、いかが?』

などと次々と叱責されるらしく、みんな受験のためだからと我慢してた。

 幸いケイコちゃんはピアノバカ(ケイコちゃんのお母さん曰く)であまりそう言うことはなかったらしいけど、ある日、一緒のレッスン受けてた女の子のお母さんが、母が塾に話したみたいなことを言ったとか。

先生は激怒したが、

『先生のおかげで音楽が嫌いになりました』

と捨て台詞を吐いて辞めてしまった。

 そうしたら次々同じような理由で辞める人が出て、さすがに先生もショックだったみたい。で、あまり厳しくなくなったらしい

「『音楽が嫌いになった』って言われたのが、かなりきたみたいよ。“ピアノ”じゃなくて“音楽”って言われちゃうとねぇ」

 今は受験専門の看板は下ろし幼児向けになったとか。音楽の楽しみを教えてるのかな。


 正月バイトの最終日の帰りがけに塾に寄った。もちろん母が言い出したのだけど…当然だが塾の方は大歓迎。

 無料のお試し講座に来ることになってしまった。まあ、ここに通うんだろうなとは思っていたけど。

僕が調べていた大学の合格者がいたのも決め手になったし、国公立の合格者もいた。

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