6.光芒一閃、武者へ続け
パラパラと石の欠片が防御シールドに降りかかってきて、レウは冷ややかに嘆息した。
「だから、これくらいじゃどうってことねえって……」
手を引く子どもと詰所に向かう最中、子どもが赤く膨らんだかと思うと破裂したのだ。
エディスと分断させるのが狙いだったのかと、道を引き返そうと振り返ったレウは動きを止める。
道路から無数に生えてきた触腕に、トリエランディア大将直下の西部の主要都市でこんな大規模な襲撃をと息を呑む。
触腕はまるで歯のようにおびただしく開いていき、奥から黒い空間が生まれる。
「レウ殿――!」
駆け寄ってきたヒョウに腕を掴まれ、彼ごと空間に引きずり込まれた。
視界が暗転し、空中で放り出される。
広い温室で、レウは着地の体勢を整えようとした。だが、赤く輝くものが目端に入ってくる。
そちらに顔を向けるとヒョウの背中から羽が生えていた。
羽といえど、形状は鳥のような翼ではなく虫の翅に近い。だが不気味さは感じられず、ともすれば見惚れてしまいそうになる美しさだ。
滑空してきたヒョウに腕を掴まれ、減速しながら降りる。
芝生に着地したレウは、顔を顰めて腕で鼻を隠す。ヒョウの鼻と口を手で覆い、すぐに防御魔法を展開させた。
「便利なものだの」
大きな目を丸くさせて瞬きをしたヒョウは感心の声を上げ、満足げにこちらを見てにっこりと微笑む。
その笑顔で、レウは確信に近いものを得た。
「失礼ですが、あなたのご身分は。どこから来たんです」
仲間が魔力を感じられないと言っていたと伝えると、ヒョウは目を大きく見開いた。
「魔力拒否症患者や能力者にもほんの僅かな魔力はある。だが、あなたからはなにも感じ取れないと。なら――……この国の者ではないのではないですか」
「む……これはしくじったか。そも王子にしか話す気は毛頭ないのだが、連れ去られたのではな」
困ったことだと嘆息するヒョウの年の割に冷静さや豪胆さに、一体なにが目的で来たんだと冷や汗が出てくる。
それに、この堂々たる立ち居振る舞い。ただ者ではないだろう。
「なんにせよ、敵地で正体を明かす気にはなれん」
「ここがどこか、検討はつきますか」
「はてな。待っておればジェネアスが捜すだろうよ」
そうだろうなとレウが諦めかけた時、ヒョウの後方にある壁から触腕が伸びてくる。
慌てて助けようとしたが、ヒョウは静かに手を合わせた。
手の先を正面に、親指を天に向けた合わせ方はまるで祈るようで気圧される。
離した手の間から、光に包まれた剣が発現した。
宙に浮いた剣を手に取ったヒョウは腰元で構え、抜き放つ。
瞬きの間に斬り捨てられた幻影魔法が掻き消えていく。
「ほれ、やはり無粋な者がおった」
平然と宣うヒョウに頷きを返す。
触腕は次々と生えてきて、これでは話している暇もない。
ヒョウが抜いた剣で断つ。
反りのある刀身の剣は、今までに見たことがない形状だった。
じりりと足を開いて腰を捻る独特な構え方。間合いを測り、左に構えた剣の柄に手を掛けた。
鋭い眼光で魔物を射る姿は、まるで千軍万馬の古強者。かの大将を思い起こす。
肌が裂けそうな程に張り詰めた空気に魔物が身じろいだ、その一瞬の間。
刃が閃き、魔物を両断した。鮮やかな手並み、切れ味――レウは固唾を飲んでその光景を見つめた。
刃についた血を払って納刀したヒョウが振り向き見る。
「ついて来たまえ、従騎士殿。先導しようぞ」
明らかに場慣れしている。
その齢でこれ程の腕前は己が主であるエディスしか見たことがない。
地に擦れるのではと危ぶむ程に低い体勢で走り続けるヒョウは、つぶさに敵を捉えて斬り捨てた。
翼を持った魔物が上から、下からは触腕や人が襲い掛かってくると、ヒョウは飛来する敵を刃の先から発した光の剣を投擲することで対応した。
「飛行の能力は使わないんですか」と問うと「燃え移る」と言って自分を中心に剣を作り出す。
魔力を持たないのならば《《それ》》も能力だと思われるが――。
(どうして二つも能力を持ってるんだ……!?)
一人の人間が二つも能力を持つなど聞いたことがなかった。翼を変形させて剣に変えているようにも見えない。
「人に見せておるのは全てまやかしじゃな」
低い体勢で走る飛踊を呆然と見ていると、冷静に問われる。
「なんだ、呆けているようだがどうしたのだ」
「……お強いですね」
「当然だ、私の稽古相手は主らが大将と呼び慕う者。強くもなろう」
手の内を見せてくれているのは信頼か、それとも歯牙に懸ける程でもないのか。
さあ次がくるぞと言う飛踊の後を追いながら、レウは奥歯を噛み締めて己が主を想った。
(エディス様は一体どこにいるんだ……!?)




