Ⅷ - 2
「倉庫部屋をどうするか知らないけど、キッチンに続く部屋は使えるし、一人だったら十分だと思わない?」
「そうだなぁ」
父は間取りを思い出しているようだった。
「でもさ、お父さんとかお母さんはどう言ってんの?」
そこが一番気になる。
「そこはまだこれからなんだけどさ」
母はお茶をひと口飲むと
「小川くんはお家から離れた方がいいわよ。兄さんも先生もそう言ってる。お父さんの事もだけど、登下校の時間かかり過ぎだし、同じ距離でも一本で来れるならまだいいけど、4回?5回?も乗り換えるのよ。ゾッとしちゃう」
確かに…乗り継ぎが長かったりギリギリだったりしてるみたいだし。乗り遅れて間に合わなくて走ったと言ってた事もある。
「それであの家も、孝太郎さんとこでお願いしてたんだって、だからさ、ちょい安くしてもらえるようにパパお話ししてくれる?」
「あっ、そうなんだ。あいつの事だから、考えてくれると思うけど」
孝太郎さんは父の同級生で、不動産屋の三代目だ。沢田さんの住んでるアパートととかも管理をお願いしている。
「まずはご両親に話さないとだな」
「この前、先生のウチに泊まらせるってなった時、お母さんに下宿の事を考えてみませんかって言ってみたんだって、学校でも斡旋してるじゃない?」
母親によると進学する時、通学が大変だけど大丈夫かと父親に聞かれて、小川本人が大丈夫だと言っていたそうだ。それで父親から下宿とか許さないからなと言われたらしい。
でも、5月に具合悪くなった時は、母が渡した不動産屋のチラシを見たりしてたらしい。前回のサボリは父親に話してないらしいが、今日はまた具合が悪くなって、チラシをくれた同級生の親戚の家でお世話になっていると言うことにしているらしい。
こういうことを見越して、見舞いに行かせたのか…不動産屋のチラシを用意して…
「じゃあ、今日もカフェにいるの?」
「うん、先生もいっしょに」
「通いきれなくて、転校するとかなっちゃてもな」
「ほら、よくとてつもなく遠くの学校に通ってるとかテレビでやってるじゃない?でもあれってどうしても勉強したい学校がそこだから頑張れるんだと思うけど、小川くんの場合そうでもない感じじゃない?」
沢田さんの事かな。
「どうしてここにしたのかな」
「担任が、やっぱり卒業生だったんだって。それで勧められたって。地元の公立のトップ校が第一志望だったけど、こっち受かって公立受験しなかったんだって。だから担任もびっくりしてたって」
「自分で進めておいて?」
「そうよねー」
母は笑った。
大体、公立中学は、高校受験を公立と私立を併願させる。どっちか受かるようにするためだ。単願はあまりない。もちろん両方ダメって場合もある。僕も今の高校受かったから、公立は受けなかったけどね。
「やっぱ、沢田さんがいるから?」
僕は聞いてみた。だって、家を確認するためだけなら、観光ついでで充分だ。
「う〜ん、そうかもね。沢田さんが鎌倉に住んでること知ってて、本当にたまたま偶然、担任から高校勧められたから衝動的に決めちゃったみたいな?」
「ガキだなぁ、やっぱり」
父は真顔で言った。心底そう思っているのだ。母も焼き鳥を頬張りながら、うなずいている。
でも、父親は沢田さんが鎌倉に住んでる事知らないのかな? 知ってたら反対しそうだけど。
「そう、それ。小川くん愛人って言ってたけど、愛人っていうわけじゃないのよ。う〜ん、一夜の過ち、的な?」
小川が以前話していた父親は、外面がいいというか、会社や近隣なんかにも評判がいい。
パワハラ、セクハラなんてもちろんなく、穏やかで男女とも社員の憧れの存在。沢田さんとは部署は一緒ではなかったが、そういう社員に対しても、男女関係なく親しく話しかけてくるような気さくな人だったとか。
会社での様子は、健ちゃんの事があった後、母が沢田さんから聞いていた。
沢田さんは東京の大学卒業後に入社していたが、実家のある神戸の支社に移動を願い出ていて、移動する事になった。それを父親に報告したら、送別会に来てくれた。
「それで二次会にも来てくれて、話してるうちになんか、そうなっちゃったんだって」
「何だそりゃ、想い出作りとか?」
父はあきれている。ちょっと馬鹿にしてる感じ。
僕も聞いてて恥ずかしくなった。親がそう言う話しをしているのもだけど、沢田さん達の事もなんか“ガキだなぁ”じゃないけど、人の事だけど、こっちが恥ずかしくなる。




