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Ⅷ - 1

 体育祭が終わって、すっかりテストモードになり始めた頃、また小川が無断欠席した。


 前回、乗り換え駅の近くの図書館でサボってたと須田と淡路に言っていた。

 実際、登下校途中に時々、立ち寄っていたらしい。書店やカフェもあって便利らしいが、朝に制服の学生がいると不審がられない?と聞かれ、そういう人結構いると言ってた。だから今回もそんな事かな?くらいの反応だった。

 

 青山先生とメール交換していて、2時間目の終わり頃に連絡があったらしい。先生は僕にだけ、今夜カフェに行くと言った。

 今夜って営業後なのかな。ラストオーダーは大体6時半で閉店は7時半。土産店の方は6時頃シャッター閉めちゃう。もう客は来なさそうだなぁってタイミングで閉める。

 カフェも天候や日によって変わるけど、閉店後に近所の人が来たりして、伯父と一緒に飲み会なんてこともある。


 家に帰ると母はいなかった。特に珍しい事でもない。買い物に出て、誰かと会っておしゃべりしてたなんて事がよくある。

 適当になんか食べて、テレビ見ながらテスト勉強した。

 気がつくと7時過ぎていた。キッチンに行き、炊飯器を見ると、もう炊き上がっていた。

それくらいで、夕食の準備をある程度してありますよ、という感じでもない。

 以前はテーブルの書き置きがあったが、最近はメールだ。

 あ、メールね。

 今日はほとんど見てない。小川からなんか来てるかなと確認したくらい。

 “兄さんのところに行くからね。遅くなったら適当に食べてね!ご飯炊けてると思う…スイッチ入れ忘れてなければだけどね”

 伯父のところなんだ。

 なんで? って、小川がらみか。青山先生も行ってるし。

 母を呼ぼうって誰が言ったんだろう。母が伯父とやりとりしてたのかな。先生や伯父も、小川のことで母や僕が知っている事知ったんだろうな。


 父にも連絡済みだったようで、焼き鳥を買ってきてくれた。

 インスタントの味噌汁とご飯と焼き鳥とキュウリの糠漬け。

 食べていると母が帰ってきた。もっと遅くなるかと思ったが案外早かった。

「皆、明日も仕事やら何やらあるしね。って言うか焼き鳥って何よぅ、ぼんじりあるでしょうね」

 母はなんだかちょっと楽しそうだ。叔母が持たせてくれたきんぴらごぼうを出してくれた。

「タッちゃん好きでしょう?って」

「叔母さんもいたの?」

「いたわよ、だって営業中だったもん」

大きい口を開けてぼんじりの串を一本一気に食べた。

「土産の方、閉めちゃって、リビングで話したの」

リビングは土産店の続きの和室でいつも店番の時にいる部屋のことだ。母はリビングと言っている。普通の和室で座卓があってテレビもあり、祖父母がいた頃はテレビが付けっ放しだった。間にガラス戸があるが、これも開けっ放し。

 「なんでママ行ったのよ」

父が聞く。

 そう、それが気になる。

「ほら、裏のチカちゃん家、兄さんが倉庫がわりにしちゃってる」

「ああ、慎江(ちかえ)さん」

「小川くんに貸したらどうかって」

「ほぉ、ああ、それでママに許可?取ったって事?」

「そうそう、宏樹もいいって」

「宏ちゃんも呼んだのかよ?」

「美沙ちゃんに聞いてもらったの」

「だけどさ、兄さんが引き継いだんだから、私達に許可いらないわよって言ったんだけど、そう言うところ律儀なのよね」


 慎江さんは祖母の幼馴染だ。

 小学校からずっと仲良しで、同じ女子高校に行ったが、慎江さんは進学後、すぐに辞めてしまい、その後連絡が取れなくなってしまった。

 慎江さんの父親の経営する会社が倒産してしまい、高校をやめ、働きに出ていた事が後にわかった。

 慎江さんは一人っ子で、“乳母日傘”で育ったので、まったく世間知らずのお嬢様で、働くと言ってもなかなか難しかった。

 父親は地方に働きに行ったが、音信不通になってしまい、母親は慎江さん共々実家に身を寄せた。

 だからと言って、今までのように暮らせるはずもなく、迷惑がられていた。

 父親の会社にいた番頭…この人が乗っ取ったらしいが…の紹介で東京の裕福な家に行儀見習いに入った。

 実際のところ、女中奉公というか家政婦も子守とかなり苦労したようだった。

 祖母と再会したのは、もうだいぶ経って二十七、八歳の頃で、祖母は大船の信用金庫に勤めていた。

 そこに客として慎江さんが来たのだった。

 慎江さんは、その頃、大船の旅館で住み込みで働いていた。

 祖母は気づかなかったが、慎江さんは祖母の胸元の名札を見て気づき声をかけた。

 まったく人相も変わってしまっていたが、その声や話し方、所作がまったく変わってなく、祖母は店頭にもかかわらず大号泣してしまったらしい。

 それからまた付き合いが始まった。

 祖母はすでに祖父と結婚していて、祖父は土産店を継いでいた。

 慎江さんはずっと大船の旅館で働いていたが、身体を壊してしまい、辞めなくてはならなくなった。それでも働かなくてはならず、箱根の旅館で住み込むことになったが、やはり体調が悪く辞めざるを得なくなった。

 土産店の裏に古い平屋建ての家があり、そこを祖父が持っていて借家にしていたが、丁度空いたので、慎江さんに貸すことになった。

 江ノ島近くには土産店、食堂など多くあったのですぐに働くところは決まり、以来ずっと働いていた。

 祖父母は慎江さんより早く亡くなったが、伯父は慎江さんの事を託されていた。

 慎江さんは伯父が産まれる前から住んでいたので、伯父にとっては、母や叔父もだけど、本当の叔母のようなものだったらしい。

 慎江さんが亡くなったのは、まだ五年くらい前だ。伯父がすべて取り仕切って、祖父母と同じ墓に入った。祖母の遺言だったが、慎江さんの両親の墓も不明で、母も叔父も反対する理由もなかったようだ。


 高齢の慎江さんのために、車椅子でも使えるように二間ある和室はフローリングにし、手すりやトイレ、風呂も改修してあり綺麗だ。

 介護保険でできたが、入院したりとあまり使わないうちに亡くなってしまい、今は一部屋を倉庫がわりにしている。


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