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Ⅻ - 2

 須田の調査書がチラッと見えて、やっぱり工業系の国立大学だった。職業欄は空欄。

 アメフト部があるところがいいと言っていたけど、あるんだろうな。オープンキャンパスに行って、すっかり魅了されたみたいだったし。

オープンキャンパスって一年生でも行けるという事を知った。中学生でもいいんだって。


 面談で青山先生から、

「いいと思うよ。今の調子を落とさないようにすれば、大丈夫」

と言われて、ホッとした。

 母も明らかに安心したようだ。

「やっぱり、塾行く?」

帰り道で聞かれ、

「なによ、うるさく言うなって言われたんじゃないの?」

「うるさくないでしょう?今、初めて言うんだもん。うーん、なんて言うかさ、定期的に見てくれて、アドバイスくれるところと繋がってたほうがいいかなって思ってるだけよ。学校でもいいけど、受験のプロみたいなことよ」

言いたい事はわかる。

 自分がやってる事がいいのかどうか判断して教えてくれる。学校の先生でもいいんだろうけど、学校の先生って忙しそうだし。

 「でもさぁ、タッちゃんから史学科って出てくると思わなかったわ」

青山先生に文学部で何やりたいか聞かれて、国文だけど、史学科も興味あると答えた。母はうんうんってうなずいてたけど、直後に、ええって感じで僕を見た。

 青山先生も、やっぱり意外そうだったけどね。

「鎌倉に住んでて、あんまり知らないなって思ったからだけど」

「確かにねぇ、あたしもそうだわ。まあ、あたしは藤沢だけどさ」

 そりゃそうだろうけど、小さい頃はよく父や母と歩ける範囲で近くの寺や神社に行ったど、あれって、お散歩って感じだったな。お参りして、お茶もらったり、お守りやお札買ったり…

 お札ね、玄関の扉の上のはめ殺しに貼ってある。外側から見えるように。あれってどこのだっけ? 日常すぎて忘れてる。


 鎌倉宮と鶴岡八幡宮のお札だった。

 そう、初詣に行ってるじゃん。昨年のを納めて、新しいのを買っている。

 初詣は大体1月の半ば頃行く。

 僕は行く年もあれば行かないし年もあるが、父と母は必ず行っている。

 母は一人で荏柄天神社に行く事もある。多分、受験がらみ。天神さまだからね。今年、お守りを買ってきてくれた。合格後もお礼参りに行っていた、母が…


 家から近いところっていったら、鎌倉宮。駅につなぐバス停がある。

 五歳のお参りもした。

 ガランとしてる印象だったけど、今は観光客も多いのかな。

 とにかく今はバス停のところしかわからない。バス停を使う時は参道は素通りだ。

 

 後醍醐天皇の皇子の護良親王を祀ってる。

 親王は当時、この地の土牢に幽閉されていて、その後、殺された。

 ざっくり言うとそんな感じだけど、事情はもっと複雑…って案外知ってるじゃんか。

 小学校の校外学習で来たんだ、確か。そこに明治天皇が鎌倉宮を建て親王を祀った。

 護良親王…?

 家の近くに墓がある。階段で登って行く。山の上って感じだけど、下は住宅街。生活音、電話してるような声とかピアノの音とか聞こえてた。

 小さい頃は階段で遊んだりしたけど、台風で崩れ封鎖されていたけど、改修したんだっけ? 普段の生活と逆方向なので、まったく意識してなかった。


 兄の部屋にあった歴史関係の専門書や小説を見てみた。

 やっぱりそれもかなりあったが、発行年月日を見たら、兄が大学受験の数年前くらいのものが多かった。迷走してたと母が言っていたが、史学も考えていたのかな。

 日本史と、あと中国史も多かった。

そして今の僕にぴったりな“漫画”の日本史や古典、偉人伝などがあった。

 小学生向けで兄が買ってもらっていたのだろう。これも案外綺麗で、あまり読まなかったのかな。

 鎌倉時代を読んでみた。わかりやすい。特に人間関係。とっかかりに丁度いい。

 気になる事があったら、他の本を読んだり、SNSで調べる。

 そこでも別な疑問が出る。元の本に戻ってみたり、更に別に調べてみる。

 最初に気になった事とは、全く違う方向に行ってしまう。気づいたら鎌倉時代から離れて、室町時代の終わり頃まで下がって、そして今は源平合戦直前まで遡ってる。

 『平家物語』『吾妻鏡』『太平記』…

漫画ってすごい。漫画だけではないけど。

 兄に感謝したい‼︎


 部活に、引退した三年生の先輩が来た。

「暇つぶし」

と言っていた。横浜の予備校に通ってて、まだ時間あるからと言った。

 二年生の先輩達と雑談してて、聞くともなく聞いてたら、志望校の話になった。志望校は考古学を学びたいと言った。

 考古学って発掘とか、だよね。歴史に興味あるのかな、と言うか歴史ありきだよね。

 雑談が終わって、先輩が岩本先生が置いていった時代小説を見始めた。

 僕はほとんど話した事ないけど、思い切って声をかけた。歴史が好きなのか、今から学んでもいいものなのか。

「俺はね、小学校5、6年の時の先生が、考古学をやってた人で、かなり影響受けたよ」

 郷土研究クラブの顧問で、史跡巡りに連れていってくれたり、土器を持ってきて触らせてくれたりした。

 何より話が面白くて、当時放送してた大河ドラマや時代劇の解説をその時代を見てきたように話し、授業が脱線するなんてしょっちゅうだった。

「その時間が大好きだったけど、うるさいお母さん達がいてさ、ご注意があったらしくて。あんまりしなくなっちゃって、だから週一のクラブが楽しみだったんだよね」

 先輩は

「これとか」

と岩本先生の“蔵書”を指差した。有名な作家の有名な代表作。映画やドラマになっている。なんなら人形劇も…

 見た記憶ある。小さい頃だけど、祖父が見てた。あれってテレビだった?ビデオ?

 先輩は

『なんにしたって、やりたい時がその時で、今更なんて思わないでやってみればいいんじゃない? それで会わないなと思っても時間の無駄になったりしない。本当にやりたい事を知ることができたと思えばいい』

と言うような事を言った。

 なんか大人。

 先生や父から言われてるみたいな感覚になった。

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